「領土武力奪還にはクラスター爆弾が必要」なら「即時停戦・和平交渉・領土は交渉で回復」へ方針転換すべき!

まず情報として
ウクライナへの武器輸出反対 「法順守」強調―スイス大統領:時事ドットコム (jiji.com)(3/8)
 ウクライナやドイツがスイスに対しても武器供与を求めていたようです。しかも「改めて」とありますから断られても複数回求めていたのでしょう。スイス大統領は拒否ですが、スイスの立場からすればきわめて当然、そもそもスイスに対して求める側に無理があります。この間「ウクライナへの軍事支援こそがそれのみが正義」とあまりに極端になっていないか、そのために従来のルールなどが無視されるなどとなっていないか、ロシア政権による侵略が不当で国際法に重大に違反する行為であるという点を指摘したうえで、「軍事支援こそがそれのみが正義」となりすぎていることにも注意すべきではないか、と僭越ながら述べたいと思います。

 前回述べたようにゼレンスキー政権はこの間ウクライナへのクラスター爆弾提供を求めています(下記のものは再掲です)。
ウクライナ、クラスター爆弾供与巡り米に要求強める=米議員(ロイター) - Yahoo!ニュース(3/7)
クラスター爆弾はウクライナにとっては合法的な武器=ウクライナ軍総司令官顧問 (ukrinform.jp)(2/6Ukrinformはウクライナの国営通信社)
  ここで述べられているウクライナ軍総司令官顧問(米国籍)の発言を抜き出してみましょう(「DPICM」とはクラスター爆弾のことです)。
「DPICMは、今この瞬間に戦場で必要だ。それは本当は合法的な武器であり、私は、7月にドンバスを訪問した時、私たちがより効果の低い高火力弾を供与していることを理解した時から、そのことについて話している。ウクライナがそのような武器を明確な軍事目的に対してのみ使用するのは明白だ」「西側の誰かがウクライナの民間人をウクライナ政権よりもよく気にかけていると主張しながら、ウクライナに対して自衛する能力の提供を拒否することは、無知であり、傲慢であり、冒涜的である」「クラスター爆弾禁止条約は、最高の善意を持ちながら、実際には数で優位にあるロシア軍からの欧州を防衛するための50年前に策定された計画を妨害しただけの、西側のナイーブな首脳集団によって起草されたものだ。現在、ウクライナはその西側のナイーブさの代償を払っている。しかし、ウクライナもラトビアもポーランドも、クラスター爆弾条約には署名していないのだ。なぜなら、彼らは、数で優位にあり、はるかに多くの火砲を持つロシアの侵攻からは、高火力弾ではなく、DPICMこそが、主な防衛手段となることを知っていたからである」
  この発言に賛同できるでしょうか?ロシア政権によるウクライナ侵略は不当で許されない、ですが、この発言は許容範囲を完全に超えていると思います。武器供与に賛成する立場であってもこの発言に賛成できるでしょうか?さらに「クラスター爆弾供与を拒否するのは無知・傲慢・冒涜的」とか、クラスター弾に関する条約について「ロシア軍からの防衛を妨害しただけの西側のナイーブな首脳集団によって起草されたもので、ウクライナはその西側のナイーブさの代償を払っている」といった発言はずいぶん失礼な発言でかつ非常に危険な危険な発想ではないでしょうか。こうした方向に乗ってしまっていいのでしょうか?
 「領土武力奪還にはクラスター弾が必要」という状況であるなら、「即時停戦・和平交渉・領土回復は交渉で」に方針転換すべき、と思います。ゼレンスキー政権がクラスター爆弾の提供を受けそれを使用して「領土武力奪還」しえたとしてもそれを肯定的にとらえられるでしょうか?ロシア政権による領土併合などは許されない、ですが、だからといって「クラスター爆弾までもつかって領土武力奪還」も肯定できません。その方法もこれまで築きあげてきたルールに反するし、何よりも多数の市民の生命・生活を奪い将来にわたって危険にさらすものです。
 即時停戦・和平に関して述べれば下記のような道筋ではないか、と考えています。
1、「クラスター弾に関する条約」署名批准国(事実上アメリカ以外の軍事支援国)は条約順守の精神より、ウクライナへの軍事支援は即座に停止する。
2、アメリカは、ロシアに対して「軍事支援の停止」と引き換えに即時停戦を呼びかけ、即時停戦を実現する。
3、和平案としては、昨年3月29日ウクライナ側提案和平案、具体的には「ロシア軍は2/24のラインまで撤兵」「ウクライナはNATOなど軍事同盟に加盟せず中立国となり、ウクライナの安全保障はロシアを含めた国際的な安全保障体制の枠組みで」「クリミア半島・ドンバスの一部地域の帰属に関しては別途交渉」をベースに協議し合意を目指す。
 3に関していえば現在話題の東大作先生著『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』(岩波新書 2023年)で、「戦争当事国にとって、戦闘の停止が受け入れ可能な均衡点が存在するときがある」として、上記のウクライナ側提案和平案を指摘し、それを「ウクライナ政府と国際社会の共通目標とし、経済制裁解除の条件も基本的にそれにあわせていくことが重要」で、「このウクライナ側提案については、少なくともウクライナとロシアの現場レベルでは基本合意していた」と述べられています(p.119)。交渉の経緯より現時点でも決して合意不可能な和平案ではない、ということです。
 ロシア軍によるクラスター爆弾の使用は言語道断、しかしだからといって領土武力奪還のためウクライナ軍がクラスター爆弾を使用することも許されることではない、それをしなければならないという以上「即時停戦・和平交渉による解決、領土回復は交渉で」と転換すべきであることを重ねて強く訴えます。

白井邦彦
青山学院大学教授
 

 

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