ウクライナへ殺傷能力ある武器輸出へと進む日本政府-「NATO諸国の武器供与は容認するが日本が行うのは反対」は成り立たない-

 ロシア占領地でのダム決壊問題、多数の犠牲者が出ている模様です。
ウクライナのダム決壊で死者19人に | カナロコ by 神奈川新聞 (kanaloco.jp)(6/9)
 ここで記載されている死者19名とはあくまでも死亡が明確になった方々の数で実際はさらに多くの死傷者が出ていると思います。またさまざまな面への被害も予想されます。原発については「『直ちに』影響はない」と報道されてますが、あくまで「直ちに」であり、今後についてはわかりません。環境への被害もはかり知れません。ロシア政権による侵略・占領が背景にあることは明確なのでその点強く非難します。同時に今何よりも優先すべきことは「人命その他の被害を少しでも防ぐ」ことであり、それを最優先した取り組みをすべきだということを強く主張します。非難合戦などしているときではありません。同時に戦争が続いた場合こうした惨事がこれからも生じないか懸念があります。「戦争などしているときではない」と思います。まず人命を救い被害の拡大を抑える、それを最優先にすべき、と重ねて強く訴えるとともに、真相解明や責任追及はそのあとの問題、ということも指摘しておきます。
 「人命を救い被害の拡大を防ぐ」を最優先に対応するためにも、即時停戦が必要ではないでしょうか?

 6/8に下記のような報道がなされています。
政府 ウクライナ軍事支援の米国に火薬輸出を検討 (tv-asahi.co.jp)(6/8)
「政府は、ウクライナへの軍事支援を続けるアメリカに対し、日本企業が砲弾の原料となる火薬を輸出することが可能かどうか検討していることが分かりました。  ウクライナへの軍事支援を続けるアメリカでは、砲弾の増産に必要な火薬の原料が不足しています。 このため、政府関係者によりますと、アメリカ側は日本企業に対して原料の輸出を求めてきているということです。 日本側は、砲弾など殺傷能力のある装備品の輸出を制限しているため政府内で検討が進められていますが、政府関係者は「原料であれば火薬は軍民両用なので輸出は可能だ」と説明しています。」(上記記事より直接引用、なおこの件については猪野先生の下記のブログ記事でも述べられています。
日本も弾薬(原料)の輸出、ロシア・ベラルーシの戦術核配備批判も虚しい ダム決壊の責任はロシア? - 弁護士 猪野 亨のブログ (fc2.com))
  ウクライナへの弾薬向け火薬輸出問題にについてはすでに下記のような報道はなされていました。
米軍が日本から火薬の調達検討、ウクライナ向け砲弾用=関係者 | Reuters(6/2)
  この報道がなされた時点で早晩、ウクライナへの殺傷能力のある武器輸出供与が現実化していくことは予想されましたが、政府がついに本格検討を始めています。検討といっても政府関係者は「原料であれば火薬は輸出可能」と述べているわけですから、実際には輸出されるでしょう。いよいよ日本から「まず」ウクライナへの「殺傷能力ある武器輸出」に日本政府は具体的に進もうとしています。
 この動きから考えることのひとつを、述べておきたく思います。
   私は「武力には武力でで、ロシア政権による侵略を受けたウクライナの徹底抗戦を支持し、NATO諸国のそのための武器供与を肯定する以上、日本が殺傷能力のある武器供与を行うことには反対、という立場は成り立たないし貫きとおせない」と思います。それは何よりも現在私たちの前に示されている現実がそのことを証明しています。
 さらに一部で存在している「ウクライナへのNATO諸国による武器供与には賛成するが、日本が殺傷能力のある武器供与を行うことには反対」は論理的にもそもそも成り立たちえなかったことと考えます。
 「徹底抗戦支持・NATOの武器供与容認」とは、「停戦・和平交渉での解決など無理、武力・軍事的方法によらなければ占領地の回復、ロシア軍の撤兵は実現できない」ということを前提としています。この前提に立つ以上「武力による勝利のためには、日本に存在する軍事資源を供給しなければならない」という事態になったらそれを拒否することはできないはずです。その状態で日本が軍事資源の供給を拒否するとは、この立場では「ロシア政権による侵略を結果として認める」ということになってしまいます。「徹底抗戦支持・NATOによる武器供与容認」の立場に立つ以上、「軍事的に占領地を回復しロシア軍を撤兵させるために必要であれば、日本も殺傷能力の武器輸出をすべき」とするのが論理的には整合性がとれる主張ではないでしょうか。
 「ウクライナに対するNATO諸国による武器供与は容認するが、日本が殺傷能力ある武器を供与することには反対」がは論理的に成り立たないし、先に述べたように、今の現実がその立場が成り立たないことを明確に示しています。
 私たち日本市民は「日本がウクライナに殺傷能力のある武器を輸出することには反対」である以上、「ロシア軍による占領地の回復・ロシア軍の撤兵は、武力には武力でという軍事的方法ではなく、即時停戦・和平交渉により実現を目指す」という立場をとるべき、と思います。同時に「NATO諸国の武器供与を容認する以上、必要なら日本の殺傷能力ある武器輸出も容認せざるをえない、『この立場にたつ以上』日本が行うことにだけ反対するのは成り立たないし、必要なのに日本が行うことを反対するのは結果としてロシア政権による侵略容認論」となるはずです。
 私は日本市民の一員として、「日本が殺傷のある武器輸出供与をすることには絶対反対」です。そうであるからこそ、「武力には武力でという軍事的方法ではなく、ロシア軍による占領地の回復・ロシア軍の撤兵は即時停戦・和平交渉での実現を目指すべき」と考えます。
 私が「即時停戦・和平交渉での解決を」と強く主張する大きな理由のひとつはこの点にあります。
 「NATO諸国の武器供与は容認するが、日本が殺傷能力のある武器輸出供与を行うことには反対する」と述べていた方々は、現在日本政府が容認しようとしている、「ウクライナ向け弾薬のためにアメリカへの火薬輸出」についてどのようなスタンスをとるのでしょうか?具体的に殺傷能力ある武器輸出供与が進もうとしている以上、ぜひそれに対するお立場を示してほしいと思います。私は当然ながら「ウクライナ向け弾薬のためにアメリカへの火薬輸出」にも絶対反対です。
 
付記
お気づきの方もあるかと思いますが、私は「ロシア『政権』による侵略」と表現するとともに、ウクライナ市民・ロシア市民・日本市民、というように、「○○国民」という言葉は基本的に使わず「○○市民」という言葉を使っています。それはその国を構成する人々はその国の国籍を有する人々ばかりではなく、その国に住んでいてその国の国籍を有しない人々のことも平等に考えるべき、との立場からです。また「○○人」という言葉も、民族問題に関して述べるために必要があるとき以外は基本使わないことにしています。ウクライナについても「ウクライナ人」ではなく、「ウクライナ市民」としているのは、ウクライナはウクライナ人だけで構成されている国家ではなく、ロシア人その他少数民族が存在している、さらに移民労働者・留学生(その多くは有色人種です、戦争当初避難するウクライナ市民が映し出されましたが、白人ばかりだったことには、ウクライナの市民構成から違和感がありました)も数多い、それらすべての人々から構成されている国家、だからです(こうした事情はウクライナや日本だけではありません)。そして私は「そうしたウクライナ市民すべて」を視野に入れて考えるべきと思っています。
「○○市民」という言葉を使うことには、そうした含意があることをご理解いただければ幸いです。

白井邦彦
青山学院大学教授


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