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「目先の業績に囚われずに構造改革を」来年創業30周年を迎えるIT企業のこれまでとこれから

スターティアホールディングス株式会社 代表取締役社長 本郷秀之

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル &アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第51回のゲストは、スターティアホールディングス株式会社 代表取締役社長の本郷秀之さんです。中小企業に特化したITインフラ事業とデジタルマーケティングSaaS事業を展開するスターティアホールディングスは来年で創業30周年を迎えます。創業者の本郷社長には、起業からこれまでの軌跡やいま見据えている未来についてじっくりお話しいただきました。


スターティアホールディングス株式会社
「スターティアホールディングスグループは、デジタルマーケティング(事業会社:クラウドサーカス株式会社)とITインフラ(事業会社:スターティア株式会社、スターティアレイズ株式会社等)を通じ、中小企業のデジタルシフトを進めていきます。「最先端を、人間らしく。」をコーポレートスローガンに、デジタル技術やサービスを、分かりやすく寄り添って提供します。
 
会社名 :スターティアホールディングス株式会社
所在地 :東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス19F
代表者 :代表取締役社長 兼 最高経営責任者 本郷秀之
設立 :1996年2月21日
上場取引所 :東京証券取引所 プライム市場(証券コード:3393)
事業内容 :グループ会社の経営管理等」

株価が低い時にしかできないことに取り組もう

別所:新年度早々のお忙しいタイミングに貴重なお時間をありがとうございます。御社はちょうど昨日が入社式だったと伺っています。

本郷:ええ。今年は71名を迎え入れました。新入社員の顔を見ると、改めて襟を正さないといけないなと感じますね。

別所:会社としての大事な節目でもありますもんね。では、本日は、スターティアホールディングスさんについて色々とお伺いできればと思います。まずは、会社の歴史や強み、事業の特色を教えていただけますか。

本郷:現在の我々の事業は大きく分けて二つあります。一つは、中小企業に特化したITインフラ事業。もう一つは、同じく中小企業向けに提供しているデジタルマーケティングSaaS事業です。創業は1996年でして、NTTが民営化された後、通信の自由化が進んでいったなかで、その波に乗って会社を立ち上げました。そして、時代とともに事業を拡大させ、今日に至っています。

別所:かなり早い時期からITビジネスに着目されていたんですね。

本郷:ええ。パソコン中心だった時代からインターネット上のサービスが広がり、Web1.0、2.0、3.0、4.0と進化していくなかで、その流れに沿ったサービスメニューを提供できるようにどんどん進化してきたつもりです。

別所:今から振り返ってみると、いろいろな節目があったと思います。思い出されるのはどんなことでしょうか?

本郷:そうですね、新卒採用に踏み切った時のことは強く印象に残っています。2002年です。

別所:まさに昨日入社式があったばかりという話もありましたが、新卒採用のスタートが。それはどうしてでしょう?

本郷:当時、まだ我々は従業員数十名で売上数億円規模の会社だったんです。そんな小さな会社が新卒社員を採用するという文化はあの頃の日本には無かったですよね。

別所:たしかに。採用にも育成にもコストがかかりますし。

本郷:でも、踏み切って本当によかったです。当時、新卒で入社した社員たちは今、会社の屋台骨に育ってくれています。彼らの存在がなかったら、現在のような組織体制は構築できていなかったように思えます。

別所:即戦力の中途社員ももちろん大事ですが、新卒社員も貴重な存在ですよね。御社はその後、上場も経験されています。2005年12月、東証マザーズへ上場されたことで大きな変化はありましたか?

本郷:大変なことは色々ありました。上場直後は非常に調子がよかったんです。けれども、上場翌年の1月にライブドア事件が起こります。すると、その余波が、東証マザーズに上場しているほかのIT系企業にも大きく押し寄せてきたんです。

別所:どういうことでしょう?

本郷:つまり、ほかのIT企業も粉飾決算しているのではないかという疑心暗鬼が広がって、我々の株価もみるみる下落していったんですね。そのときは相当苦しかった。

別所:ありましたね。

本郷:今でもはっきり覚えています。結局のところ、株主の見方が変わって株価は下落したものの、会社自体は何も変わっていないわけですよ。業績が悪化したとか不正を働いたわけではありませんから。だから胸を張ってやれることをやろうと。そして、考えに考えて、株価が低い時にしかできないことに取り組もうと決めたんです。

別所:株価が低い時にしかできないこととは?

本郷:思い切って収益モデルを転換するチャンスだと捉えたんです。

別所:どういうことでしょう?

本郷:結局、たとえ自社に責任が無くても、新興市場において投資家の信用を失ってしまったときに、多少良い業績を出したり、IRでいろいろ情報発信したところで焼け石に水なわけです。あまり意味がない。だったら逆に、目先の業績に囚われずに構造改革をしてしまおうと考えたんです。その頃まで、我々のビジネスは、売り切り型の事業モデルでした。たとえば、ルーターやネットワーク機器を数十万円で仕入れて百万円で売り切っていました。それを、5年間の保守サポート付きでのサービス契約といったストック事業に変更したわけです。

別所:なるほど。

本郷:そうすると、それまで1年間で計上できていた売上を5年間で計上することになるので一時的に売上は下がりますよね。けれども、長期的な売上は安定します。それまで年度末の3月31日までに売上を詰め込めるだけ詰め込んで、翌4月1日にまたゼロからスタートという苦しいスパイラルだったので、営業担当者も技術担当者も疲弊していました。けれども、2006年をきっかけに、一気にストック事業に切り替えたことによって、4月1日時点で新年度もある程度の売上が見込めている状態でスタートできるようになった。それはすごく良かったと思います。

別所:なるほど。たしかにそうですね。

本郷:あとは、まだSDGsなんて言葉は無かったときでしたが、ちょうど時代が、所有から利用へという考え方に変わってきていたので、その流れにもうまく乗れたのかもしれません。

別所:まさに時代を見る目。そして、目先の売上が低下する可能性があるだけに、株価が下がっているときこそチャンスだと踏み込んだ勇気はすごいですね。ストック事業は、安定した収益構造として株主にとって安心材料になるでしょうし、長期的には会社の価値向上に大きく寄与すると思います。

本郷:ありがとうございます。株価については、当社の場合、少し難しい事情も抱えています。いま申し上げたITインフラ事業は安定性が高く、売上高でも全体の7〜8割を占めているものの、バリュエーションがつきにくい事業モデルなんですね。一方、バリュエーションがつきやすいデジタルマーケティングSaas事業は、これからまさに回収フェーズという段階まできていますが、売上で言うと全体の2〜3割に過ぎません。ですから、現在の当社の株価はまだ、ITインフラ事業のバリュエーションしか組み込まれてないのではないか、と我々としては受け止めています。

別所:会社全体として評価されていないと。

本郷:ええ。悩ましいのが、投資家との限られた時間でのコミュニケーションのなかでは、その両方をなかなか説明しきれないんですね。二つの事業の安定性と成長性をうまく伝えるのに苦心している。その部分を今後強くアピールしていかなければならないと感じています。

日本製で世界に通用するITサービスを

別所:もしかしたらそういうときに動画の力、ショートフィルムの力が役立つことがあるかもしれません。また、御社は来年で30周年を迎えると伺っています。周年に向けて考えていらっしゃることやビジョンがあればお話しください。

本郷:自分にとっては、世代交代をうまく成功させることが大きな責任だと考えています。年齢的なことももちろんですし、やっぱり若い人間に色々任せないと難しいと感じることが多いですね。結局、我々世代の成功体験は、次の世の中の経営に対してはあまりプラスにならない気がするんです。今後、少子高齢化、人口減少がますます進み、日本経済全体は縮小に向かっていきます。そんななかで会社の業績を伸ばしていくためには、きっと我々のやり方とは違う独特の経営が必要でしょう。

別所:たしかに。

本郷:さらに、テクノロジーも日進月歩です。プログラミングなんて、いまでは生成AIがやってくれるから、それをどう使いこなすかの勝負になってきていますよね。そうやって考えていくと、我々が30年近くやってきたことで次の世代に活かせることは多くはない。だからあまり長く続けるものじゃないなと思ったりしています(笑)。

別所:そういったなかでも、会社のカルチャーや思いの部分を引き継いでいくことは大切ですよね。

本郷:もちろんです。私はまずは、当たり前ですけど、人として正しい行いをすることが大切だと思います。社内でのコミュニケーションにおいても、取引先とのコミュニケーションにおいても、誠実さがもっとも大切でしょうね。

別所:いつかバトンを渡すとして、次の世代にはどのようなことを期待したいですか?

本郷:自分たちにはできなかったことを達成してほしいです。いま気がかりなのは日本の「デジタル赤字」です。顕著な例としては、いわゆるGAFAMに対して日本はお金を支払うばかりの状況になっていますよね。これではアメリカとの差が開く一方でしょう。しかも、日本は資源のない国ですから。日本製で世界に通用するITサービスを作っていくことが必要だと思っています。

別所:おっしゃる通りです。

本郷:実際問題としては、日本のIT企業がアメリカに進出するのはこれまでの実績からいってもかなり厳しいですが、アジアに活路を見出すという手はあると思います。

別所:御社の海外展開はどのような状況でしょう?

本郷:やはり当社もアジアに可能性があると考えています。実はもうすでにベトナムで小さくスタートしていまして、今後、インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイといった国々でも展開するチャンスを伺いたいと考えています。

別所:御社のサービスがアジアを席巻することを期待しています。

本郷:ありがとうございます。

別所:実は、僕も映画祭を25年以上やっているなかで映像にまつわるさまざまな事業を立ち上げてきまして、近年ではWeb3事業として「LIFE LOG BOX」というクリエイター支援プラットフォームをローンチしました。これは、インターネットによる知財運用、デジタルデータアセットマネジメントを手掛けるためのサービスで、いまの時代、全人類が動画クリエイターだという世界観のもと、映画祭というハブをうまく使いながら、Web3時代のクリエイターのデータを管理・運用する情報銀行みたいなことをやりたいなと思って立ち上げたんです。


本郷:ええ。

別所:クリエイターが世界中の映画祭にエントリーしたり、DAOを作ってトークンで資金調達したり、作品の売買をしたり、オンライン映画館の運営をしたりするお手伝いや、企業とクリエイターをつなぐビジネスマッチング、NFTを付与したグローバルシネママーケットの運用、クリエイターのポートフォリオのデータ化など、さまざまなことをワンストップで提供できる世界を目指しているんです。本郷社長のおっしゃるとおり、これだけテクノロジーの進化やDXが進むなかでも、そうしたサービスを手掛けているのが海外の企業ばかりになってしまっています。僕は映画・映像文化の知財を管理する日本のサービスが絶対に必要だと思って自ら立ち上げまして、いままさに育てているところです。クリエイター同士がつながるとともにビジネスとしても成り立つようなものにしていくのが目標です。

本郷:ご説明ありがとうございます。可能性はすごくあるんだろうなという感じはしますよね。やっぱり、個人で活動することが多かったり、意外とバラバラに動いていることが多かったような業界のなかで、テクノロジーの力を使った別の形での流通をきちっとお考えになるということは大きな意味があるように思えます。いまはチャットGPTなどの生成AIのほうに流れがきているので、ブロックチェーンやNFTが少し立ち止まっているような感じがしますけど、落ち着いたらまたこれからもどんどん進んでいくと思います。

別所:その兆しは世界的に始まっていますね。暗号資産もビットコインもどんどん動きが出てきて、資産価値が戻ってきています。そうした流れのなかで、僕は「LIFE LOG BOX」から、日本の映画業界やDX 、Web3の未来を担う人材を輩出できるように世界に向けて発信していきたいと思っています。本郷社長ともなにかご一緒できることがありましたらぜひ! これからもよろしくお願いします。

本郷:ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

(2024.4.2)

スターティアホールディングス株式会社 代表取締役社長/本郷秀之
・1996年当社創業、代表取締役社長就任(現任)
・2018年には返済不要の奨学金給付を行う団体として
公益財団法人ほしのわ設立、代表理事就任(現任)
・2018年に一般社団法人熊本イノベーションベース
(旧:熊本創生企業家ネットワーク)設立、代表理事就任(現任)し、
故郷熊本の2016年発生の震災復興に取り組み、地方創生にも尽力」