hortus -私の庭園-

葉から雫がするりと落ちていく。その先に進むと止まった古時計がそのままにしてある庭がある。装飾の凝った白の丸テーブル、その上にあるティーセットとバターの香りを放つお菓子たち、明るい煉瓦で作られた小道、鉢植えの緑や木々たちを金の陽の光は等しく輝かせる。鮮やかな色の翼をもつ鳥たちが囀り、寒さと死と終わりを知らない森。遠くから泉が湧く音と囀りを引き立たせるゆったりと静かな音楽が響いている。

古希くらいだろうか。独りでに無くなるティーカップの中身を毎日注ぎにくる紳士がいる。テーブルのそばにある揺り椅子にゆっくりと腰かけて、ティーカップの中身が無くなるまでそこにいる。空になったティーカップを眺めたらゆっくりと立ち上がり、葉から雫がするりと落ちていく庭の入り口まで戻る。立て掛けていた杖を持って、また紳士は歩き出す。

その庭の刻は停まったまま。春の刻を閉じ込めた庭。空気は温かく、その中では老いも忘れて自由に歩くことができる。囚われたら逃れることは叶わない破滅の季節。

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