即時停戦を「ウクライナの主権者が決めること」との批判についてーウクライナの政治体制、ウクライナ主権者の生きる権利-

一日遅れてしまいましたが、昨日9日は長崎に原爆問うかされた日。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、いまなお病床にある方々の回復を心から願っております。
 イスラエル不招待で西側主要諸国の大使は不参加。私は式典にはすべての国の代表、とりわけ現在侵略行為と核威嚇を行っている国、核保有国、そして何よりも原爆投下して今なおそれを正当化し謝罪のない米国代表は招待すべき、と考えます。ただし西側主要国のイスラエル不招待でボイコットは酷い、というか、ある意味それらの政権の考える「平和・正義・侵略・自衛」とはどういうことか、世界にしっかり知らしめた、とも思います。米欧諸国はウクライナに軍事支援しながら同時にイスラエルにも軍事支援し続けました。イスラエルの侵略虐殺行為は今回のガザだけではなくそれ以前から長く続いているにもかかわらず、です。米欧の軍事支援の本質を示しています。その米欧の軍事支援を肯定的に評価することには、私は大きな違和感をもちます。

 ロシア・ウクライナ戦争で即時停戦を主張するとかならず、「それはウクライナの主権者が決めることだ」との批判がなされます。その件について前回に続いて述べてみたいと思います。

 「ウクライナの主権者が決めるべき」とのことですが、現在ウクライナの政治体制は主権者の判断が尊重される仕組みになっているでしょうか。
 少し前ですがロシアで大統領選挙がありプーチン氏が圧勝しました。選挙が行われ対立候補も出ていました。しかしそれをもって「プーチン体制支持がロシア主権者の圧倒的多数の判断」とは考えないでしょう。選挙がなされ対立候補は出ましたが、いずれも体制内野党からです。細かい点はともかくプーチン体制の基本的な部分については同意する候補のみが立候補を許容されています。それに批判的な候補は最初から立候補できない仕組みとなっています。それは多くの人が知っておりそれゆえ「大統領選挙でプーチン氏圧勝」だからといって「それがロシア主権者の判断」とは多くは考えないでしょう。私もそうです。ロシアの政治体制では、そもそもロシア市民の判断が尊重される仕組みとはなっていません。

 ではウクライナはどうでしょうか。
 主権者の判断として大きな位置を占める選挙ですが、大統領選挙自体なされていません。
 そして選挙を行ったとてもウクライナの現在の政治体制では、主権者の判断が反映する仕組みとはなっていない、と言わざるをえません。
 マイダン政変以後の最も政権に批判的な政党であったはずのウクライナ共産党は、マイダン政変直後一夜にして全議席をはく奪され非合法化されました。ウクライナ共産党は長く争いましたが結局昨年ゼレンスキー政権の下で「恒久的禁止、財産没収」が決まりました。少なくともゼレンスキー政権下では表舞台には決して出られないことになりました。ちなみにウクライナ共産党は非合法化される直前は共産国の共産党、およびロシアのような体制内政党化した共産党以外では、最大の議会占有率でした。つまりそれだけウクライナ国内で支持があったわけです。そして少なくともウクライナのNATO加盟には反対でしょう。その選択肢は完全に排除されています。
 共産党は最も早くから非合法化されたわけですが、ロシアウクライナ戦争開始後、全ての野党は事実上活動停止となっています。
 この状態で選挙を行っても完全に翼賛選挙、その結果がどれだけ主権者の判断を反映するものか、大きな疑問があります。
 「ウクライナの主権者が判断すべきこと」という方々は、ではこうした現在のウクライナの政治体制をどのようにみているのか、そのうえで「ウクライナ主権者の判断がどのように担保される」と考えているのでしょうか。

 もうひとつは最も重要なこととして、「個々人の生きる権利」という問題です。現実に全てのウクライナ主権者が「徹底抗戦支持、そのために積極的に戦場に行く」ではないことは明白です。少なくない徴兵拒否が存在することはすでに多く報道されています。そして彼らもウクライナ主権者です。ウクライナ主権者の判断といっても、自分ないし家族の命がかかわる局面では判断は割れています。決して一つではありません。そして命にかかわることは多数決原理になじむものではありません。しかし「希望者のみ戦場へ、戦場へ行かなくとも不利益はなし」は戦争継続とする以上絶対成り立ちません。
 「ウクライナ主権者の生きる権利の主張」を尊重し、かつロシア政権の侵略は許されない、との立場から私は即時停戦を強く主張します。
 「ウクライナ主権者の判断」から即時停戦論を批判する方々は、「ウクライナ主権者の生きる権利の主張、それに即した判断」に関してはどのように位置付けているのでしょうか。

青山学院大学教授
白井邦彦

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