命の大切さと比べれば「たかが領土」、難民問題を考えたら「まず即時に戦闘をやめさせるべき」ではないか-宮武弁護士の質問への回答として、3-

 宮武弁護士からの私へのご質問は下記の次第です。
「ロシアに対する即時撤退を求めNATO加盟国からウクライナへの軍事支援を認める」立場から、「両国に対して即時停戦を求めNATOからウクライナへの軍事支援を否定する」白井邦彦先生にご質問します。 - Everyone says I love you ! (goo.ne.jp)
 今回はそのうち、以下のご質問に答えたいと思います。
「14 白井先生は「たかが領土」のために戦争を継続して犠牲者を増やすべきではないとおっしゃいますが、その土地がなければ人間は暮らしていくことができず、ウクライナ人は国外に800万人、国内に500万人あわせて1300万人もが難民になっているのをどうお考えになりますか。」(ブログ記事より直接引用)

 「たかが領土」とはあくまで「命の大切さと比較したら」ということです。「その土地がなければ人間は暮らしていけない」は全くそのとおりですが、その大前提として「生きていく」「命を失わない」ということがあります。
 あと「たかが領土」の言葉には、「たかが領土をとるためにロシア市民の命を犠牲にさせるな」というプーチン政権への批判が当然含まれています。プーチン政権の侵略は全く容認できない、ましてや「たかが領土」をとるために自国市民の大勢の命を犠牲にしているプーチン政権についてはその点からも強く非難する、私はその意味も込めているつもりです。同時にゼレンスキー政権についても、「命の大切さと比較したら」「たかが領土」のために自国市民の命を犠牲にする対応は疑問、「命の大切さ」を考えたら「即時停戦、領土は和平交渉での回復」とすべきと主張したく思います。
 なお、プーチン・ゼレンスキー両政権とも、ウクライナ領土内の戦場でクラスター弾・劣化ウラン弾を使用しています。そうした兵器を使用してしまったらその領土はどちらがとっても結局使えません。プーチン政権とともに、残念ながらゼレンスキー政権も占領地に関して「たかが領土」と思っているのではないか、と考えざるをえません。

 多数の難民の問題はご指摘のように大変重要な問題です。ただ「戦闘が続く限り」難民問題は解決しません。だから「即時停戦」でまず戦闘を止める、そのうえで「和平交渉により早期に解決をはかる」ことが必要なのではないでしょうか?
 米軍制服組トップミリー氏の発言です。
ウクライナ反攻「失敗とは程遠い」、戦闘は長期化=米軍トップ | Reuters(7/18)
「ミリー氏は記者団に対し、ウクライナの反転攻勢は「失敗とは程遠い。そのような判断を下すのは時期尚早だ」と述べた。ただ「今後、多くの戦闘が予想される。長期的に血みどろの戦いが続くとの見方を変えていない」と語った。」(上記記事より直接引用)
 「ウクライナの反転攻勢は失敗とはいえないが、これからも長期的に血みどろの戦いが続く」と述べています。つまり「武力には武力で、徹底抗戦・全領土武力奪還」方針では、たとえそれが「成功する」としても、かなり先のことでいつになるかわからない、というわけです。現在のゼレンスキー政権の方針では、結局難民となっている方々は、それまで「難民のままでやむをえない」ということになってしまいます。
 戦争の長期化で例えば下記のような深刻な問題も生じています。
ウクライナ避難孤児、養子縁組進まず…里親に見放され「トラウマ」抱える子も : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)(7/18)
「ロシア軍の侵略を受けてウクライナから外国に避難した孤児たちの養子縁組が進まず、受け入れ国も対応に苦慮している。ウクライナ政府が戦争の混乱で手続きを停止しているためだ。侵略の長期化で子どもたちの将来は一層不透明になっている。(イタリア北部ロータ・ディマーニャ 笹子美奈子、写真も)」(同記事から直接引用)
 ゼレンスキー政権の手続きの問題もあるかもしれませんが、戦争が長期化する中でこうした問題はさらに深刻さを増すと思います。難民を受け入れている国の財政負担の問題も大きなり、長期化でさらにその問題も無視できないくなっています。難民に関して様々な国で様々な問題がすでに生じていると思われます。「いつの日か全領土武力奪還がなされる、みんなでそれまで耐えがんばりましょう」でいいのでしょうか?そもそもそれで済む問題・レベルでしょうか?一日も早い対策が必要です。
 もちろん「即時停戦、和平交渉で早期の解決」がなされたら自動的に難民問題が解決する、という単純な問題でないことも承知しています。ただ「戦闘が続く限り解決しない」は確か、そして「現在の徹底抗戦・全領土武力奪還方針では、いつまで戦闘が続くかわからない、長期化必至」です。私が「即時停戦・和平交渉での解決を」と主張するのは、当然その点「をも」考えてのことです。
 ウクライナ国内の占領地ではすでに双方により劣化ウラン弾・クラスター弾が大々的に使われてしまいました。もちろん侵略したプーチン政権が一番悪い、ロシア軍による侵略のための劣化ウラン弾・クラスター弾使用など全く許せません。ただそれに対抗するためといえゼレンスキー政権の側も劣化ウラン弾・クラスター弾を使ってしまいました。繰り返しますがその土地はもう使えない、その土地にはもう帰れない、です。戦闘が続き激化する限りそうした悲劇は深刻化していきます。
 難民問題を真剣に考えるなら、「まず即時に双方に戦闘をやめさせるべき」、それゆえ「即時停戦・和平交渉による早期の解決」ではないでしょうか?

白井邦彦
青山学院大学教授


 



 

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