宮武弁護士からのご質問への回答の序として

お断りと公開停止措置への抗議
宮武弁護士から、私に対して下記のような質問がブログにアップされました。
「ロシアに対する即時撤退を求めNATO加盟国からウクライナへの軍事支援を認める」立場から、「両国に対して即時停戦を求めNATOからウクライナへの軍事支援を否定する」白井邦彦先生にご質問します。 - Everyone says I love you ! (goo.ne.jp)
 実はその前にもご質問がなされたブログ記事があったのですが、一時公開が停止されるという事態になりました。そうした事情故それに対する回答は控えていた次第です。その点まずお断りしておきます。
 
 なお当該記事の公開停止措置ですが、私もこの措置には納得できずこの件に対する公開停止措置に強く抗議します。詳細は宮武先生のブログ記事に書かれていますが、それを読んでも「公開停止措置の理由があいまい」といわざるをえません。あいまいな理由で言論表現の自由を奪うのは「自己抑制させて言論を委縮させ、『自発的に』言論の幅を狭めていく」という言論抑圧の常套手段できわめて危険なことです。そうした理由から今回の公開停止措置に対しては強く抗議します。同時に公開停止措置を行った側に対しては今後こうしたあいまいな理由で公開停止措置を行うことがないように強く求めます。まず公開停止措置に対する強い抗議とそれを行った側の今後の対し強い希望を述べておきます。

 さて宮武弁護士の今回アップされたブログ記事の質問事項ですが、多数ありますので、何回かに分けてお答えしたく思います。今回はそれぞれに対する回答にあたっての「序」という位置づけで、私の視点を述べておきたく思います。質問項目には別個それぞれ回答したく思います。

1、ロシア・ウクライナ戦争の性格
 ロシア政権による侵略で国際法違反であることは明白です。同時に米・NATO対ロ(とりわけ米ロ)の代理戦争という面があることは否定できないとみています。こうした双方の性格をもつ戦争として私はロシア・ウクライナ戦争をみています。
2、軍事支援について
 軍事紛争が生じたら本来は国連が対応すべきですが、対応しないできない場合はどうするか?私は基本的にすべての軍事紛争について「武力には武力でには反対、即時停戦・和平交渉での解決をめざすべき」という立場です。軍事支援については停戦実現までの犠牲を最小限に抑える範囲で、かつ停戦実現の手段としてのみきわめて例外的に許容されるのみ、と考えます。
 今回のNATOの軍事支援は明らかにこの範囲を超えていると考えます。
3、国民主権原理との関係
 国民主権原理からは、「その国の市民の総意であっても他国市民が軍事支援要求に応じる義務」、までは出てこない、と思います。ゼレンスキー政権の「徹底抗戦・全領土武力奪還」の方針には「他国からそれに必要な軍事支援を受けること」が含まれています。現実問題として他国からの軍事支援なしでは、「徹底抗戦・全領土武力奪還」など全く成り立たないばかりか、ロシア軍に領土を大幅に占領されてしまうでしょう。「たとえそれがその国の市民の総意であったとしても、そこに他国への軍事支援要請が含まれている場合の対応はどうあるべきか、特に侵略国と侵略された国の間に国力軍事力に大きな差があり、他国市民が軍事支援要請をただ断るだけでは侵略が成功してしまう場合どうするか」という観点からも考えています。
4、国際的位置関係での私たちの置かれている立ち位置の問題
 ゼレンスキー政権の「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針において、軍事支援を求める先は国際的位置関係から「米欧日」です。つまり私たちは国際的位置関係において、「軍事支援を求められる」立ち位置にあります。私たちはそうした立ち位置にあることを視野に入れて考えています。
5、ベトナム戦争との関係
① 核使用の危険度に関しては、ベトナム戦争とロシア・ウクライナ戦争では質的に大きな違いがあります。ベトナム戦争に限らず核保有国が撤兵を余儀なくされた事例は少なくありませんが、これまでは核使用はなされていません。核使用には高いリスクがあることは確かです。しかしそのレッドラインがあり、ロシア・ウクライナ戦争においてはその「レッドライン超え」の危険はベトナム戦争その他と比べてもきわめて大きい、と認識しています。
②ベトナム戦争とロシア・ウクライナ戦争では私たちの立ち位置に大きな違いがあります。ベトナム戦争では私たちはアメリカの侵略に加担する立ち位置にありました。ロシア・ウクライナ戦争では。軍事支援を求められる立ち位置にあります。その違いも認識すべきと思います。
③ベトナムへの軍事支援問題との比較ですが、議論においてはひとつは上記の「立ち位置の違い」を考慮すべきと思います。もうひとつベトナム戦争における軍事支援問題は「軍事支援を受けると後々高くつく」の事例とも考えています。時系列には逆になりましたが、ウクライナもイラク戦争において、イラクから軍事攻撃されたわけでもその危険があるわけでもないのにイラクに派兵しました。いうまでもなく当時のウクライナ政権の対ロ姿勢と対米重視姿勢からです(この点最も露骨だったのは開戦時より派兵したポーランドですが)。ベトナム戦争後のソ越・ロ越関係を考えると、「一度軍事支援を受けると後々その国に頭があがらない」は否定できない側面とみています。
 なおベトナム戦争ですが、「アメリカの侵略は絶対許せないこと」はずっと変わりませんが、見方に関しては変化した点があります。特に「ソ連などの軍事支援を受けて」という点については、のちになってですが、ベトナムの戦いにかなり幻滅を感じた、は率直なところです(ホーチミンが東ドイツ兵と仲良く写っている写真をみたときも「東ドイツがどのような国か知らないはずがないのに」とショックでした)。

 今回は質問に対する回答の序としてのもので、詳しくは次回以降回答していきたく思います。

白井邦彦
青山学院大学教授


 

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