「パレスチナ問題」の「和平交渉・平和的解決」主張は批判されないのに、「ロシア・ウクライナ戦争」でそれを主張すると、批判されるのはなぜか?

 イスラエルによる長期にわたり今なお続く国際法違反・数えきれない蛮行は決してゆるされない、しかし「武力には武力」でという方法は支持できない、それがどんなに困難なものであろうとも、「和平交渉・平和的解決」を望みます。以下に示されるように、パレスチナ市民の過半数以上が「武装闘争」支持、「交渉での解決支持」はわずか20%、であろうと、やはり、「和平交渉・平和的解決」を主張します。
オスロ合意から30年、「合意前より悪化」64% パレスチナ人調査:朝日新聞デジタル (asahi.com)(9/15)
 猪野弁護士もそのブログ論考でやはり、武装闘争ではなく、「平和的解決」を下記のように主張されています。
「やはり武力行使で解決できるのかといえば、軍事力では圧倒しているイスラエルに適うはずもありません。・・・・・
 パレスチナ人民が武力闘争をすればどのようなやり方をやろうとも犠牲が増えていくだけ、むしろさらなるイスラエル軍の報復により多数の死者が出るという状況です。」「民主主義を守ると言いながら民主主義とは無縁のウクライナを支援、イスラエルに虐げられているパレスチナは見向きもしない - 弁護士 猪野 亨のブログ (fc2.com)」より直接引用)
  パレスチナ問題の「和平交渉・平和的解決」を主張に対しても、また猪野先生の上記の主張部分に対しても、少なくとも日本では批判がなされることはないし、むしろ当然のこととして受け止められています。
 しかし「ロシア・ウクライナ戦争」について、「和平交渉・平和的解決」を主張すると凄まじい批判がなされ、「ロシア政権の味方だ」というレッテルが貼られます。それはなぜなのでしょうか?
  パレスチナ問題の「和平交渉・平和的解決」についても、ロシア・ウクライナ戦争について言われていることに即せば、次のような批判がなされてもいいはずです。
 「そもそもイスラエル・パレスチナ双方の主張の隔たりが大きく、『和平交渉・平和的解決』など不可能」「イスラエルの長年にわたる国際法違反はどうなるのか、侵略国イスラエルを許さないことは国際法・国際秩序を守るうえで必要だ、侵略国に妥協がなされるおそれがある和平交渉・平和的解決など、国際法・国際秩序維持の観点からおかしい、イスラエルの侵略得にもなりかねない」「イスラエルが米国の軍事的支えで軍事力で現在圧倒しているのは確かだが、そうであれば国際法・国際秩序を守るため、それを上回る手厚い軍事支援をパレスチナに各国は行うべきである、国際法違反・侵略、武力による現状変更を許してはならない」「パレスチナのことはパレスチナ市民が決めることであり、部外者が『和平交渉・平和的解決』などということは僭越だ」「武力闘争では多くの犠牲が出るというが、ではイスラエルの占領地・軍事支配下での現在およびこれからもなされる犠牲をどう考えるのか、そちらは考慮しなくていいのか」「『和平交渉・平和的解決』に舵を切った場合の、将来のパレスチナ市民の犠牲の可能性を考えるべきではないか、犠牲については現時点だけでなく、将来も含めて考えるべきである」「イスラエルとの間で『和平交渉・平和的解決』といっても実際長期にわたりイスラエルは国際法違反を繰り返しており、何らかの『和平合意』が一時的になされても、イスラエルが順守し続けるとは考えられない、それはこの間のイスラエルの行動が見事に示している」
 パレスチナ問題について「和平交渉・平和的解決」の主張に対して、こうした批判はなぜなされないのでしょうか?上の文章のイスラエルをロシア政権に、パレスチナをウクライナに変えれば、全て「ロシア・ウクライナ戦争」について、「和平交渉・平和的解決」を主張する意見に対する批判として出されたものです。
 パレスチナ問題について、「和平交渉・平和的解決」を主張しても批判はされない、当然のこととされる、一方「ロシア・ウクライナ戦争」でそれを主張すると厳しい批判がなされる、が私にはどうしてもわかりません。
 「背景が違う」「状況は複雑」という反論がなされるでしょうが、明確な国際法違反に対して、「背景の違いや状況の複雑さ」という議論を持ち出してしまうと、国際法秩序が骨抜きにされるのではないでしょうか?それは、ロシア・ウクライナ戦争においても、主張されていることです(私は戦争・軍事紛争の複雑な背景はしっかり分析・理解すべき、と思います。ただしそうであっても国際法違反は国際法違反として明確に位置付けるべき、ロシア政権による侵略の背景にNATOの東方拡大・ウクライナにおける民族問題などがある、とは私は思いますが、だからといってロシア政権による軍事攻撃は明確に国際法違反の侵略行為・それ自体はなんら免責されない、と強く主張します)。
 昨年のものですが、下記のような論考もあります。
「驚くほど偽善的」欧米のウクライナ対応、中東からは怒りの声 - NewSphere(22年4/11)
「バイデン政権は先月23日、ロシア軍がウクライナで戦争犯罪を犯したと宣言し、侵略者を裁判にかけるために他国と協力していくと発表した。だが、アメリカは国際刑事裁判所に加盟しておらず、自国や同盟国であるイスラエルを対象とする国際的な調査には断固反対の立場を取っている。
 2015年にロシアがアサド大統領側に立ってシリアの内戦に介入し、政府軍による都市への攻撃で住民を飢餓に陥れる動きを支援したとき、世界で怒りの声があがったものの具体的な行動はみられなかった。ヨーロッパに逃れようとしたシリア難民は命がけの航海で命を落としたり、西側文化への脅威というレッテルを貼られて追い返されたりした。
 イエメンでは、サウジアラビアが主導する連合軍とイランが支援するフーシ派の反政府勢力との数年にわたる過酷な戦争により、1300万の人々が飢餓の危機にさらされた。ところが、幼児が餓死するという痛ましい報告がなされても世界の関心は持続しなかった。
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 パレスチナ人が将来の国家建設を求める土地をイスラエルが占領して60年が経過した現在、数百万人ものパレスチナ人が軍事支配下に置かれた先行き不透明な生活を送っている。パレスチナ人が中心となるボイコット運動を制限することを目的とした法律をアメリカ、イスラエル、ドイツは制定しているのに、マクドナルド、エクソンモービル、アップルなどの大企業がロシアでの事業を停止すると賞賛を浴びている。
 ウクライナの人々が火炎瓶を貯め込み、武器を取ってロシア軍と戦う姿に対し、世界中のSNSで賞賛の声があがっている。ところがパレスチナ人やイラク人がこれと同じことをするとテロリストとみなされ、正当な標的となってしまう。
 2003~11年にイラク反乱軍の一員としてアメリカ軍と戦ったシェイク・ジャバー・アル・ルバイ氏(51)は『当時同盟軍だったウクライナを含め世界中がアメリカの味方をしていたときも、我々は占領者に抵抗した。世界はアメリカ側に立っていたので、我々は賞賛を浴びることもなければ愛国的なレジスタンスとも呼ばれなかった』と話す。代わりに、反乱軍が持つ宗教的な側面が強調されたことについて『これはもちろん、私たちが劣った存在であるかのような印象を与えるダブルスタンダードだ』と言う。
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 中東はいつも暴力にまみれているという考え方が広く浸透しているため、彼らの苦しみが軽視されていると感じている人は多い。多くの困難な紛争を作り出し、それが永続する責任を西側が負っていることは意識されない。
 パレスチナ外交研究所でアドボカシー・ディレクターを務めるイネス・アブデル・ラゼック氏は『植民地主義の産物に、私たちが殺害され、家族を悲しませることがあっても、西側と比べるとごくありふれた光景だという考え方がある』と述べている。」(上記論考から直接引用)
 こうした中東の人たちの米欧(日も含まれる)に対する「驚くべき偽善」という怒りの声を私たちはどう聞くのでしょうか?
  繰り返しますが私には、パレスチナ問題で「和平交渉・平和的解決」を主張しても批判もされないし当然のこととされる、しかし「ロシア・ウクライナ戦争」でそれを主張すると、強く批判され「ロシア政権の味方だ」というレッテルが貼られる、がどうしてもわかりません。
 どなたかご教示いただければ幸いです。

白井邦彦
青山学院大学教授




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