ロシア・ウクライナ戦争に対する他の国際紛争とは異なる言論状況、それはなぜなのか?-野口先生のxを題材に-

 中東情勢は緊迫の度合いを増し、第五次中東戦争の恐れもあります。ガザ停戦、イラン・イスラエルの衝突の激化は何としても避ける、は当然の主張です。
「ガザで停戦が実現したからといって、イスラエルの占領地がかえってくるわけではない、イスラエルの違法な占領を許すのか、イスラエルを追い出すまで戦うべきで私たちはそれを支援すべきだ」「イスラエルのシリアの大使館攻撃は国際法違反の暴挙で、それを見過ごしたら国際法秩序は成り立たない、しかもシリアには米軍が長きにわたり違法駐留している、イランの報復は当然で、イスラエル、アメリカに徹底攻撃を行うべきで、それに反対するとは国際法違反を容認することだし、そうした徹底攻撃に対しては支援を行うべきだ」
 このような主張は聞いたことがないし、万が一こんなことになってしまったら第五次中東戦争から世界大戦に拡大していくことはほぼ確実です。そしてイスラエルが核保有国であることも公然の秘密ですから、核戦争に至ってしまうおそれもあります。
 国際法秩序という点からだけでなく、戦争の拡大、核戦争の危機、そして軍事力での占領地の奪還の現実的可能性、という点も当然考慮に入れ、私たちは考え判断を行い、主張していると思います。国際紛争についてこのように、「国際法の原則」だけでなく、多様な側面を考慮に入れ考える、ことは当然です。
 しかし、ロシア・ウクライナ戦争の問題となると、そうした多様の側面をみての主張は、「ロシア政権擁護」というレッテルを貼られます。
野口先生のxです。
(20) 野口和彦(Kazuhiko Noguchi) on X: "デペリス氏「一般論として、私はアナリストや政治家が、ウクライナ戦争について異なることを言う人は、誰でもプーチンと共謀しているとか、民主主義を破壊しようとしているとか、クレムリンのプロパガンダに騙されている、とほのめかすことを好まない。それは怠惰で不快だし、ある種哀れだ」。" / X (twitter.com)(野口先生xより直接引用)
 多面的に考え、「ウクライナ戦争について異なることを言う人」に対し、「ロシアの手先」と感情的なレッテル張りが、今までどれだけなされてきたでしょうか(私もそれは「怠惰・不快・そしてある種哀れ」と感じます)。それはこれまでの国際紛争に関する言論状況からして、きわめて異常であるし、さまざまな側面から考え現実的な紛争解決の手段を探ることを妨げ、命の犠牲だけを増やしていく行為、と私は強く思います。
 再び野口先生のxからです。ウォルト教授(ハーバード大)の分析の引用です。
ウォルト氏「ウクライナの支持者たちは、ウクライナの運命を逆転させ、ロシアが不法に征服・併合した領土を解放するための楽観的な計画を立て続けているが、彼らの希望はほとんど幻想にすぎない…(再選される大統領がトランプであれバイデンであれ)どちらの政権でも2025年1月後には戦争終結を交渉するだろうし、その結果は、キーウの戦争目的よりロシアの戦争目的に近い取引になりそうだ」(野口先生xより直接引用)
 ウォルト教授の分析と同様、私も大変残念ながら今日の客観的情勢を見る限り、「ロシアの戦争目的に近い取引」を強いられる交渉にならざるをえない、と思います。
 それだけに、「徹底抗戦・軍事支援支持」はおかしかった、「ロシア政権の侵略は国際法違反であることは明確、ただそのうえで様々な状況を考え早期に停戦して不利にならない状況での和平合意」にもっていくべきだった、と改めて思います。
 国際紛争に対しては、国際法秩序という原則だけでなく、その国際紛争を取り巻く様々な状況を多面的多角的に考慮し、犠牲が最も少ない解決策を探る、は私たちが常に行ってきたことです。
 事実、中東情勢ではそうした対応を私たちは現時点で行っています。ロシア・ウクライナ戦争だけ、なぜ異なるのでしょうか?

白井邦彦
青山学院大学教授

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