93%対64%(対20%)、寄り添うべき「意識」とはどのような「意識」なのか

 前回イスラエルによる震災を受けたシリアへの攻撃についてふれましたが、その12日もイスラエルによる震災を受けたシリアへの攻撃がありました。
イスラエル軍、シリア空爆:時事ドットコム (jiji.com)(3/12)
 イスラエルのこの攻撃はあまりに非人道的ではないでしょうか。筆者が知っているだけでも震災後イスラエルによるシリア攻撃はこれで三度目です。なぜ強い非難がおこらないのか、国連での非難決議があがらないのはなぜか、ゼレンスキー政権への軍事支援を容認する人たちはこの行為に対してどのような対応をとるべきと考えるのか、どこの国が行っても不当なことは不当、非人道的なことは非人道的、となぜならないのか、さまざまな疑問が生じます。

 表題の数値ですが、ウクライナの国内に残った市民に対するアンケート結果の数値です。最初の93%は下記の数値です。
国末憲人 Kunisue NoritoさんはTwitterを使っています: 「「ミュンヘン安全保障会議」の事務局は13日、ウクライナ国内で昨年11月に実施した世論調査の結果を明らかにしました。回答者の93%が「クリミア半島奪還まで戦うべきだ」と考えており、ロシアの占領を拒否する国民の姿勢が鮮明に表れています。短い拙稿。 https://t.co/S7eWl8ae2Z #ウクライナ情勢 」 / Twitter
 国末氏が引用するアンケートでは国内に残ったウクライナ市民の93%が「クリミア奪還まで戦うべき」と答えています。
 しかしウクライナの国営通信社Ukrinformは国内にいるウクライナ市民に対する興味深いアンケート結果を配信しています。
ウクライナ国民の過半数、軍事手段でのクリミア解放を支持 (ukrinform.jp)(3/13)
  「西側の軍事支援が減ることになっても」という制約条件を付けると、「クリミアまでの軍事奪還」の支持は64%に減ります。そして何らかの譲歩を認める回答も一定数出てくることがわかります。
  国末氏は下記のように述べて「即時停戦論はウクライナ市民の意識を代弁するものではない」と断じました。
国末憲人 Kunisue NoritoさんはTwitterを使っています: 「ウクライナ国民のほとんどが「戦う」と答える意識は、現地取材で得た感触とも一致します。相変わらず一部で根強い(欧州ではそうでもないが)即時停戦論は、少なくともウクライナ人の意識を反映してはいないでしょう。どこか別の人の意識を代弁しているとしか思えません。」 / Twitter
 ただ「西側の軍事支援がどこまで得られるか」でウクライナ市民の意識は変わっています。ちなみに両調査ともウクライナ国内の市民対象ですが、東大作先生が国外に避難したウクライナ市民10名(すべて女性)にインタビューしたところ、「クリミアを含めすべて軍事奪還」2名、「少し領土を譲ってでも早く停戦」2名、「2/24のラインまでは戦って取り戻すべきだが、クリミアを含め残りは交渉で」6名、だったとのことです(『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』p96、)。確かにわずか10名のインタビューの結果ですからそこから判断はできませんが、国末氏が引用しているアンケート結果とはかなり異なる傾向を示しています。10名中6名が答えた「2/24のラインまで奪還、残りは交渉で」は国末氏が引用するアンケートではわずか7%の支持です。
国末憲人 Kunisue NoritoさんはTwitterを使っています: 「昨年2月の侵攻開始時点の境界へのロシア軍退却を停戦条件としたのは7%、ロシア軍が占領したままの停戦を求めたのは1%にとどまりました。95%は「通常兵器の攻撃が続いても戦う」と回答。89%は「ウクライナの戦場や都市で核兵器が使われても戦い続ける」と答えました。」 / Twitter
 ウクライナ市民の意識といっても、国内な国外かといったおかれている状況の違い、とともに、なによりも「軍事支援がどこまで行われるか」の制約条件、によってかなり回答が異なっており、「西側の支援の減少」という制約条件を付けると、ウクライナ市民の中でも「なんらかのレベルの譲歩はやむをえない」という層も少なくないことがわかります。
 この結果をどうみるべきでしょうか(なお「西側の支援の『減少』」だけでなく「西側の支援が『なくても』」も設問にいれてほしかった、その場合のウクライナ市民の回答はどうなったであろうか?)。
 ウクライナ市民の「クリミアまで武力奪還」という意識は、「米欧日の必要な軍事支援がなされる」を前提としたものと思います。その場合支援をする側の市民の意識は無視していいのでしょうか?「クリミアまで武力奪還」、という場合どのくらいの期間どのくらいの軍事支援が必要なのか、さらに軍事支援の質として武器供与だけですむのか、派兵も必要とならないか、軍事支援国が派兵まで行ったら少なくとも世界大戦は確実だがそれもやむなしなのか、さらに核戦争の危機も無視できないがそれでいいのか、そうしたことを含めて考えた場合軍事支援国の市民の意識はどうなのでしょうか?それでも「クリミア武力奪還まで軍事支援賛成多数」でしょうか?
 即時停戦や和平交渉での解決を主張すると、「ウクライナ市民の意識を無視している」との批判が常になされます。私もそのような指摘を受けたことがあります。ただウクライナ市民の意識といっても、おかれている状況とともに、「軍事支援がなされるかどうか」でかなり違っています。ウクライナの戦いが米欧日の軍事支援に依存している以上、「ウクライナ市民の意識を考えよ」という議論に対しては、戦いの状況に対する軍事支援国の市民の意識を無視していいものではない、「意識を考えるべき、寄り添うべき」という場合、どのような制約条件におけるウクライナ市民の意識なのか、を考えるべきだし、軍事支援国の市民の意識・戦争により影響をうけている国々の人々の意識、すべてを考慮にいれるべきと思います。
 軍事支援、武器供与については下記のように疑問の声が大きくなりつつあり、「武器供与より和平交渉を」という流れもこの間強くなっています。
「ウクライナに武器を送るのはもうやめよ」ドイツの左派政治家の主張が右翼からも支持されている理由(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース(3/13)
ウクライナ支援の世論に暗雲の背景 注目される岸田文雄首相の外交努力 三牧聖子・同志社大学大学院准教授〈AERA〉(AERA dot.) - Yahoo!ニュース(2/24)
  即時停戦・和平交渉による解決、という方向は、意識の面においても、上記の人々の最大公約数的意識と大きくはずれているとはいえない、と考えます。

白井邦彦
青山学院大学教授
  
 

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