戦争が続いたら「ロシア軍を撤兵させる前にこちらが餓死する」というの現実を無視していいのかー深刻化するアフリカ諸国での食料価格高騰-

 ロシア・ウクライナ戦争は世界の人々の生活に様々な深刻な影響を与えています。下記の論考にもあるようにアフリカ諸国ではインフレ率も世界平均を上回る水準なのですが、なかでも食料価格高騰はかなり深刻で長期化する様相を見せています。
食糧高騰の背後に、ロシアによるウクライナ侵攻の影(アフリカ) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ (jetro.go.jp)(2/7、天神和泉氏)
  同論考によれば、例えばエジプトでは22年12月時点でパン・穀物の対前年同月比の消費者物価指数58.3%、小麦が80.3%上昇、またエチオピアでは22年12月の対前年同月比の食料インフレ率が36.8%、22年3月以降(つまりロシア・ウクライナ戦争後)食料インフレ率が36%を切ったことがなく昨年7月には実に40.4%まで記録している、とのことです(天神氏上記論考から)。その他の国々の食料価格高騰もきわめて深刻な状況にあることは一読しておわかりと思います。
 さらに今後も食料価格の高騰が継続していく恐れも指摘されています。
 戦争が続けば「ロシア軍を撤兵させる前にこちらが餓死する」という人々はアフリカなど世界各地で少なくありません。それを無視していいのでしょうか?
  「侵略したロシア政権が悪い」はそのとおりですが(ただし前回の記事にあるように戦争継続については米英の責任も無視しえないし、戦争の原因論としてNATO東方拡大は無視しえない)、しかしそれをいくら指摘しても深刻な食糧価格の高騰、飢餓、さらには餓死といった問題が解決するわけではありません。少なくとも戦争が終わらない限りこの問題は解決しません。
 「人の命を守る」は最大の正義で、しかし人の命は人種・民族にかかわらず等しい価値をもちます。どの人々の命が優先される、ということはありません。ウクライナ市民の命もアフリカ各国市民の命も等しい価値をもちます。
 そうであれば戦争終結に向かうべき、「即時停戦、和平交渉での解決」を図るべきではないでしょうか。
 世界各国にはこの戦争で生存の危機に陥ってしまっている人々が少なくありません。「ロシア軍を撤兵させるためには世界各国市民の多少の犠牲はやむをえない、徹底抗戦軍事支援支持」ではなく、私はどの市民の命も平等という観点から、「即時停戦・和平交渉での解決」を強く訴えます。
 「徹底抗戦・軍事支援支持」という考え方は「命を守ることこそ最大の正義、そして世界各国のどの市民の命も平等の価値をもち、どの市民の命の犠牲も許容されてはならない」という価値観と相いれないものではないか、そして後者の価値観を否定してしまっているのではないか、と私は思います。

白井邦彦
青山学院大学教授
 
   
 
 
 
 


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