「日本でもレッドパージを」のグレンコ・アンドリー氏の危険な主張!

劣化ウラン弾の健康リスク、米国防総省がロシアに反論 (msn.com)(9/8)
  アメリカの劣化ウラン弾のウクライナ供与に伴って、アメリカ側は「健康リスクはない」としきりに宣伝しています。先のイギリスによる劣化ウラン弾供与の際にも「健康リスクはない」「まだ健康リスクに関しては確定されていない」といった健康リスクを否定ないし過小評価する言説がしきりになされました。
 侵略したロシア政権側に批判する資格はないのは当然ですが(さらにロシア軍側も使用している)、今回のアメリカの説明を額面通り受け取れないし、それをそのまま無批判に報じるのもいかがかと思います。
劣化ウラン弾はどういうものですか(FAQID-5801) - よくある質問と回答|広島市公式ホームページ|国際平和文化都市 (hiroshima.lg.jp)(3/31、更新)
「アメリカ軍などは湾岸戦争、ボスニア紛争、コソボ紛争、イラク戦争などで、劣化ウラン弾を使用しました。劣化ウランとは核兵器の製造や原子力発電で使われる天然ウランを濃縮する過程で生じる放射性廃棄物で、天然ウランよりウラン235の割合が少なくウラン238の割合が高くなったものです。劣化ウランの成分の約99.8パーセントはウラン238で、その放射能が半分になるまでの半減期は45億年です。劣化ウランは密度が高い物質で、極めて重いため、戦車の厚い装甲を破壊する砲弾や戦車の装甲などに利用されています。劣化ウラン弾頭が着弾し、あるいは劣化ウラン装甲に被弾することによって劣化ウランが燃焼すると、酸化ウランの微粒子となり周囲に飛散することから、放射線による人体や環境への影響が危惧されています。劣化ウラン弾の人体や環境への影響については、今後国際機関等の調査の動向を引き続き見守っていく必要がありますが、本市としては、そうした危惧や懸念がある以上、国際人道法の諸原則に沿って対処すべきことから、使用すべきではないと考えています。」(同Q&A、から直接引用)
  広島市ではこのような説明がなされています。
 ロシア政権の侵略は許されずロシア軍は撤兵すべき、と私は強く常に思っていますが、クラスター弾・劣化ウラン弾の使用の段階まできた以上もう即時停戦しかない、とも同時に強く考えています。ましてや過去になされた「中ソの側の核兵器はきれいな核兵器」的な、「アメリカの劣化ウラン弾は健康被害はない」といった議論はすべきではない、と訴えます。

 ロシア政権による侵略以後、在日ウクライナ市民ということもあり、ナザレンコ氏とともに、グレンコ・アンドリー氏の発言発信もよく肯定的に紹介されています
(グレンコ・アンドリー氏についての下記の記事での紹介です。
【グレンコ・アンドリー】 1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で『ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか』で優秀賞受賞。月刊情報誌 『明日への選択10月号』(日本政策研究センター)に『日本人に考えてほしいウクライナの悲劇』が掲載。」(下記SPAの記事より直接引用)、なお同氏は「徹底抗戦、日本も武器供与を」という「勇ましい」発言をされていますが、年齢からいって動員対象年齢なのですから、現在は当然ウクライナで兵役に就いておられる、と思っていましたが、「東京での講演会の告知。(対面・オンライン併催)演題『長期化するウクライナ戦争と国際情勢』日時 9月15日(金)18:30-19:30会場 令和アカデミー俱楽部 新橋校東京都港区新橋2-4-1主催 令和アカデミー俱楽部」(同氏facebookから直接引用)というように頻繁に日本で講演を行っています。ご自身は戦地には行かないのでしょうか?)

 さて、そのグレンコ・アンドリー氏執筆の記事です。
共産党を解散させ、プロパガンダも法律で禁止! ウクライナに学ぶ、共産主義を排除する方法 | 日刊SPA! (nikkan-spa.jp)(18年10/12)
「日本はいつまで国内の共産主義を野放しにするのか

 それに対して日本はどうだろうか。日本が受けた共産主義の被害はウクライナと同じく大きいが、その形は違う。ウクライナは直接的な暴力を受けたのに対し、日本は主に謀略や洗脳工作という形で被害を受けている。また、ウクライナのように、記念碑や地名という目に見える形の共産主義の痕跡は日本にはない。しかし、組合など様々な左翼団体は間違いなく共産主義の痕跡と言っていいだろう。また日本の教育界、メディア界や政界に多数存在する共産主義者は、日本を雁字搦めにし、国家発展を妨害している。  
 この状況をいつまでも野放しするわけにはいかない。だから日本もウクライナと同じく共産主義の排除を行うべきなのではないだろうか。ウクライナは思想弾圧のために非共産化を行っているのではない。今まで想像を絶するほどの被害を受けていることが、非共産化の理由である。  
  日本もウクライナと同様に被害者であるから、非共産化を行う合理的な理由はあると言える。非共産化に対する理解が日本社会に広まるには、先ず日本がどれほど共産主義に苦しめられたかという事実を国民に知ってもらわなければならないと思う。  
 それを知った上で、ウクライナが受けた被害と現在ウクライナで行われている非共産化の政策もある程度参考になるのではないかと思う。史実を知れば、非共産化政策に反対する人はさほど多くなくなるだろう。極悪非道の共産主義イデオロギーに終止符を打つ時が迫っているのではないだろうか。」(同記事より直接引用)
  以上のようにウクライナの「共産主義プロパガンダ禁止法」を肯定する立場から、「日本もそれに学びレッドパージを」と露骨に主張しています。こうした観点はロシア政権による侵略以降も一貫しているとみていいでしょう。
「日本もレッドパージを」までもがゼレンスキー政権、その他マイダン政変以後のウクライナ政府の公式見解とはとても思いたくありませんが、ウクライナではこの記事にあるような「共産主義プロパガンダ禁止法」が制定されていることは事実です。私は「ロシア政権による侵略は許せず強く非難する」立場ですが、同時に「だからといってマイダン政変以後のウクライナ政府・ゼレンスキー政権も支持できない」という立場でもあります。その大きな理由のひとつが、この「共産主義プロパガンダ禁止法」の存在です。ここで紹介されている内容を読めばわかるように、かなり包括的なものです(なお包括的ものではなく、例えば「共産党非合法化」だけならいいのか、といえば、思想信条言論の自由の侵害、そうした禁止規定は乱用される、ことから、反対、です。「ウクライナ:共産党非合法化 言論の自由に大打撃 : アムネスティ日本 AMNESTY)(15年12月25日)参照)。
 経済学の大学教員の観点からすれば、これではマルクスやレーニンの経済思想を研究したり、それを講義の中で紹介することも躊躇せざるをえないような、学問研究に非常に制約を課すもの、とみなさざるをえません。それゆえマイダン政変以後のウクライナ政府の同法には、大変な疑問をもっており、マイダン政変以後のウクライナ政府についてはどうしても支持できません。なおゼレンスキー政権ではほぼすべての野党が「親ロ政党」とのレッテルを貼られ活動禁止になっていますが、戦時ということもありますが、そこには、やはり「共産主義プロパガンダ禁止法」のような法律を制定してしまうという、ウクライナ政府の体質を私は感じざるをえません。
 同時にグレンコ・アンドリー氏の下記の記述も気になります。
「ステパーン・バンデーラ(1909-1959)とは、ウクライナ民族主義運動の指導者であり、ウクライナ独立のために生涯をかけた人である。彼はポーランド、ナチスドイツ、ソ連と戦っていた。そして、1959年にKGBの工作員に暗殺された。彼はソ連のプロパガンダによって悪魔化され、ソ連時代にはソ連の最悪の敵として教えられた。ソ連崩壊後でも、ロシア連邦において、バンデーラは憎悪の対象として、宣伝された。またロシアで『バンデーラ主義者』という言葉は『過激な民族主義者』という意味で、極めてマイナスな文脈(人を罵倒する時など)で使われている。
    ・・・・・・
特に、先述したステパーン・バンデーラがトップを勤めていた政治団体『ウクライナ民族主義者組織』(ウクライナ語:Організація українських націоналістів)の評価やその武装組織、1942年から1955年までウクライナ独立のために戦っていた民族ゲリラ、『ウクライナ蜂起軍』(同:Українська повстанська армія)の評価が変わってきた。それまでにウクライナ民族主義者組織とウクライナ蜂起軍について、『評価は定かではない』、『良いか悪いか、一概に言えない』という評価は言論空間に主流だったが、今は『ウクライナ独立のために戦っていた英雄達』という評価が確定し、法律でも定められている。」(上記グレンコ・アンドリー氏の記事より直接引用)
 ここで紹介されているバンデーラが、スターリンの下でのソ連のウクライナ抑圧に対抗するためであったとはいえ(「敵の敵は味方」)、一時ナチスに協力したことは否定できない歴史的事実です。それを考えるとバンデーラなどを英雄視することを法律で定めている、ウクライナ政府の姿勢にもかなりの疑問をもちます。同時にそれをそのまま肯定している、グレンコ・アンドリー氏のこの言説にも危険なものを感じてなりません。
 その政府にどのような問題があろうとも、その国への侵略を正当化する理由にはなりません。その意味でロシア政権による侵略は全く認められない、強く非難します。一方不当な侵略を受けたからと言ってその国の政府の問題点が免責されるわけでもありません。その観点から、マイダン政変以後のウクライナ政府・ゼレンスキー政権はとても支持できない、ロシア政権の侵略は強く非難する一方でゼレンスキー政権とは距離を置くべき、も私のスタンスです。
 さらに、「在日ウクライナ市民の主張」だからといって、そのまま賛美し肯定的に扱っていいのか、との疑問も強くもっています。
 グレンコ・アンドリー氏については、この間その言説がかなり肯定的に紹介されていますが、その危険な主張にもしっかり目を向けるべきではないでしょうか?
ナザレンコ氏に対するのと同様、グレンコ・アンドリー氏に対する無批判的な賛美・肯定はいかがか?と感じてなりません。

付記
私がマイダン政変とそれ以後のウクライナ政府・ゼレンスキー政権を支持できないのは、「共産主義プロパガンダ禁止法」「バンデーラなどの英雄視」だけではありません。マイダン政変については、「当時の大統領にかなり問題があったのは事実だが、正規の選挙で正当に選出された大統領の追放であること、その過程にアメリカの介入があること、等々」があります。それ以後のウクライナ政府に関しては、汚職問題、新興財閥との関係、経済労働政策などの問題もあります。

白井邦彦
青山学院大学教授
 






 

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