ウクライナ支援デモで「軍備増強」を訴えるプラカードも、「軍事支援→支援国の軍拡」でもいいのか、国連ではロシア非難決議提出されず・・・

ロシア政権のウクライナ侵略から2年がたちました。この間多くの方々が貴重な命を落とされています。命を落とされた全ての方々のご冥福を心からお祈りするとともに、負傷された方々の₁日も早い回復も強く願っています。
 同時にロシア政権による侵略は不当で全く許容できないものである、という点を最初に強調しておきたく思います。

避難民ら「もっと支援を」 ドイツ各地でデモ(共同通信) - Yahoo!ニュース(2/25)
「【ベルリン、チューリヒ共同】ロシアによる侵攻を受け、ウクライナからの避難民110万人以上が暮らすドイツで24日、ウクライナへの連帯を示すデモが各地で行われた。ベルリンの観光名所ブランデンブルク門の前にはウクライナ人ら約5千人が集まり、欧米各国に「もっと武器の支援を」と訴えた。  
 参加者は「ウクライナのために立ち上がれ」「今こそ軍備増強を」と書かれたプラカードを掲げ、犠牲者に黙とうをささげた。」(同記事より直接引用)
 ロシア政権による侵略は全く許せませんが、この「今こそ軍備増強を」の訴えには全く同意できません。むしろ危険な流れとして私は強く警戒します。
欧州の本気、遅すぎたか ウクライナ砲弾支援「北朝鮮に負けるのか」 トランプ氏再来焦り ウクライナ侵略2年 - 産経ニュース (sankei.com)(2/21)
「ドイツでは最近、防衛大手ラインメタルが新たな砲弾工場の建設を始めた。年間20万発の生産ラインができる。ショルツ独首相は隣国デンマークの首相と12日の起工式に出席し、「欧州は砲弾の大量生産が必要だ」と意欲を語った。」(同記事より直接引用)
 実際にこの記事にもあるように、ドイツでは、軍事産業拡大→軍拡の流れができています。
 軍事支援をし続けていけば、軍拡に帰着するのは必然です。武器供与でもまさか自国でいらなくなった武器だけをウクライナに渡すというわけにはいかないでしょう。またウクライナに渡した武器の分だけ自国用は削る、といきません。費用に関しても、「ウクライナに軍事支援するから、その分自国の軍事費は削減する」はあり得ません。結局、「軍事支援を続けていけば、軍拡へ」と必然的になります。
 その現実が生じており、ウクライナ支援デモの「軍備増強を」のプラカードも「軍事支援を求める」以上当然の主張となります。「軍事支援には賛成、しかし軍拡には反対」は同時には成り立ちえません。
 軍事支援賛成の方々は、「ウクライナへの軍事支援のためなら、軍事支援国の軍拡も認める」という立場なのでしょうか?そしてそれでいいのでしょうか?

青山弘之先生の論考です。
人目につかないイスラエルと米国のシリア爆撃が中東を不安定化させる(青山弘之) - エキスパート - Yahoo!ニュース(2/22)
「開始から2年を迎えようとしているロシアのウクライナ侵攻についての(若干の過熱)報道がイスラエル・ハマース衝突への関心を圧倒するなか、ラファ市侵攻の準備を進めるイスラエルに対する批判的報道や抗議の声が、イスラエルのシリアに対する侵犯行為への関心を奪い、そしてイスラエルによるいつもの侵犯行為が米国の侵犯行為をさらに見えなくしている」(同論考より直接引用)
 ウクライナへの最大の軍事支援国アメリカは、イスラエルへも軍事支援を続けており、そのイスラエルはガザの虐殺行為だけでなく、現在も米国(しつこいようですが、米国軍のシリア駐留は国連安保理の決議もアサド政権の合意もなしに行われている国際法違反のもの、シリアでの化学兵器使用疑惑については、国連の調査では現段階では「シリアで化学兵器が使用されたのは事実だが、どの主体が使用したかはわからない」というもので、化学兵器使用で米軍駐留を正当化できない)とともに、シリアに対しても爆撃を行っています。
 ウクライナに軍事支援している米欧日は正義の味方でも民主主義の守護神でもありません。別の地域ではむしろ国際法違反の侵略に加担したり、米国のように自らも行ってもいます。それらの国々の軍拡を容認してしまっていいのか、軍事紛争はウクライナだけではなく、世界は米欧日とイスラエルのみで構成されているわけではありません。
 それを考えれば、「ウクライナへの軍事支援→支援国の軍拡」は容認すべきではない、はずです。

国連総会でロシア非難決議案の提出見送り、米に「二重基準」批判…イスラエル擁護に関係国反発(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース(2/25)
 「ロシアの侵略開始以降、国連総会で採択された対露非難決議などは6本に上る。決議案は主にウクライナが提出してきたが、文案の作成や各国への根回しでは「ロシア非難を主導してきた米国が大きな役割を果たしてきた」(安保理筋)のが実情だ。侵略1年に合わせた昨年の国連総会では、露軍撤退などを求める決議案への賛成は全193か国のうち141か国に上った。    イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘が始まった昨年10月以降、状況は一変した。米国は、ガザで犠牲者が増え続けても戦闘継続にこだわるイスラエルの意向を受け、即時停戦に反対し続けてきた。この結果、アラブ諸国などから反発を招き、苦境に立たされた。」(同記事より直接引用)
 周知のように今年は昨年とは異なり、国連総会へのロシア非難決議の提出は見送られました。もし出されても、反対する国はきわめて限られた国にすぎないとはいえ、棄権する国の数が増え、賛成国は減少したでしょう。棄権した国はロシア政権の侵略に一定の理解を示しているわけでも容認の余地があると考えているわけでは決してない、ロシア政権の侵略は許されないが、ロシア政権非難決議を主導するアメリカ、その他欧日諸国のこの間への二重基準に基づく対応への不信から、のはずです。万が一私に投票権があるとしたら、ガザ問題などへのあからさまに二重基準をみせる対応から、やはり「ロシア政権の侵略は許されない、しかしアメリカ、その他欧日主導の非難決議にはそのまま賛成できない」で「棄権」であったと思います。

 ウクライナだけでなく、ガザで現在も生じているイスラエルによる虐殺、その他世界各地での軍事紛争、そしてウクライナ軍事支援国がそれぞれにおいて極めて矛盾した基準を異にしてとっている役割、それらを考えたとき、「軍事支援→支援国の軍拡」を認めてはならないのではないでしょうか?

白井邦彦
青山学院大学教授






 


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