イスラエルのガザ侵略、ロシア政権によるウクライナ侵略、いずれも「即時停戦」を!

 まず青山弘之先生の論考を紹介したく思います。
イスラエル軍の地上侵攻を前に「北部戦線」で戦端は開かれるか?:米軍がシリアで「イランの民兵」を爆撃(青山弘之) - エキスパート - Yahoo!ニュース(10/28)
「占領に対する東アラブ地域の怒り
 米軍がこれらの攻撃に対して再び報復を行うかは今のところ不明だ。だが、オースティン国防長官が述べた通り、シリア国内の「イランの民兵」に対する攻撃を「自衛」とする姿勢は、自衛権をもってガザ地区に対する攻撃を正当化するイスラエルと何ら変わることはない。米国は、イスラーム国を殲滅するとして、有志連合を率いて、2014年9月にシリア領内に対する爆撃を開始、2015年以降は地上部隊を駐留させている。だが、シリアでの軍事活動は、国連での承認を得てもいなければ、シリアのいかなる当事者の了承も得ていない国際法・国内法違反である。
 国際政治がアナーキズムのもとに展開している現実を踏まえると、こうした行為は実はどの国も行ってはいる。だが、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃への怒りが東アラブ地域において高まっているなかで、米国の過剰な行動は、際限のない報復合戦を招かないとも限らない。
 国際法や国際規範への違反というと、ウクライナ侵攻以降は、ロシアを非難する専売特許のようになっていた。だが、シリア人権監視団によると、10月17日、シリア駐留ロシア軍の使節団が、ダイル・ザウル県のユーフラテス川西岸に部隊を展開させているシリア軍第4師団、第17師団、第18師団の司令官らと会合を開き、シリア国内での米軍に対する「イランの民兵」の攻撃への対応を協議、米軍基地を標的としないよう改めて要請したという。会合開催の真偽は定かではない。だが、こうした情報は、占領に対する東アラブ地域の怒りにいかに対応するかが、重大な関心事になっていることを如実に物語っている。」(同論考より直接引用)
  シリアという視野からすると、ロシア・ウクライナ戦争とでは米ロの位置関係が逆転しています。世界単位でみれば、ロシア政権によるウクライナ侵略は強く非難しつつ、米欧の言動、とりわけ国際法・国際秩序の原則を米欧が強調することについては冷ややかにみている、が多数というのは当然と感じます。
 なお青山先生の下記の論考も大変参考になると思います。ぜひご一読をお願いいたします。
イスラエルのガザ攻撃が「第2段階」に入る中、シリアでの「イランの民兵」の米軍攻撃にアラブ系部族が加勢(青山弘之) - エキスパート - Yahoo!ニュース(10/31)

  イスラエルによるガザ侵略(ガザでの虐殺、というべき)はエスカレートするばかりです。下記の記事の動画もぜひご覧いただければ、と思います。
苦境の中でガザ地区の病院は今……BBC記者が現地報告 - BBCニュース(10/31)
 国連ではヨルダン提出の「休戦案」が圧倒的多数で採択されました(反対はイスラエル、アメリカなど14カ国のみ、日本は棄権)。軍事衝突が生じたらまずは「即時停戦」そして「和平交渉での解決を目指す」これは当然のことでしょう。この国連総会での「休戦」採択(停戦ではなく、休戦となりましたが)に対して、下記のような批判はありうるでしょうか?
「休戦してもイスラエルによるパレスチナなどの占領地は返還されるわけでも、返還の道筋がつけられるわけではない、占領地の固定化がなされるだけではないか。さらに占領地で今なお続くイスラエルの蛮行はどうなるか。休戦は人命尊重のようで、実はイスラエルによる占領の固定化を認め、そしてそこでの現在将来の人命の犠牲を容認するものだ。それを考えれば、必要なのは休戦ではなく、パレスチナがイスラエルの占領地を奪還できるように、アメリカの後ろ盾を受けているイスラエルに対抗できるだけの強力な軍事支援を、パレスチナに行うことである。」
 このような批判は私は少なくとも日本国内では聞いたことがありません(もしこうした批判があったら教えてください)。
 休戦してもそれによりイスラエルによる占領地の回復がなされるわけでもないし、そこでの蛮行はすぐには抑止できないでしょう。しかしそれでもまず今なされているガザでの非人道的な殺戮を止めるために休戦、そして占領地の回復、そこでの蛮行の抑止は、「和平交渉で」はきわめて常識的な考え方だし、それが批判されることもないはずです。
 ではロシア・ウクライナ戦争で「即時停戦・和平交渉での解決」を主張するとなぜ強く批判されるのでしょうか?
 ロシア・ウクライナ戦争についての「即時停戦」論批判では、1、停戦しても占領地が返還されるわけでもその道筋がつけられるわけでもない、占領地の固定化につながる、2、占領地でのロシア軍による蛮行は続く、が常に主張されます。そこから「即時停戦の否定」「米欧日によるウクライナへの軍事支援支持論」が導きだされます。しかしこの論理は今回のイスラエルのガザ侵略についての休戦についてもあてはまるはずです。そちらではこの点が指摘されず、「パレスチナへ強力な軍事支援を」が主張されないのはなぜでしょうか?
  「ウクライナへの軍事支援支持、パレスチナへの軍事支援否定」論として、「ウクライナは自制した戦いを行っているが、パレスチナの場合は今回のハマスの行為のように自制がない」ということも主張されます。しかしウクライナの戦場では、侵略したロシア軍とともにウクライナ軍も劣化ウラン弾、さらにはクラスター弾も使用しています(ロシア軍の劣化ウラン弾・クラスター弾使用が言語道断であることはいうまでもない、強く非難する)。クラスター弾の使用が将来にわたりいかに人命を奪うものであるかは、下記のとおりです。
専門機関トップが語るクラスター弾の現実 全容解明に向け大型調査へ(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース(10/25)
「――現在でもクラスター弾が使われていることをどう見ますか。  
ウクライナでクラスター弾が使用されれば、ウクライナ国民に長期的に害を及ぼす可能性があります。まさに今カンボジアが経験しているように、戦争が終わっても脅威は終わりません。私は使用には反対です。
――クラスター弾の恐ろしさとは。
 短期、長期という二つの脅威があります。短期的には、一つの砲弾から「子爆弾」と呼ばれる多数の小型爆弾が広範囲に飛び散る仕組みのため、殺傷能力が非常に高く、民間人も含めて多くの死傷者を出す恐れがあります。  長期的には、子爆弾の一部が不発弾としてその地に残り、無差別に民間人に被害を及ぼし続けるという危険があります。カンボジアでは、不発弾による「汚染」が住民の安全や地域経済に影を落としてきました。半世紀たってもなお、罪のない人々の生活を脅かしています。」(同記事より直接引用)
 ウクライナ軍も「自制した戦いを行っている」ととてもいえないと思います。
 イスラエルの侵略に対して「即時停戦」を主張しても批判されない、しかしロシア政権の侵略に対して「即時停戦」を主張すると、「占領地の固定化・占領地での蛮行容認論」と批判される、イスラエルの侵略に対しては日本では「パレスチナに軍事支援を」とは主張されないのに、ロシア政権による侵略に対しては「ウクライナへの軍事支援支持、それに反対するのはロシア政権による侵略容認論だ」とされる、は私にはどうしても理解できない点です。
 イスラエルによる侵略・ロシア政権による侵略、いずれについても私は「即時停戦」「占領地その他の問題は和平交渉で平和的解決を」と強く主張します。そしてすべての軍事紛争について、私は同様の立場である点も強調しておきます。

白井邦彦
青山学院大学教授

  
 


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