弟のために飛びたい
10歳の娘、さくらが突然「パイロットになりたい」と言い出したのは、弟の健太が入院している病院からの帰り道だった。健太は先天的な心臓病を抱えていて、何度も手術を受けていた。外で元気に遊ぶことも難しい弟に、さくらはいつも何かしてあげたいと考えていた。
「どうしてパイロットになりたいの?」と聞くと、さくらは少し恥ずかしそうにしながらもこう言った。「健太が空を飛べるようにしてあげたいの。病院の窓から空を見てるだけじゃなくて、僕が飛行機に乗せて、どこまでも連れて行ってあげたいんだ。」
それを聞いたとき、私は涙をこらえることができなかった。幼いながらも、弟のために何かしてあげたいというその気持ち、そしてそのために自分ができることを夢として描いている姿に心を打たれた。
さくらは毎日、飛行機やパイロットの本を読んで勉強を始めた。「大きくなったら絶対にパイロットになるんだ」と、健太にも話していた。健太はいつもニコニコして「じゃあ、僕はさくら姉ちゃんの一番の乗客だね」と笑っていた。
健太が次の手術を迎える日、さくらは健太にこう言った。「僕がパイロットになるまで、絶対に元気でいてよ。約束だよ。」健太は小さな手でピースサインをしながら「約束だ」と答えた。
健太はその後の手術を乗り越え、少しずつ元気を取り戻している。さくらは今でも弟のためにパイロットになる夢を追い続けている。「いつか絶対、健太を空に連れて行くんだ」と、その目は輝いている。
さくらの夢が叶う日が来たら、きっとその飛行機の中には、空を見上げていた頃とは全く違う笑顔で座っている健太がいるだろう。空を飛ぶという夢が、ただの夢ではなく、愛と絆で紡がれた現実になる日が来ると、私は信じている。
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