オンライン告白

リモートで会議をしたりオンラインで飲み会をしたりするのが流行っているのだから、そのノリでオンラインで愛の告白もできるじゃないか。距離なんて関係ない。想いを届けることに関しては。

彼がそう気づいたのは、ユーチューブを見るのに飽きてそろそろ寝ようと布団にもぐっていた深夜1時ごろだった。そう気が付いてしまってからは逆にタイミングもくそもなくいつでも告白ができてしまう状況に立たされているこの状況に、いてもたってもいられない恥ずかしさや焦りや不安といった感情が彼の脳内を渦巻いて、眠ろうとしている瞼の裏側に奇妙な色のマーブル模様を作り出している。この人だっていう好きな人はいないのだけど、逆に言うと誰でもいいからいちゃいちゃしてちゅっちゅしてちゃぱちゃぱしたいんだという下半身直結型の思考のもとに、心のメリー・ゴー・ラウンドが拘束回転を始めている。そうこう考えているうちに朝が来て、うたたね程度の睡眠しかとれていなかったので軽い嘔吐感と顔のむくみについてしか考えられなくなっていたけれど。土曜日の朝。シャワーを浴びて500mlの缶ビールを飲み干し、濡れた髪の毛を乾かすことなく布団に潜って今度こそ本格的な眠りについた。

オンラインで告白をすること自体は実に簡単である。ただオンラインコミュニケーションツールで会話する約束をして、その会話の中で告白をすればいいということだけである。別に電話でするのと変わらないじゃないか。気づきと言えるほどの発見とは言えないじゃないか。そう。冷静に考えればそうなのである。しかし彼はその「オンライン愛の告白」に対して天啓とも呼ぶべき何かを悟ったらしい。それはずばり、「いままでできないと思っていたことが実はやってみたらできた」という体験に基づくということに他ならない。彼が思うに乙女心の一つの希望として、愛の告白は直接伝えてほしい、というようなことを思っている女性はある一定数いるだろう。(彼注:全員がそう考えていないことはもちろん承知しているし、直接伝えてほしい人が多数を占めると偏見しているわけでもないが、逆に男の多くは、女性はみんな男に直接言ってほしいと考えているに違いない、と思い込んでいるはずだ。例えば電話やSNSではなくて)だけれどこの外出自粛のご時世に直接会うこともできず、飲み会での地道なアプローチ活動や相手の些細な反応を確認できないこの状況にやきもきしていることさえ、なんだか無駄なことのように思えてきた。なんだか、無駄なことのように、思えるんだけどな。

今日も彼は登録しているYoutuberの新着投稿動画を見て夜更かしをする。

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