これでも「全領土武力奪還」「軍事支援」でいいのか?-国内選挙実施費用他国請求、膨大な犠牲者、徴兵忌避の深刻化-

ロヒンギャ支援集まらず「さらに絶望」 掃討作戦から6年、危機訴え (msn.com)(8/28)
ロヒンギャ危機から6年──国際援助が削減される中、高まり続ける医療ニーズ (msn.com)(8/28)
 ロヒンギャの人々への国際支援が減少し、かなり不足して、深刻な状況に直面しています。
 ウクライナ市民だけが現在抑圧被害を受けているわけではなく、他にもパレスチナ市民、このロヒンギャの人たちのように、抑圧迫害を受けている人たちも少なくありません。その全てに対して同様の関心と、支援がなされることを強く願います。
 特にロシア・ウクライナ戦争について関心をもち議論されている方々すべてに、こうした他の抑圧迫害されている人々への同様の関心と、それらの人々全てのことを考慮し視野に入れた議論、そしてできれば支援を心からお願いいたします。

ウクライナ選挙、同盟国の支援あれば実施可能 ゼレンスキー氏 | Reuters(8/28)
「[キーウ 27日 ロイター] - ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、国内で選挙を実施する可能性について、同盟国が費用を分担し、議会が承認し、国民が投票に行くのであれば、戦時中でも実施することは可能と述べた。
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戦時中に選挙を実施するにはどれだけの予算が必要なのか分からないが、平時には50億フリブナ(1億3500万ドル)かかるとし、欧米が資金援助するのであれば可能かもしれないと指摘。ただ『武器のための資金を選挙に使うことはない』とした。」(同記事より直接引用)
  ウクライナでは今年10月に議会選挙実施の日程となっていますが(ただし現在は戒厳令中)、実施するためには、「米欧の費用負担が軍事支援とは別に必要」と事実上選挙実施費用を米欧諸国に請求しています。(ただし、以下のような報道もなされています。
ゼレンスキー氏、ウクライナ議会選挙の延期に言及…来年の大統領選も念頭か : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)(8/28)
戦時下では選挙実施は不可能、来年の大統領選挙実施の延期も視野、というものですが、これはいかにゼレンスキー氏が「権力を維持したいからではない」(同記事より直接引用)と否定しようとも、そう見られても仕方がないと思います)。
 ゼレンスキー政権の下で現在ウクライナでは野党が全て活動禁止状態ですし、選挙を実施してもゼレンスキー氏の方針に疑問をもつ候補には「親ロ派」とのレッテルが貼られ事実上活動ができない、でしょうから、「公平な選挙といえるか」は大変疑問です。しかも国内選挙実施の費用を軍事支援国が分担、となればなおさらです。
 同時に「国内選挙実施の費用さえも、軍事支援国に支援を求めらければならない程の財政状況にウクライナはある」ということなのか、これでゼレンスキー政権の「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針は続けられるのか、との疑問も持ちました。
 
 死傷者と兵力についてです。
ロシアによるウクライナ侵/攻 両軍の死傷者は約50万人と推計 NYタイムズ | TBS NEWS DIG (1ページ)(8/19)
「ニューヨークタイムズは18日、アメリカ当局者の話としてロシア軍の死者の数が最大で12万人、負傷者が17万から18万人。ウクライナ軍については死者がおよそ7万人、負傷者が10万から12万人と推計されると報じました。
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また、兵力について専門家は、ウクライナは予備役や民兵を含めておよそ50万人。ロシアはおよそ133万人で、その中には民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らも含まれていると分析しています。」(同記事より直接引用)
  この推計によれば、ウクライナ軍側は兵力のうち約1/3強がすでに死傷していることになります(ロシア側はこの推計では死傷者は兵力の1/4弱)。
 さらに以下のような指摘もあります。
「クラーク氏『ロシアの予備役にはさらに200万人(元徴兵と契約軍人)がおり、クレムリンが年齢制限を31歳に引き上げる前でも、徴兵年齢(18~26歳)の男性が700万人ほど残っていた。一方…ウクライナ軍の現役兵は約20万人、予備役もほぼ同数で、さらに150万人の戦闘年齢にある男性を動員できる。 キーウ(キエフ)は人手不足だ。米国の情報筋によれば、ウ軍は7万人もの戦死者を出し、さらに10万人が負傷したという。ロシアの死傷者のほうが多いとはいえ、その比率はモスクワに有利である。志願兵では戦力を維持するのに十分な数にならない。最も戦う意志のあるウクライナ人は、何年も前にサイン・アップを済ませている』」(野口和彦先生のXより直接引用)
  両軍に膨大な命の犠牲が出ているということは、きわめて重要かつ深刻にとらえるべきことですが、「兵力」という点からみても、ウクライナ軍側がゼレンスキー政権の「全領土武力奪還に向け戦い続けられるのか、戦い続けたらウクライナの市民・社会は将来においてどうなってしまうのか」という疑問を持たざるをえません。その点からもゼレンスキー政権の「全領土武力奪還方針支持」「軍事支援容認」でいいのか、武器だけでは戦えない、「兵力」をどうするつもりなのでしょうか?
(こうした指摘疑問は下記の毎日新聞の伊藤氏の記事でもなされているようです。
土記:ウクライナ即時停戦再論=伊藤智永 | 毎日新聞 (mainichi.jp)(8/26))
 
 さらに徴兵忌避の深刻化の問題があります。
徴兵逃れ汚職で新たな摘発、1人1万ドルの収賄か ウクライナ(CNN.co.jp) - Yahoo!ニュース(8/27)
戦時下の汚職、罰則強化へ ゼレンスキー氏議会に提案:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)(8/28)
  最初の記事は前回も紹介しましたが、この間かなりウクライナの「徴兵忌避汚職問題」が報道されています。ゼレンスキー政権は後者の記事のように、摘発罰則強化で対応しようとしていますが、そもそもなぜ「徴兵忌避汚職」がこれほど生じるのでしょうか?
  ウクライナが汚職大国(この点ではロシアと「丙丁つけがたい」)というのもひとつの理由ですが、「その意に反して戦地に強制的に行かされる」ということが根本的な原因ではないでしょうか?「出国自由・完全志願制」とすれば、あたりまえですが「徴兵忌避汚職」など生じません。しかしそれでは「必要な兵力はとても確保できない」、つまり現在は「徹底抗戦・全領土武力奪還方針を続けるためには、ウクライナ市民の意に反しても、強制的な動員とせざるをえない」というわけです。しかし一方で徴兵忌避も強い、そこに汚職大国であることを相まって「徴兵忌避汚職」が生じてしまう、というのではないでしょうか。
 「ウクライナ市民は徹底抗戦・全領土奪還方針支持で、そのために戦場に喜んで行く、士気が高い」のであれば、大規模な「徴兵忌避汚職問題」など生じないはずです。上記のように主張していた方々はウクライナの大規模な「徴兵忌避汚職問題」の深刻化をどうとらえるのか、上記の主張と明らかに矛盾しています。さらに一部でゼレンスキー政権の徴兵忌避汚職問題への厳しい姿勢を評価する見解もありますが、それは上述の連関や、この問題の根本原因に目を向けない議論ではないでしょうか。
 「徴兵忌避汚職問題」の深刻化は、「兵力確保のためには、強制動員、しかもその強化しかない、しかしそれを忌避する意識も強い、何とか忌避しようとする市民が少なくない」という現状を意味し、結局ゼレンスキー政権の「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針が、「兵力の確保」という面からも大きな矛盾に直面していることを示すものと思います。なお米・NATOの軍事支援により「徹底抗戦・全領土武力奪還」方針を貫徹させ続けることは、「少なくないウクライナ市民にその意に反して戦場に行かせることを強要する」のを後押ししている、あるいは「軍事支援は、意に反して戦場に行かせることを強要させることにもなっている」という面にも注目すべきと思います。
 ウクライナの財政状態・兵力の確保、という面に着目すれば、本当に「徹底抗戦・全領土奪還・軍事支援」でいいのでしょうか。
 私はロシア政権による侵略・占領は許されない、ロシア軍は撤兵すべき、と強く主張するとともに、常にそのように考えています。しかしそのための手段として「徹底抗戦・全領土武力奪還・軍事支援」という方針は、客観的にみれば無理が露呈しつつあるのではないか、そしてウクライナの市民・社会の現在、そして将来を本当に考えたものなのか、そのような認識と疑問を持ちます。
 「即時停戦・和平交渉での解決」に方針転換すべき、と強く訴えます。

白井邦彦
青山学院大学教授
 


  
 
 


 


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