ロシア・ウクライナ戦争1年半に際してージェニンへの「軍事作戦」との対応の違い、戦争に参加したくないウクライナ男性、など-

 23年8/24は、ロシア政権による侵略で始まったロシア・ウクライナ戦争開始から1年半です(ウクライナ現地時間では開始は2/23)。この間多くの人々の貴重な命が犠牲になり、心身に傷を負った方々も少なくありません。戦争で亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りするとともに、心身に傷を負った方々全ての1日も早い回復を強く願っております。
 ロシア政権による侵略は絶対許せませんしロシア軍の撤兵を強く求めます。同時にその実現方法として、そして何よりもこれ以上命や心身の犠牲を出さないためにも、「即時停戦・和平交渉による解決」を強く主張します。

  ロシア・ウクライナ戦争が始まった時、全てのいわゆる「西側諸国」、そしてほぼすべての日本の新聞雑誌・日本市民はロシア政権の侵略を強く非難し、「国際法違反で国際秩序を乱す行為」と糾弾しました。そして日本でも国会をはじめ数々の団体が「ロシア政権の侵略非難」の決議をあげました。これはイラク戦争の時とは異なりました。イラク戦争の時には、アメリカの侵略を強く非難する人々は少なくなかったとはいえ、一方でアメリカの侵略を擁護する新聞・論者・団体もまた少なくありませんでした。日本政府も当然アメリカの侵略を支持しました。
 いわゆる「西側諸国」、そして日本で、侵略したロシア政権を強く非難する論調一色になる中で、私は「ロシア政権による侵略は不当、それを強く非難するのは当然」と思いつつ、期待と懸念を同時にもちました。「期待」とは「これほど強くロシア政権の侵略を非難し、国際法違反で国際秩序を乱す行為と糾弾する以上、今後はロシア政権以外の侵略・国際法違反の行為についても同じく非難の声をあげるようになり、アメリカなどいわゆる西側諸国も国際法違反行為を控えたりそれを擁護することはしないだろう」というものでした。「懸念」とは「今回は侵略したのがロシア政権だからみな強く非難しているが、今そのように強く非難している国々人々のなかでも、いわゆる西側諸国やその支持する国の侵略・国際法違反については、これまで同様非難しないという国々人々が少なくないのではないか、かえってダブルスタンダードが浮き彫りになってとまうのではないか」というものでした。
 その後の状況は残念ながら「懸念」の方が当たりました。
    シリアに違法駐留を続ける(国際法違反であることは明白)アメリカ軍は相変わらず違法駐留を続けています(なお、米軍違法駐留を正当化する議論でよく指摘されるシリア政府による住民への化学兵器使用疑惑に関しては、厳密には「国連の調査団は、住民に対して化学兵器が使用されたことを確認したが、誰が使用したのかを特定はしておらず(特定する権限を有していなかった)、真相は闇のなか」(青山弘之先生「ロシア軍とイスラエル軍のシリア爆撃をどう理解するか?:化学兵器使用疑惑事件から10年(青山弘之) - エキスパート - Yahoo!ニュース」8/22、より直接引用)とのことです)。イスラエルは相変わらずパレスチナなどの占領地を占領し続け、軍事攻撃を行っています。そしてアメリカ・多くのいわゆる「西側諸国」は容認・黙認のままです。
 その中で一番衝撃的だったのは、ロシア・ウクライナ戦争の最中の今年7/3から生じたイスラエル軍によるジェニンへの「軍事作戦」と称するものへの対応です。これは明らかにイスラエル軍による占領地への武力攻撃であるにもかかわらず、イスラエル側の「軍事作戦」という用語が用いられました。国際法違反は明白であるにもかかわらず、アメリカは即座に「自衛権の行使」と正当化しました。ロシア政権による侵略の時のような激しい非難の声、非難決議はなぜかあまりみられません。ロシア政権による侵略の際になされたような、日本の国会での非難決議もあがらず、「国際法違反で国際秩序を乱す行為、国際法・国際秩序を守るためにイスラエルのこうした行為を絶対許してはならない」との主張もほとんど聞かれません。ロシア政権の侵略に対して「国際法・国際秩序を守るために、ロシア政権の侵略を許してはならない」と声高に主張する人々のどれだけが、イスラエルのジェニンへの「軍事作戦」にそのような主張をしたのでしょうか?イスラエルについてそのように主張しない論者はなぜそうしないのでしょうか。
「イスラエルがシリアに対して執拗に繰り返す侵略攻撃が、欧米諸国や日本が拠って立つ価値観に抵触しないのは、それが普遍的な意味での自由や人権に沿っているからではなく、イスラエルが欧米諸国、日本と友好関係にあるからに他ならない。これに対して、ロシア軍の爆撃は、アル=カーイダに対する『テロとの戦い』という国際社会の総意にのっとった動きとして認識されないのは、それが普遍的な意味でのテロ撲滅に資していないからではなく、ロシア(あるいはシリア)が欧米諸国にとって好ましからざる存在だからに他ならない。」(青山先生「ロシア軍とイスラエル軍のシリア爆撃をどう理解するか?:化学兵器使用疑惑事件から10年(青山弘之) - エキスパート - Yahoo!ニュース」8/22、より直接引用)
  ロシアとイスラエルによるシリア爆撃を題材に、「なぜイスラエルのシリア爆撃は黙認され、ロシアのシリア爆撃は容認されるのか」について青山先生が述べた文章です。ロシア政権による侵略が強く非難される一方で、イスラエルによるジェニンへの「軍事作戦」なるものが容認黙認するのも、まさにこの「論理」からではないでしょうか?イスラエルの行為がロシア政権の侵略ほど強く非難されないのは、「イスラエルは米欧日の友好国だから」、だとしたら、ロシア政権の侵略に対してよく言われる「国際法・国際秩序を乱す行為であり、国際法・国際秩序を守るためにロシア政権による侵略は許してはならない」の「国際法・国際秩序」とは、米欧日の友好国か、米欧日にとって好ましからざる国か、で内容が変わってしまうもの、ということになります。私はロシア政権による侵略は許されない、国際法違反と強く思いますが、私が考える「国際法・国際秩序」は、米欧日の友好国か、好ましからざる存在か、で内容が変わるもの、ではありません。そうした考えにも強く反対ですし、「国際法・国際秩序」は普遍的に等しく適用されるべき、が私の立場です。その意味で「ロシア政権による侵略は国際法・国際秩序を乱す行為」としながら、その「国際法・国際秩序」は米欧日との関係性で内容が変わると認識している論者とは、一線を画さざるをえません。「ロシア政権による侵略は国際法・国際秩序違反」と主張するとき、その「国際法・国際秩序」は全ての国に普遍的に適用されるもの、その観点からイスラエルによるジェニンへの「軍事作戦」についても、同様に主張されることを望みます。

戦争に参加したくないウクライナの男性たち - BBCニュース(8/24)
ウクライナが、必要な兵士を集めるのに苦労している。
 
志願兵では足りない。ウクライナでは常に、亡くなったり負傷したりした数万人の兵士の代わりが必要だ。ロシアの侵攻が始まって18カ月がたった今、それ以上の兵士がただひたすら疲弊している。
 だが、戦いたくないという男性もいる。わいろを支払ったり、徴兵担当者から逃れる手立てを探したりして、国を離れた人が何千といる。一方で徴兵担当者らは、強引な手口を非難されている。
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『状況は人それぞれだ』とイエホルさんは言う。『全ての男性市民は戦わなくてはならないと憲法に記されていること自体、私の考えでは、現代の価値観にあっていない』
 イエホルさんは最近、首都キーウで警察に呼び止められ、兵役を避けていると非難された後、募兵センターに送られた。背中に故障があるのだと訴え、最終的には帰宅を許されたものの、次は許されないだろうと恐れている。
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『それぞれの状況が考慮される状態で、誰もがこの戦争に貢献することが許されるべきだ』とイエホルさんは言う。『最前線にいる人々を気の毒に思うが、平和主義者のための代替案が与えられていない』。
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 徴兵により、60歳未満の男性のほとんどがウクライナから離れられなくなっている。こっそり抜け出そうとする多くの人は、多くの場合、カルパチア山脈を越えてルーマニアへ向かう。
 一方、国内に留まる人々は、大規模なチャットグループの助けを得て招集を逃れている。メッセージアプリ『テレグラム』では、徴兵担当者のパトロール場所が共有されている。地域や街ごとにチャットグループがあり、中には10万人以上が参加しているものもある。
 徴兵担当者は、制服の色から『オリーブ』と呼ばれている。この職員に呼び止められた場合、募兵センターで登録するよう命令する紙が渡される。しかし、その場でセンターに連れていかれ、家に帰るチャンスがなかったという報告も出ている。
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 しかし、徴兵担当者が厳しい、あるいは脅迫的な手段を使ったとの主張もある。わずか1カ月の訓練で最前線に立つことになった人の報告もある。
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 自国の反転攻勢が大勢が期待していたよりも進展が遅いのをどうするかだけでなく、自国民の士気をどのように高め、戦いに臨むようにするか、ウクライナ政府は取り組まなくてはならない。
 兵士が必要なのは、否定しようがない事実だ。しかしそれと同時に、誰もが戦場に適しているわけではない。それも不都合だが真実だ。」(同記事より直接引用)
  ウクライナ市民の中で「戦争に参加したくない」という人たちは決して少なくない、一方ゼレンスキー政権はかなり強引な方法でウクライナ市民を戦場に送っている、ということもまた現実です。そしてゼレンスキー政権は今は「自国市民の士気をどのようにして高め、戦いに臨むようにさせるか」取り組まざるをえなくなっています。
 この現実を前に「自国市民に、とりわけその意に反して戦場での死を迫る」ゼレンスキー政権の現方針を私たちは支持しつづけていいのでしょうか?

EU軍事委議長、ウクライナの対ロシア失地回復を疑問視=独紙 | Reuters(8/24)
「[フランクフルト 24日 ロイター] - 欧州連合軍事委員会(EUMC)のブリーガー議長は、ウクライナがロシアとの戦争で失った領土を取り戻すことに疑問を表明した。独紙ヴェルトが伝えた。
 議長は『利用可能なリソースでウクライナの完全な主権を回復できるかどうかは疑問が残る』と発言。6月から続いているウクライナの反攻について、ウクライナ軍がロシアの防衛線を突破すると期待する見方には慎重だと述べた。」(同記事より直接引用)
ウクライナ反攻に遅れ=クリミア奪還へ国際会議―24日独立記念日 - 海外経済ニュース - 時事エクイティ (jiji.com)(8/23)
「ゼレンスキー政権は23日、南部クリミア半島に関する国際会議を開き、占領地の奪還に向けて西側諸国の支援を再確認したい考えだが、反転攻勢は思うように進んでいない。
 ロシアの侵攻を批判する西側メディアは、6月上旬に始まったウクライナの反転攻勢に光を当ててきた。一方で『失敗している』という厳しい分析も出始めた。」(同記事より直接引用)
  「ウクライナが武力でロシア軍から領土奪還できるか疑問」という意見がEU軍事委員会議長から出ているとともに、「反転攻勢は失敗」という厳しい分析も西側メディアから出始めています。
「『ウクライナ軍のザルジニー総司令官の許可がなければ、前線を訪れることは完全に禁止だ』。スイス紙ルタン(電子版)は21日、外国メディアによる戦闘地域の取材が大きく制限されたと報じた。
 反転攻勢がヤマ場を迎えつつある中、ゼレンスキー政権が『苦戦』を内外に広く伝えられるのを嫌った可能性がある。ルタンは『(ウクライナ軍は)多くの犠牲者を出しながら、ロシアの防衛線を突破できていない』と現状を伝えた。」(ウクライナ反攻に遅れ=クリミア奪還へ国際会議―24日独立記念日 - 海外経済ニュース - 時事エクイティ (jiji.com)(8/23)、より直接引用)
  ゼレンスキー政権側の報道統制も厳しくなっています。ウクライナ軍からの私たちに提供される報道はそれ自体は事実であったとしても、「ウクライナ軍に不利な状況は配信されない」と完全になる恐れがあります。

 ロシア政権による侵略は許されない・ロシア軍は撤兵すべき、と私は強く考えます。しかしゼレンスキー政権の「西側諸国、すなわち『私たち』に全領土武力奪還に必要な軍事支援を要求し、『私たち』からそれを得続けて全領土武力奪還まで戦う」という方針は、結局「自国市民の多くに戦場での死を迫り(その中には意に反してそれを強いられる人々も少なくない)、『私たち』には軍事産業・軍事費拡大を受け入れさせ強いる」というもので、そちらも全く支持できませんし、支持すべきものとも決して思いません。さらにロシア軍を撤兵させることに有効な方法か?も疑問です。
 ではどうやってロシア軍を撤兵させるのか?
   「即時停戦・和平交渉での解決」でしかない、と重ねて訴えます。

ロシア・ウクライナ戦争開戦から1年半、これ以上の多数の人命の犠牲を阻止し、軍事産業・軍事費拡大に反対する立場から

白井邦彦
青山学院大学教授


  

 


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