駐日アラブ外交団「軍事援助ではなく即時停戦」、これは「イスラエル寄り」か?ロシア・ウクライナ戦争で「即時停戦」主張はなぜ「親ロ派」と批判されるのか?

イスラエルによるガザへの侵略虐殺はエスカレートする一方です。そうした状況において駐日アラブ外交団の主張です。
駐日アラブ外交団「アラブ諸国は平和を求め軍事援助はしない」攻撃の即時停止を求める G7議長国日本にも(堀潤) - エキスパート - Yahoo!ニュース(11/4)
「イスラエルによる攻撃が拡大し長期化する中「アラブ各国として軍事的援助は行うのか?」との堀の質問に「ない。我々は戦争を求めているのではない。求めているのは平和だ」と駐日パレスチナ常設総代表部のワリード・シアム大使が述べた。」(同記事より直接引用)
 イスラエルによる各種蛮行は鋭く批判しつつも、「軍事援助を行うか」の質問に対しては明確に「ない」と答え、「平和を求め即時停戦」と主張しています。
 この駐日アラブ外交団の姿勢は「イスラエル寄り」なのでしょうか?「即時停戦などイスラエルによる侵略占領を容認し蛮行を見過ごすこと、必要なのはそれに対抗できる強力な軍事援助だ、それを否定して即時停戦で平和を求めるとは欺瞞だ」という批判はなされるでしょうか?
  私たちは軍事衝突が起こった時、まず即時停戦により人命の犠牲を抑え戦火の拡大を防ぐ、そのうえで和平交渉で解決を求める、とずっと考え主張してきました。私はそれが常識と考えてきました。それゆえ今回の駐日アラブ外交団の姿勢は平和を求める立場として当然のこと、と思います。そして多くの人もそのように考え、上記の「  」のように批判主張する人はいないでしょう(万が一いたら教えてください)。
 しかしロシア・ウクライナ戦争で「軍事支援ではなく即時停戦・和平交渉での解決」を主張するとなぜ「ロシア政権の侵略の容認論」「ロシア寄り」「親ロ派」という厳しい批判が、それも護憲リベラル層の一部からさえもなされるのでしょうか?ロシア・ウクライナ戦争においても、ロシア政権の侵略その他ロシア軍による数々の蛮行は鋭く非難し侵略は容認しない、としたうえで、「軍事支援ではなく即時停戦、和平交渉での解決を」との主張が、とりわけ護憲リベラル層からはなされる、と私は考えていました。しかしそうならなかった、なぜなのでしょうか?ロシア・ウクライナ戦争で「軍事支援ではなく即時停戦・和平交渉での解決」を批判する特に護憲リベラル層は、今回の駐日アラブ外交団の、「平和を求め、軍事援助ではなく即時停戦を」に対しても同様の批判を行うのでしょうか?

 ロシア・ウクライナ戦争についてですが、これまで紹介してきたウクライナ軍総司令官の「戦況は膠着」に関する概要です。
戦況は膠着、長期の消耗戦に突入 ウクライナ軍総司令官 (msn.com)(11/5)
ウクライナ反攻から5カ月 戦局膠着、水面下で停戦案も?(産経新聞) - Yahoo!ニュース(11/5)
「CNN) ウクライナ軍のザルジニー総司令官は5日までに、国内の戦況は膠着(こうちゃく)状態にあり、ロシアに有利な方向へ傾く長期の消耗戦の段階に入ったとの判断を示した。 英誌「エコノミスト」への長めの寄稿文や同誌との会見で述べた。この中で「第1次世界大戦がそうだったように、技術的な進歩の影響で我々は手詰まり状態に陥っている」と説明。「すごい打開策が出てくる可能性は非常に少ない」と予想し、代わりに大きな損失と破壊が相互に生じる均衡状態が続くだろうとした。 総司令官は、ロシアは同国軍が被っている多大な人的被害を気にもとめていないと指摘。西側の支援国がウクライナへ提供した兵器や複数の旅団を新たに投入しても戦況に大きな変化はなかったともした。 ロシア軍の深く、堅固な塹壕(ざんごう)で築かれた防御線の克服は極めて困難とも認め、大きな被害を犠牲にして密度が高い地雷原を切り抜けても、ロシア軍は遠隔操作でまた地雷原を復活させるとした。」(同記事より直接引用、この件に関連して次のような報道もなされています、ウクライナ政権と軍に不協和音 大統領、求心力低下を警戒 (msn.com)(11/5))
 また「産経新聞」も下記のような記事を配信しています。
ウクライナ反攻から5カ月 戦局膠着、水面下で停戦案も?(産経新聞) - Yahoo!ニュース(11/5)
「ウクライナ軍が近く反攻の成果を上げられる可能性は低い。要因の一つは軍の損耗だ。米誌タイム(電子版)は10月30日、匿名のウクライナ高官らの話として、現場部隊が人員や武器・弾薬不足を理由に前進命令を拒否していると報道。ウクライナ兵の平均年齢が43歳まで上昇しているとも伝えた。「冬の寒さは軍の活動を困難にする。来春まで前線を固着させるだろう」とも指摘した。」(同記事より直接引用)
  ウクライナ軍総司令官の分析する戦況、そして現場部隊で人員武器不足などで前進命令を拒否する事例も発生、ウクライナ兵の平均年齢が43歳にまで上昇(50代の兵士も数多く存在していることになる)からして、「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針は限界と考えるのが普通と思います。
 そうした状況の中、下記のような報道もかなりなされてきています。
欧米当局 ウクライナに停戦交渉の可能性 協議持ちかけか | NHK | ウクライナ情勢(11/5)
「アメリカのNBCテレビは4日、アメリカ政府高官などの話として、先月行われたウクライナ支援の会合の場で欧米の当局者がウクライナ政府に対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について内々に協議を持ちかけていたと伝えました。
この中では、停戦の合意のためにウクライナ側が何を放棄する必要があるのかなどの概要についても、話があったとしています。」(同記事より直接引用)
 この件に関しては猪野弁護士の下記のような論考も出されています。
ゼレンスキー氏が停戦拒否? これまでの停戦拒否が自分の首を絞めただけでなく自国民の被害を拡大させた - 弁護士 猪野 亨のブログ (fc2.com)
 ゼレンスキー氏はこれらの報道に対して停戦、ロシア政権との協議は公的には拒否しています。
 しかし戦況を考えた場合このままでは犠牲が増加していくだけ、さらに兵士の平均年齢43歳ではこのまま続けたら早晩深刻な兵力不足に陥ってしまいます。
ゼレンスキー大統領 自国への国際社会の関心低下に危機感示す | NHK | ゼレンスキー大統領(11/5)
「この中でゼレンスキー大統領は、イスラエル・パレスチナ情勢に関連し「ウクライナへの関心が低下していると気付いている。これは事実だ」と述べ、ウクライナに対する国際社会の関心が低下しているとして危機感を示しました。」(同記事より直接引用)
  同時に米欧、とりわけウクライナへの最大の軍事支援国アメリカはイスラエルもウクライナも、はさすがに対応しがたい、という面もあるでしょう。

 これ以上の被害犠牲を防ぎ平和を求める立場から私は「軍事支援より即時停戦・和平交渉での解決」を強く主張します。それは最初に述べた駐日アラブ外交団のイスラエルの侵略虐殺に対する考え方と同じはずです。この私の主張は「ロシア寄り」「親ロ派」なのでしょうか?もしそのように批判されるならそれはなぜか、私にはどうしても理解できないことです。

白井邦彦
青山学院大学教授
 


 


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