「はじめてのPRバイブル」(13000字)

お久しぶりです、大倉です。前回のnoteからだいぶ日にちが経ちました。前回書いた人生初のnoteは、かなり難解なトピックでマス受けしないことはわかっていたのですが、それなりに話題になりました。色々なところで反響があったようで、ありがたいことにnote公開翌日には複数の出版社様から出版依頼が来たり(現状予定はしていませんが)、某大手広告代理店の提案書にこのnoteのフレームワークが使われたり、多くの有名起業家・CEOやマーケター、ビジネスインフルエンサーの方々に拡散していただきました。

さて、今回は、多くの人がわかっているようでわかっていない「PR」について書いてみたいと思います。現在、複数の会社のアドバイザーや取締役を務めさせていただいています。もちろん大企業もあれば、いわゆるスタートアップや規模の小さな会社様まで様々です。その中で、マーケティングに予算を多く割けない会社様ももちろん存在し、そういう会社こそPRを戦略的に使うべきだと痛感し、筆を取った次第です。マーケティング予算が潤沢にない企業様や個人、インフルエンサー様にもかなり応用が効く内容になっていると思います。

私自身、PRが活発なビューティ領域で長く働いていたこともあり、PRには造形が深いマーケターだと思っています。そして、私が過去にビジネス成果を出せた理由も、マーケティングだけではなくPRをうまく利用できたからだと思っています。

実際、一例として、パンテーン時代は、世の中的につまらない商材の代名詞の一つである「シャンプー」で、全ての日本のテレビキー局の情報番組、アメリカのabc TV、イギリスのBBC、ヤフートップの掲載、twitterでも3月のトレンドワード入り、などありとあらゆるメディアやSNSに、日本だけではなく世界でも露出されました。

今回は、「はじめてのPRバイブル」ということで、前回と違い、かなり平易な内容で、PR初心者にもきちんと理解してもらえるといいな、という意図で書いています。私自身が、会社に入った頃に、こういう記事で「PRとは」を勉強したかった、と思える内容になっています。

・PRって、ボヤっとしてイマイチ使い方がわかってない
・PRって、とにかくSNSとかメディア露出させることでしょ?
・マーケ予算がまだないから、マーケティングなんてまだできない
・マーケ予算はとりあえずタクシー広告とかリスティングに使うんでしょ?

といった問いに、ギクッとした方は、特におすすめです。単なるメディア露出ではなくビジネスを伸ばす視点でのPR活用がまとまった本や記事が意外とないので、かなり有用だと思います。平易に書きましたが、意外と10000文字超えたので、中身は濃密だと思います。

対象者は、マーケティング・PR・広報従事者、経営者、スタートアップや中小企業で働いている方々全般です。to B, C共に問題なく使える考え方になっていると思います。特に経営者にとっては、自身のPRが会社のPRにもつながるので、PRはきちんと理解しておいた方がいいと思います。

それでは、参りましょう。

1. PRとは - prtimesでプレスリリースを書くことではない

PRの定義

PRとは、一体何でしょうか。個人的な見解ですが、マーケケティング=広告を作る仕事、と同等かそれ以上に誤解されている領域だと思っています。よくあるPRの誤解は、「プレスリリース(ニュースリリース)を打って、雑誌とかテレビとか、華やかなメディア業界の人に取り上げてもらったり、記者会見したりすること」です。これ、違います。

PRの定義は、杓子定規にとると、Public Relations、公共との良い関係づくり、みたいなことになりますよね。PRとは広報だ、とか、メディアリレーションをすることだ、と説明する人もいます。Googleで調べてみても色々とその類の定義が出てきます。でも、いまいち分かりづらい。

私のPRの定義は、ビジネスサイド寄りにはなりますが、

「第3者を通じて、ブランドの声を代弁してもらうことで消費者・ユーザーから共感と信頼を勝ち取る」

となります。簡単なお題を出してみましょう。

この冬休みに家族で行きたいレストランを探しています。下記のオプションのうち、どれが魅力的でしょうか?

1. ミシュラン星付きのレストラン
2. 王様のブランチで紹介されていたレストラン
3. グルメの友人がオススメしているレストラン
4. 東京カレンダーに載っているレストラン
5. 食べログで4.0点以上のレストラン
6. ウェブ広告でよく見るレストラン

もちろん、人によってチョイスは異なるかとは思いますが、多くの人にとって、6は中々選ばれにくいチョイスになるかと思います。

ここには、重要な2つの示唆があります。一つ目は、人は、第3者がおすすめしているブランドを選びやすい二つ目は、第3者にも色々な定義があり決してメディアだけではない、ということです。

なぜPRが重要か

消費者は、自分が何も知らない人や会社、ブランドの声には耳を傾けないのです。まだ生まれて間もないサービスやブランドが、いきなり声を大きく上げて話しかけたところで、なかなか消費者は聞く耳を持ってくれません。これほど情報が氾濫する時代ならば、なおさらです。

よくよく考えてみれば、ヒットした新規ブランドやサービスで、最初に派手な広告を打って成功したケースはあまり多くないと思います。もちろん、超大企業で広告予算が数十億円もあれば、力技でのっけから広告で売上を立てるケースもあるかと思いますが、そもそもそんな打ち手を打てる会社はほとんどありません。例えば、スターバックスなんて、ブランド誕生当初は、広告は全く打たずに、PRでブランドを醸成して今日の姿があります。

では、どうすれば消費者は聞く耳を持ってくれるのか。それは、まず、第3者の信頼を勝ち取ることです。あの人も話してた、あそこのSNSでも見た、あのメディアでもなんとなく見た気がする、という状態を作ること。これが、PRの大変重要な役割で、かつ、PRがユニークにできることです。そういう状態の後に見聞きした企業やブランドの広告は、消費者の受け入れ方がまるで違ってきます。例えばですが、「Forbesで将来の有望なスタートアップtop30に入った会社の、新しいマーケティングSaaSのサービスです」と言うのと、「新しいマーケティングSaaSのサービスです」とでは、聞いてくれる度合いが異なってきますよね。

まずは、PRでゆっくりと第3者の信頼と実績を勝ち取り、ブランドの基礎を作り、その後に広告、の順序が望ましいのです。やるべきことは、第3者の間で注目されるような商品やサービスをそもそも作ること、そして、その人たちの中での信頼を勝ち取り、声を集めること。それをうまくメディアやSNSで広げること。最後に、そういう声を使いながら広告を作っていく、ということです。知名度の低い企業やブランドが、いきなり広告に大金を投じるのは、かなり危険だと思います。相当投資効率が下がる可能性が高いです。ですが、これをしている会社が実に多い。そして、PRは、広告に比べたら知恵次第で低予算で始めて一定の効果を得ることができます。

SNS誕生後の消費者の態度変容も、PRの重要性を加速させています。いわゆる、マーケティングファネル、というものですが、昨今では、そもそも以前のように大量に認知させてジョウロ型に購買が起こるというケースだけではなく、1人の第3者の信頼・熱量から、多くの人に波及していくというケースもかなりの確率で起こっています。

2. PR戦略の前に、まずは、マーケティング戦略を

PRの重要性がわかったところで、では、具体的にどうしていけばいいのか。PRの前に、まずはマーケティング戦略を明確にすることです。マーケティングの定義は、前回の記事でも述べましたが、ブランドの置かれている状況を鑑みて、購買人数、購買頻度、購買点数・量、購買単価のどこを重点的に伸ばしていきたいのか、その前提で、

WHY: なぜブランドが存在するのか
WHO: 誰がターゲットの消費者なのか
WHAT: どういう価値をブランドが提供するのか
WHERE: どこにターゲットの消費者はいるのか
HOW: どのようにブランドの価値を伝えていくのか

を作り込んでいく、ということでした。(今回は、PRが主題なので、マーケティング自体については多くは触れません)PRは、マーケティングの一部です。つまり、マーケティングの方が上位概念なので、当然ですが、良いマーケティング戦略がなければ、良いPR戦略・プランもできません。

とはいえ、マーケティング戦略を考える際に、PR視点を盛り込んでおくことで、後々PR展開が非常にしやすくなることがあります。そのポイントを述べていきます。

WHO: ターゲット消費者の購買バリアを理解する

ターゲット消費者をあらゆる角度から解像度高く理解することはマーケティングの出発点、いや、全てのビジネスの出発点であると思います。詳細はここでは言及を避けますが、PRの視点から言うと、まず理解しておいた方がいいことは、「消費者の購買バリア」です。購買バリアとは、何がバリアとなって自分のブランドやサービスが購入までに至らないのか、です。色々と種類がありますが、典型的な例としては、下記のようなものがあります。

・想起(認知ではなく想起)
・自分ごと・共感の欠如(私のためのブランドと思えない)
・商品の便益に対する信頼性の欠如(伝えたい便益はわかったけど、本当にその便益が得られるか信じられない)
・コスパ(似たようなものが他に安い値段で買える)

もちろん、どれも自分のブランドには該当する、といったケースがほとんどだとは思います。しかし、どれも一気に解決することはできないので、戦略的にどれか1つ、2つに絞ることが大切になります。PRは、特に、第3者の声を活用することで、「自分ごと・共感の欠如」と「商品の便益に対する信頼性の欠如」に大きく効果を発揮することができます。

WHAT: PR視点でのモノ・コミュニケーションづくり

ここは、難易度が高いですが、実行できたらかなりのアップサイドがあります。ブランドや商品・サービス、新しいコミュニケーションを作る際に、PR視点も取り入れようと言うことです。それはすなわち、どのようなアングルでモノづくりやコミュニケーションをしたら、メディアやインフルエンサーなどの第3者が話題にしてくれそうか、ということです。前回の記事でも紹介しましたが、「トーカビリティ」(話題性)をどう設計するか、ということですね。

1つの有効な考え方は、カテゴリーを絞り込んで、新しいサブカテゴリーを作り、そこで第1人者になることです。メディアや第3者はみんな、No.1、第1人者や希少性のあるものを好みます。日本で一番高い山は?と言われて富士山とみんな答えられるが、二番目は答えられないのと同じです。だったら、自分が一番になれる山のカテゴリーを新しく作るのです。そうですね、例えば、日本で一番美味しい湧水が飲める山、みたいなイメージでしょうか。

他のわかりやすい例は、テスラ、ですね。車市場という超巨大なカテゴリーの中で、(おそらく最も早く、いや、実際本当にそうだったかは重要ではなく、少なくとも我々の知覚の中では第1人者になっている - これもある意味PRの力)、EV市場という車市場のサブカテゴリーに早くから絞り込み参入することで、多くの耳目を集めました。

トーカビリティを作った最近の好例ですと、Not A Hotelでしょうか。別荘自体は古くからありますが、「使用していない時は貸し出してシェアできる」「テクノロジー化された別荘」「カートで数千万円のお買い物」「数量限定」など、いかにも第3者が話題にしたくなるポイントがいくつもあります。(ただし、これらを一言で表すサブカテゴリーの名前が思いつかないといったところに、まだ伸びしろがあるかもしれませんね)

HOW: 全体のマーケティングファネルの中でのPRの役割

こちらも前回の記事で紹介しましたが、いわゆる5Aのファネル(認知、訴求、調査、行動、推奨)をしっかりと作成し、その中で、ファネルのどの段階にPRが最も貢献して欲しいのかを明確にすることがポイントです。自社の置かれている状況によりけりではありますが、まだまだ小さいブランドやスタートアップの場合は、広告にお金を使うという手段が限られているため、PRでほぼ全てのファネルをカバーすることになり、成熟した大きなブランドの場合、「認知」は広告で補うので、「訴求」・「調査」、のためにというケースが多いかもしれません。

特に「調査」は非常に重要になってきます。PRそのものが第3者の声を活用するもの、それすなわち、ネット上の比較検討時に、きちんと第3者の声が活用できていると、選ばれる確率が高くなるということです。高等テクニックになりますが、自社のターゲットユーザーがサーチしそうなキーワードを事前に洗い出し、それに沿って第3者とコンテンツを作っていくというやり方もあります。例えば、「高級な塩」というサーチワードで勝ちたい場合、ミシュラン星付きのシェフと事前に協業をして推薦してもらえるような実績を作っておき、それをコンテンツにする、といった具合です。

3. PR戦略 - WHO(誰があなたのインフルエンサー?)

さあ、ここからいよいよ具体的なPR戦略のお話にいきたいと思います。

まずは、PRのWHO(PRでアプローチしたい人)を設定することでしょう。どういうことか。再三述べてきたように、PRとは第3者の声を活用してブランドへの共感や信頼を勝ち取ることです。しかし、第3者と言っても複数存在するのです。例えば、

・インフルエンサー(いわゆるSNS上のインフルエンサー)
・メディア(雑誌、テレビ、ウェブメディア etc)
・権威ある機関・人(xxx協会、xxx教授など)
・芸能人
・一般消費者・ユーザー(往々にして自社のロイヤル顧客)

と言った具合です。大切なことは、自社のブランドや商品にとって、どの人の声が最も有効なのか、また、もしそれがメディアだったとしたら、そもそもターゲット消費者がよく見ていて購買に影響を与えるメディアはどこなのか、を理解することです。これが、PR WHOを決めることになります。

例えばですが、美容業界ですと、美容雑誌の有名編集長や、大御所美容家なる方々がいらっしゃいまして、このような方々の信頼を勝ち取って紹介してもらえると、やはりブランドの購買に結びつく確率が高くなるのです。ですので、ビューティブランドは皆躍起になって雑誌に出稿したり、大々的にPRイベントなどを開催するのです。

他にも、美容業界ですと、権威ある研究機関からのお墨付き、も大切になってきます。聞いたこともあるかもしれませんが、大手ブランドは、よく世界的に有名な大学と共同研究をしています。(例えば、Diorがスタンフォード大学と共同研究)これは、何を目的にしているのかというと、権威のある大学の名を借りて、自社製品の成分などの新しい効果を発見しました、といったようなファクトを作ることです。このファクト自体が消費者やユーザーにある程度響くということもありますが、実は、それ以上に、他の第3者、例えば、大御所美容家などの信頼を勝ち取る要因になるのです。第3者の信頼を勝ち取るために、さらに第3者の力を借りる、という構造です。

ここでのポイントは、アプローチしたいPR WHOが決まったら、その人たちが欲しい実績やファクト、メッセージは何なのか、を突き詰めることです。そして、それらを意図して作り出すためにはどうすれば良いのか、アプローチの仮説を立てることです。

PR WHOによって、求める情報は異なることが多いので、そこをきちんと見極めましょう。例えば、テレビは今の世の中で話題になっている事象や、視聴者に共感を得られる内容を取り上げたい、一方で、新聞・雑誌・ウェブメディアなどは専門的な情報を欲している、などです。

4. PR戦略 - WHAT(あなた自身が、PRプランナー)

PRの目的に応じた2つのWHATの方向性

PR WHOが決まったら、次は、PR WHAT (PRで打ち出したいメッセージ)を決めることになります。

まずはわかりやすいように、具体例を出しましょう。上述した、商品の便益に対する信頼性の欠如、を優先的に取り組みたい場合、

・90%の歯科医が実際に病院で使っている歯ブラシ
・カリスマ美容師がおすすめするシャンプー
・病院で最も使われているオムツ

といったような、皆さんにもおそらく馴染みのあるようなメッセージが挙げられます。このようなファクトを、PR WHOと作り上げていく、ということですね。このようなアプローチの場合、上の美容業界の例で述べましたが、そもそもの商品力とその裏付けはやはり必要になってきます。

また、PRが果たせるもう一つの大きな役割である、「共感・自分ゴト化」についてはどうでしょうか。こちらは、私が取り組んで大きな成果をあげたパンテーンの#HairWeGoの事例を見てみましょう。

前回の記事でも述べましたが、同調圧力に屈しず、「あなたらしい髪で前向きな一歩を踏み出そう」というメッセージのもと、就活、髪型校則などのテーマについて様々な施作を打ち出してきました。古臭く、マス化しすぎてしまっているブランドを、特に若年層の中で「自分ゴト化」してもらう狙いがありました。

全ての日本のテレビキー局の情報番組、アメリカのabc TV、イギリスのBBC、ヤフートップの掲載、twitterでも3月のトレンドワード入り、などありとあらゆるメディアに日本だけではなく世界でも露出されました。(海外の露出は完全におまけですが)

また、若年層に特に大切なSNS上でも、インフルエンサー含む多くの方々に共感の声をあげていただきました。

こんなに露出が取れたのは、大企業でお金がたくさんあったからでしょ、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、皆さんが思ってるような大きなお金は使っていません。もちろん、個人事業主の方などからしたら大きな額ではあると思いますが、タクシー広告を流すようなスタートアップでしたら十分賄えるレベルです。では、なぜそれができたのか。

パンテーンの場合、何千万人の人にリーチしなければならないマスブランドなので、PR WHOは、いわゆる大手マスメディア、さらに、それぞれのテーマ(就活、髪形校則、ジェンダーダイバシティ)に合うオピニオンリーダーの方々でした。PR WHATは、#HairWeGoという大きなアイデアの傘のもと、#就活をもっと自由に、#この髪どうしてダメですか、#令和の就活ヘアをもっと自由に、#PrideHairといったように、選んだ社会テーマに則ってメッセージを打ち出しました。社会性のあるメッセージは、正しく設定すれば多くの第3者の共感を呼び、その輪がさらに広がり最終的に消費者の方々にも「自分ゴト化」してもらえます。これは、「共感や自分ゴト化」が目的の PRの場合、1つ大きなポイントになります。

大切なことは、ストーリー

もう1つのポイントは、私自身のストーリーがあることです。例えば、下記です。

Paid(タイアップ)のものもありますが、Earned (つまり、無料での露出)の露出も、他に多くありました。このような私自身のインタビューはもちろんですが、ブランドやキャンペーン全体に関わる露出が上掲したようにたくさん取れた一つの理由は、そもそも私の思いやストーリーがあったからです。

ここは大変重要なポイントで、第3者は、ブランドや商品の背景にあるストーリーを欲していることが多いのです。そして、それが社会性のあるテーマや、今時流に乗ってみんなが注目しているトピックだとなお良い。なぜストーリーが欲しいのかというと、メディアなど想像していただければ分かりやすいと思いますが、人の心を揺さぶる何かをメディアは届けたいのです。

ストーリーは、ブランド自体のストーリーでもいいですし、とりわけスタートアップの場合やはりファウンダーのストーリーが最も有効でしょう。ファウンダーが、ブランドやサービスの顔にならないといけないということですね。自分、ファウンダー、自ブランドの人生や歴史を振り返り、ぜひみなさんもストーリーを作ってみてください。

コモディティの最たる例であるシャンプーという世の中的には「つまらない」商材でも、社会性とストーリーを掛け合わせて緻密にプランすれば、ここまで大きくすることができるのです。きっと、皆さんのビジネスでも、同様のチャンスはあると思います。あなた自身がPRプランナーになったつもりで、ストーリーを作成してみてください。

5. PR戦略 - HOW(広報?広告?最適な手段は?)

スノーボール・アプローチ

PR WHOとPR WHATが決まったら、いよいよ実際の施作、アプローチの段階に入ります。とはいえ、スタートアップや小さなブランド、個人事業主などの場合、リソースもないしどうやっていったらいいのか分からない、という人も多いと思います。

私のおすすめは、とにかくまず、n=1で実績を作りに行くことです。PR WHOを具体的にイメージして、その人・機関・企業に直接自分からアプローチする。そのn=1の欲しい情報やファクト、をきちんと精査し、それらの情報に自らのストーリーを添える。どうやって具体的にアプローチしたらいいか?今の時代、色々なやり方があります。

  • 出来立てほやほやのビジネスの場合、まず私がお勧めしたいことは、数名のロイヤルカスタマーを作り上げること。顧客自体も第3者ですね。そこで良い評判を築くことができたら、その声をさまざまなところで利用できます。特に、どういうロイヤルカスタマーを作れば、それが大きな宣伝効果になるのか。これは、to Bビジネスでことさら有効なアプローチだと思います。to Bビジネスの場合、to Cに比べて対象顧客が狭いので、象徴的なお客さんを作りやすいですよね。

  • ネット上で狙い撃ちしたいメディアやインフルエンサーに直接連絡。メディアも、常にネタを探しています。意外と、具体的な番組や雑誌のHPやSNSに行けば、情報募集中、といったページがあります

  • PR会社、代理店を使ってもいいでしょう。あなたの求めている第3者にアプローチしてくれます。フィーとして毎月100万円前後かかってしまうかもしれませんが(代理店によりけり)、広告を無駄に打つよりよっぽど意味はあると思います。

  • 最近ではこのような大変便利なサービスもあります。PR会社マテリアルのクラウドプレスルームというサービスですが、月額数万円で、欲しいネタを探しているメディアと、企業側をマッチングする大変便利なサービスです。つまり、企業側で、どんなメディアがどんな情報を欲しているかを知ることができ、そこにピンポイントで直接アプローチできる、ということですね

まず少数の実績・露出を作ることができたら、それを色々なところで活用します。例えば、あなたがレストランを経営するとしましょう。色々と考慮して、PR WHOとして某有名料理評論家を設定したとします。その人にアピールできるようなファクトやストーリーを作り、見事その方のSNSなどで紹介されたとします。そうしましたら、そのファクトを様々なところで展開するのです。

・自社SNS
・サーチ・エンジン(自社HPなどでコンテンツを作る)
・自社EC / LP / ECプラットフォーム(アマゾン・楽天など)
・自社メルマガ、CRMメール
・デジタル広告
・(消費財などの場合)パッケージなど

このように、1つでもいいので実績ができれば、それが雪だるま式に色々なところに展開することができる、これがスノーボール・アプローチです。誰でも最初は実績がないので、まずは意図的に作るのです。メディアの例でいうと、地方に住む知人が、某地方のテレビ番組に出ているローカル有名人の方に個別アプローチをして、その方が商品を気に入ってくれ、全国放送に出た時に紹介してくれた、という話もあります。これも、スノーボール・アプローチですね。

6. いわゆるインフルエンサー・マーケティングのコツ

おまけですが、この章では、より具体的にいわゆるSNSのインフルエンサー・マーケティングの簡単なコツについて話しましょう。やはり、SNSの影響の大きさと、小さい企業やブランドでも低コストで始められるということで、インフルエンサー・マーケティングを実施している方は多いと思いますので。私、P&G時代に、トータルで何十億円分を使って様々なインフルエンサーマーケティングを実施・レビューしてきたので、中々実践的なアドバイスになると思います。

トライブを探す

本当に効果的にインフルエンサーマーケティングをしたいならば、トライブを探すことが非常に大切です。トライブとは何でしょうか?それは、共通の目標があり、ユニークなハッシュタグや名前がついている集団のことです。例えば、#プレ花嫁、#カープ女子、#筋トレ好きとつながりたい、といった具合です。このようなトライブを見つけ、そこに自社のブランドや商品が入り込めれば、大きく拡散する可能性があります。なぜなら、トライブは共通の目標があるために、シェアしたがる可能性が高いからです。

例えば、#プレ花嫁。このトライブは、大事な結婚式の前に、いかに最も美しい自分でいられるか、という共通の目標があります。そういった人たちに、HACCHIのコラーゲンドリンクはうまく入り込み、美容感度の高いプレ花嫁たちが結婚式までに飲む定番ドリンクとして認知され、シェアされています。

twitterやインスタで、想定するジャンルの検索キーワードを探せば、きっと色々とトライブを見つける手がかりがあるはずです。

具体的なインフルエンサーをスクリーニングする

次に、定めたトライブの中から具体的なインフルエンサーを探します。こちらも、トライブがよく使っている#で色々と迂回していれば、目ぼしいインフルエンサーが見つけられるはずです。

候補が見つかったら、定量、定性的にスクリーニングします。定量的には、ツールを使い、そのインフルエンサーのフォロワーにどういう人がいるのか(性別・年齢)、エンゲージメント率などをチェックします。女性にリーチしたいと思って女性のインスタグラマーに依頼しようと思ったら、実はフォロワーが男性ばかりだった、ということはよくあります。こういうことを避けるために、定量的にチェックするのです。「インフルエンサー ツール 選定」などと検索したら、色々とツールが出てきますので、調べてみてください。

定性的には、そのインフルエンサーの投稿がきちんとブランドの世界観にマッチしているか、コメントしてくれたフォロワーにきちんとコメントを返しているか、などを、過去の投稿を実際に見ながらマニュアルチェックするのです。

コンテンツを作る

ご一緒したいインフルエンサーが決まったら、いよいよ具体的なコンテンツづくりです。コンテンツとは、SNSに投稿する内容のことですね。ポイントは幾つかあります。PR全般で言ったことと同じですが、インフルエンサーが求めているもの、得意なこと、などは1人1人違うので、きちんと話す内容、提供すること(データや商品も)をカスタマイズして対応すること。また、こちらから一方的にこういうものを投稿してください、と押しつけるのではなく(ブランドからの縛りもなるべく少ない方がいい)共創すること、最後に、そのインフルエンサー自身もブランドのファンになってもらえるように、できるだけ長期的な関係を築けるようにすること(そうすると、こちらからお願いしなくてもブランドの宣伝をしてくれることがあります)、などが挙げられます。

諸条件の交渉

最後に、とても実務的ですが大切なことを。それは、投稿後に、広告でさらにブーストする、しかも、できたらその人自身のアカウントで広告配信するようにお願いしておくことです。SNSなどで投稿したコンテンツのパフォーマンスが良い場合、さらにそれをお金を使って広告としてブーストすることで、より多くの人にリーチすることができます。また、ブランドのアカウントからの広告より、当然、インフルエンサーのアカウントからの広告の方が効果が高いので、なるべくそういう条件で契約を結べた方が良いです。インフルエンサーによっては、自分のアカウントからの投稿が広告として流れることを嫌うケースがあるので、折衝が必要です。なお、実際の投稿のパフォーマンス(広告含む)のデータに関しても、シェアしてもらえるような契約にしておくとベターです。

7. KPI

最後に、何をKPIとして設定するかです。PRに関しては、中々難しい部分です。よく、広告換算値が何億円いきました!といったものをPRのKPIにしていることを散見します。広告換算値とは、広報・PR活動によって掲載につながった「ニュース記事」の掲載価値を示す一つの参考値のことで、同程度の条件で広告を出稿した際の広告費やPV数をもとに算出しているため、掲載内容の質・量では変化せず、媒体ごとにおおよその露出価値を換算したものです。

しかし、これだけでは全く不十分です。マーケティング戦略をまず立てよう、の部分でもお話ししましたが、そもそも5AのマーケティングファネルのどこにPRの目的があるのか次第で、KPIも変わるべきだからです。広告換算価値は、認知が目的の場合はある程度意味があるかもしれませんが(それでも、PR timesから派生してターゲットの消費者が全く見ないようなメディアにちょこんとだけ紹介されたものも広告換算価値としてカウントされるので、かなり信憑性の低いKPIだと思っています)、それ以外のファネルの場合KPIとしては不十分です。

そもそも、PRは、スタートアップや出来立てのブランド、小さなブランドにとってはマーケティング施作の生命線になるので、純粋な売上などの大項目も成果指標になり得ますし、第3者からの信頼を勝ち取った証としてxx賞受賞(モンドセレクションや@コスメno.1など)、ブランドの効果訴求ができたかという意味でのエンゲージメント率(デジタルコンテンツの場合)、認知経路としてPRが選ばれていたか、など幅広く設定できます。PR施作の目的が何なのかに立ち返り、それに従って正しいKPIを設定するのが良いでしょう。

8. 終わりに

いかがでしたでしょうか。冒頭で述べた通り、今回は、PR初心者の方でもなるべくわかりやすいように書きました。私の実感値として、「マーケティング領域において最も誤解・過小評価され、また、うまく使えば大きな差別化要因になる」ものがPRだと思っており、大企業だけではなく、スタートアップ、中小企業、個人事業主、また、マーケターのみならず経営者などにも幅広く有効活用されるべきものであると強く思ってます。今回の記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。

また、前回noteを書いてから顧問、アドバイザーや社外取締役の依頼が殺到しまして、今は基本受け付けていませんが、エクイティ出資を前提とした協業、特に、インフルエンサーの方とのブランド創設には興味がありますので、何か一緒に大倉としてみたい、という方は是非ご連絡ください!

連絡先はこちら

メールアドレス:info@okurabootcamp.com
Twitter: https://twitter.com/brand_builder01 

ありがとうございました!

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