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『日本経済新聞』の原発廃炉関連記事には,脈絡の読みにくい報道の仕方によく当たる

 ※-1 本日の論題は,『日本経済新聞』のそれも原発廃炉関連記事からは脈絡の読みにくい報道が,確かに登場してきた事実をとりあげ,議論するためのものである


 『日本経済新聞』が報道する原発「廃炉」に関係する記事のなかには,前後一貫しないというか,その脈絡が論理的に汲みとりにくい,つまり,原発推進の立場・イデオロギー性が過剰な報道であるせいで,

 自社の編集方針を露骨に反映させようとするあまり,読者が注意深く読むと論旨の不徹底というか,原発推進の心情ばかりが先走っているが,かといって,その意図そのもの読者に悟られたくない,みたいに書かれる記事がけっこうある。

 付記)冒頭の画像は,島崎邦彦『3・11大津波の対策を邪魔した男たち』青志社,2023年の表紙カバーの一部分を切り取り,借りた。

 最初の段階なので,ここではとりあえず抽象的にだけ指摘しくおく。同じ記事が「最終・4版」において,原発廃炉問題関連してだが,「前後して一定の意味のあるはず」の「特定の段落の文言」が削除されていた,という件について言及する。

 記事によっては同じの朝刊・夕刊で版を重ねれば当然,そのような削除〔もあり追加・更新〕もあると,一般論としてはいえる。だが,この記述が問題にするのは,原発問題に関して疑問を残す論点が,いわば議論の中途においてその報道の内容の腰を折るかのようにして,しかもなんの断わりもなく「静かに削除されていた」件のほうについてである。

 その種になる『日本経済新聞』の記事をめぐって起きる出来事は,本日のこの記述は,2019年12月3日朝刊のある記事に関して発生していた場合をとりあげ,議論してみたい。

 本日この記述の要点は,つぎの2点に表わしておきたい。 

  要点:1 原発の廃炉問題は未来永劫にわたる難問・難題・難関・隘路を意味する
  要点:2 前後する関連の記事に矛盾するごとき内容はなかったのか?

【余談】 2019年11月23日から4日間の日程で日本を訪問したローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇(82歳,当時)が,「原発は完全に安全が保証されるまでは利用使うべきではない」と明言していた。もっとも,その点は教皇にいわれるまでもなく,自明に属する認識である。

 歴代教皇の来日は,故ヨハネ・パウロ2世以来38ぶり2回目であった。。 フランシスコ教皇は24日に被爆地の長崎,広島両市を訪問し,核兵器廃絶と平和へのメッセージを発信していた。

 先日,2023年5月19日から21日に広島市で日本が主催・議長国となって,G7サミットが開催されていたが,その評判は肝心の地元広島市・県で悪かった。そのあたりは,日本共産党が発行する『しんぶん赤旗』の記事が,的確に説明しているものを,以下に聞いてみたい。

    ◆ G7サミットの報道 全国紙 欠落する本質的批判 ◆
 =『しんぶん赤旗』2023年5月23日,https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2023-05-23/2023052301_04_0.html から冒頭と末尾の段落を引用する =

 「国際秩序を守る強い決意示した」(「読売」),「秩序の維持へ結束示した」(「産経」)-。〔5月〕22日付の全国紙の社説・主張には,こんな見出しが並びます。被爆地・広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は,G7の深刻な限界と矛盾を浮き彫りにしましたが,各社の報道にそうした視点はなく,本質的な批判が欠落しています。

 (この間,大幅に中略)

 一方で,地元紙の『中国新聞』は,「広島ビジョン」について,「(核兵器)保有国や米国の傘の下にいる同盟国の立場を肯定し,忖度(そんたく)するような記述には目新しさもない。ビジョンが,多くの原爆死没者が眠る広島の地名を冠するにふさわしいとは思えない」と指摘。

 『西日本新聞』も「(広島ビジョンは)被爆地の願いとは懸け離れていることを岸田首相は自覚しなければなるまい」と断じています。

 広島の被爆者でカナダ在住のサーロー節子さんは,G7広島サミットは「失敗だった」と痛烈に批判。被爆地・広島から核兵器に固執する宣言が出されたことに,多くの被爆者が怒りの声をあげています。メディアが重く受け止めるべきは,こうした声ではないでしょうか。(引用終わり)

補注)『中国新聞』はさておき,『西日本新聞』は,福岡県福岡市に本社を置く株式会社西日本新聞社が発行している日刊新聞である。ブロック紙に分類され,『北海道新聞』『中日新聞』とともにブロック紙3社連合を結成している。

ブロック紙3社連合

  核兵器(原爆)と原発(原子力発電)は,双子の兄弟である。核兵器に対する批判は,原発に対してもじかに通じるし,そのまま妥当する。日本は46トンものプルトニウムを溜めこんでおり,核兵器の大きさにもよるが,2千発から3千発分もの「材料」を確保してある。

 核燃料サイクルだとか,高速増殖炉の実用化・商用化にまでは,まだ全然至りえない技術開発の段階・状況にありながらも,すなわち,それらの技術的な成功がまったくおぼつかない現状に置かれてきたが,それでなお,その出来もしない「核燃料サイクルの確立」だとか「高速増殖炉の運転」に,異様にまで執心してきた。

 ここでは,原子力ムラの日本的様相をいくつの図解を借りて,その実相を想像(イメージ)してもらうことにしたい。観た目で分かりやすいものから順にかかげておく。

原発利権ペンタゴン
原子力資本主義
原子力マフィア相関図
原子力村・癒着相関図
 

 ※-2「福島第1廃炉,デブリ撤去完了見えず 政府が工程表改定案」『日本経済新聞』2019年12月3日朝刊5面「経済」(467文字)  

 政府は〔2019年12月〕2日,東京電力福島第1原子力発電所の廃炉に関する工程表の改定案を示し,事故後30~40年とする完了時期を維持した。最大の難関とされる溶融燃料(デブリ)の取り出しを2号機から2021年中に始めるとしたが,どれほどの時間がかかるのかは分かっておらず,完了時期を示さなかった。トラブルや工程の遅れが目立ち,廃炉完了は見通せていない。

 補注)チェルノブイリ原発事故の後始末ができているとはとうていいえないものの,現状は第2期目の石棺化工事を終えており,爆発事故を起こした4号機は事故ったままの状態でお棺に覆われている。これは臭いモノにはフタをする方法で,事故を起こした原発の収束をひとまず図っていた。

 しかし,東電福島第1原発事故現場は地下流水に関係する汚染水の発生問題が解決の見通しもつかないまま,溶融する大事故を起こした「1・2・3号機のデブリ」を除去するという “たいそう困難,至難” というほかない課題に,それも「これからとりかかる」のではなくして,「とりかかろうとしている」段階にある。 

 補注の補注)東電福島第1原発事故現場の場合,汚染水(処理水)の海洋放出は,つぎの手順で実施される予定が組まれているが,地元の意向は完全につぶした方途になっていた。

処理水の海洋放出

海洋放出の流れ『福島民友新聞』

 その点でいうと,この『日本経済新聞』2019年12月3日朝刊の記事は,真正直に現場の状況を伝えようとしている。この記述で問題とする論点は,② の記事に映ると明解になるので,くわしくはそちらで説明する。

〔記事に戻る→〕 改定案では1~6号機の建屋のプールに残る核燃料4741体の取り出しを2031年末に終える目標を新たに設けた。炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機のうち,3号機は4年遅れで2019年4月に始まった。1,2号機は2023年度をメドに開始する。

 補注)思いだしてほしい。2011年の「3・11」東日本大震災の発生直後に襲来した大津波の被害を受け,東電福島第1原発の3基が爆発事故を起こしてからというもの,この記事が報じている話題はすでに,「10年単位」にわたる説明の内容になっている。

 しかも,現時点までデブリが本格的に取り出されているとはまったくいえず,この原発事故の後始末そのものが,いったい,いつになったらとりあえずでも「デブリを本格的に取り出せる時期」になるのかさえ,いまのところまで,見通しがさっぱり予測できないでいた。

 汚染水を処理したといって事後,太平洋沿岸に放出するこの「汚染水」には,トリチウムだけが残存して含有されているのではなく(トリチウムじたいが有害でないと主張する意見は非科学的である),そのほか除去できていない核種が何種類も含まれている。

 つまり,その「処理水」だと自称する「汚染水」は,太平洋沿岸に放出されるに至っても,まだセシウム137,ストロンチウム90,ヨウ素などの放射性物質が含んでいる。 これらの放射性物質は,通常の原子力発電所では燃料棒の中にとどまっていたが,事故を起こしたさいにその燃料棒から大量に漏れた物質である。

 だから,そもそも「汚染水」と「処理水」とのあいだを,物性的に区分しきろうとする発想は間違いであり,技術的思惟としては「欺瞞的な表現」である。

〔記事に戻る→〕 廃炉は放射性物質に関するリスクを取り除く作業だ。主要なリスクのひとつである使用済み核燃料の取り出しは一定のメドが立ってきたといえる。

 補注)要は,原発に関して実施される通常の「廃炉工程・作業」とは異質だというほかない。ただ「事故原発の後始末作業」と表現したらいい種類の仕事じたいが,つまり「使用用済み核燃料の取り出し」が,実際にはどういう見通しになるのかという肝心な事項からして,皆目見当すらついていない。

 したがって,「後始末⇒廃炉工程」における時間の流れのなかで,つまり,時系列に即して進行していくはずのそれら諸工事の問題は,本当のところ,その流れのそれぞれ中身じたいが明確に区分できない,「東電福島第1原発事故現場における作業の全般」を構成している。

 再言するに,東電福島第1原発事故に対して,そもそも “時間の軸” に沿って区切るための判断をしようにも,これに対してはっきりした段取りなど全然立てられなかった状態が,いままでそうであったように,これからもつづいていくほかない。

 しかも,その全体の様相,いいかえれば,長期的な段階に及ぶはずの「後始末や廃炉の作業日程」が,今後においてどのように展望できるのかも,これまた,まったくといっていいくらい不可能だと断定されて,なんらおかしくない。だから,この記事はつぎのように報じていた。

 だが改定案でも,廃炉作業でもっともむずかしいとされるデブリ取り出し作業の完了時期を示さなかった。2021年に2号機から始めることは決めたが,デブリの正確な量や分布はいまだ把握できていない。政府が想定する廃炉費用は当初の2兆円から8兆円に膨らんでいる。(記事,引用終わり)

 補注)その「廃炉作業でもっとも難しいとされるデブリ取り出し作業」は〔本日の記述は2023年5月28日になされているが〕,いまだに開始されていない。しかも,その「想定する廃炉費用」の金額が,今後においていったい,どれほどにまで上昇していくか,正確な見積もりはつかないままである。

 要するに,問題の中心にはコスト(後始末と廃炉のためにかかる総経費)の問題が控えていた。「原発のコスト」のことを以前は,ほかの電源コストに比較して “もっとも安い” と喧伝してきたけれども,それがいまでは,いうなれば「デマにひとしい虚偽の主張」としか形容できない。

 電力エネルギーを生産できなくなった原発が,その後始末や廃炉のために「長大な期間」(原発が電力を生産する期間よりもずっと長いその時間)をかけていかねばならず,しかもその「事後の店じまい」をしていくために発生させつづけていく「膨大なコスト」は,もはや原発という電力生産装置・機械の基本が,邪魔者どころか害悪であった事実を明確に描きだしている。

 だから,たとえば〔この記述がおこなわれていた時期に戻るが〕『日本経済新聞』2019年11月28日朝刊「社説」は,題目を「再生エネの普及を失速させないためには」として論じていながら,この再生エネと原発との関係問題には,実質なにも触れていなかった。

 日本の電力事情でいえばその供給面で観れば,再エネの普及に最大の妨害(阻害?)要因になっているが原発の存在であり,その再稼働へ向かおうとする動向であることは,現時点で判断すれば常識に近い認識である。 

 とりわけ,「原子力発電を推進し,化石燃料依存体質から抜け切れない経済産業省・資源エネルギー庁主導の政策に立脚している安倍晋三」元政権の本質に触れずに,再生エネの問題・動向を単独にとりあげて論じるやり方は,率直にいわせてもらうに,まことに小賢しい筆法だと批判せざるをえない。

 ところが,『日本経済新聞』の立場・利害は,この分かりきった電力問題の「現状における日本的事情」には,目をつむったかのような論説に終始していた。
 

 ※-3「核燃料,〔20〕31年搬出完了 福島第1の廃炉工程表改定案 デブリは〔20〕21年から」 

 ※-2ですでに言及していたが,ここでも再度指摘しておくべきは,その「核燃料や原子炉内部の構造物が溶融して混合したデブリ」を,2021年から搬出(取り出す)というみこみは,まったく無理難題であったが,それでも無理をして「いうことだけは,いっていた」。 

東電廃炉工程

 a)『日本経済新聞』2019年12月2日夕刊1面,および( ↓ の b) )

 b) 「福島第1廃炉,燃料搬出2031年までに完了 工程表改定,デブリ取り出し,2021年から2号機で」『日本経済新聞』2019年12月2日 13:20,2019/12/2 13:20,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52846240S9A201C1AM1000/

 本論に戻ろう。『日本経済新聞』2019年12月2日夕刊1面(4版:最終版,字数 900字)に掲載・報道されたこの記事じたい,つまり,a) の「核燃料,〔20〕31年搬出完了 福島第1の廃炉工程表改定案 デブリは〔20〕21年から」は,

 この夕刊が事業所や家庭に配達されるより多分,わずかに早い時間帯においてとなっていたはずだが,つまり,この b) のほうでさきに「報道していた記事本文」(字数:956字)が,a) の最終版の夕刊のほうに報道される段になったときは,その記事本文の字数が「900字」に減らしていた。

 すなわち,縮刷版「本」となって残る「最終の4版」においては除かれていた「その字数」は,「956 - 900 = 56字」分であった。この字数に相当する段落・字句の含意については,以下の記述で吟味することになる。

 政府は〔12月〕2日,東京電力福島第1原子力発電所の廃炉に関する会合を開き,廃炉工程表の改定案を示した。建屋内のプールに残る使用済み核燃料を2031年末までにすべて取り出す目標を新たにかかげた。事故後30~40年とする廃炉の完了時期は維持した。廃炉作業で最難関とされる溶融燃料(デブリ)の取り出しは2021年に2号機から始める。ただすでに工程に遅れが生じ,直近ではトラブルが相次いでいる。

問題となる記事の段落

 この記事の文章=内容を読んでどう感じるか? 東電福島第1原発事故現場のその後における後始末工事は,いつもながらのこと(進行ぶり!)として,ただひたすらに “ベタ遅れに遅れてきた実績(記録?)” ならばあるけれども,その予定より少しでも早まって完了したという話は,なにひとつ聞いたことがない。

 ということであれば,「事故後30~40年とする廃炉の完了時期は維持した」という,それこそ政府と東電側の発言は単なる「中身のない評価づけ」であり,それも,空虚な宣伝的な発言でしかありえなかった。おそらくはこれからも,この東電福島第1原発事故現場の「後始末と廃炉」に関する進捗管理は,けっして思うように前進していかないはずである。

 そもそも「事故後30~40年とする廃炉の完了時期」という文句からして,途方もない,いわばホラ吹き的な,単なる見通しに関した発言であった。この事故後30年~40年というのは,だいたいでいうにしても,今〔ここでは,2019〕年12月時点からだと,およそ「20~30年」先には「東電福島第1原発事故現場の廃炉作業(後始末も含めて)」が完了させられるみこみになる。

 しかし,そうはいってもその関連工事の進捗度は,いつも「工程に遅れが生じ,直近ではトラブルが相次いでいる」状況下にあった。20年や30年程度で廃炉作業まで完了できるわけがない。先行して実施されている欧米の原発廃炉の実績を観察すればよいのである。

 本ブログでは初めての参照になるが,『時々お散歩日記 鈴木耕』「148 廃炉作業の費用と期間に隠されている原発の真っ黒な現実。廃炉だけに特化した『廃炉庁』」を早急に作れ!」が,東電福島第1原発事故現場にも妥当する文章を,日本における原発廃炉問題に対するきびしい批判として披瀝していた。

廃炉は長い期間を要する

 廃炉の問題は「経費」と「期間」の両方に関して大きな障壁があった。期間が長引くことはただちに経費の増大を意味する。逆にいえば,経費の増大は工事の長期化にともない比例して発生していく。 

 この程度の事情はわざわざいうまでもない関連の条件であった。繰り返していうが,東電福島第1原発事故現場の場合は,それ以前に「事故の後始末」作業で苦しんできた。ともかく時間がかかっている。したがって経費もどんどん膨大になっている。それだけのことであった。

 思えば原発という発電の装置・機械は,はじめから採算などとりにくい道具・手段であった。アイゼンハワー大統領は愚かというほかない,実にバカげたエネルギー源を,諸国に対して提供した(Atoms for Peace,1953年)。

 人間が制御できない(no under control)原発用の核燃料(=《悪魔の火》)が諸悪の源泉であった。事故原発の後始末や廃炉じたいに時間がかかるのは,すべて放射性物質の介在があるからであった。 

東電福島第1原発事故現場,2019年4月

〔記事に戻る→〕 2011年〔3月11日〕の東日本大震災の影響で,福島第1原発は1~4号機で水素爆発や炉心溶融(メルトダウン)を起こした。東電は2011年12月に政府が作った廃炉工程表にもとづいて廃炉作業を進めている。工程表は約2年に1度改定しており,2017年9月以来となる。費用は廃炉だけで約8兆円と政府は試算している。今回,2041~2051年までの廃炉完了時期は維持した。

 補注)東電福島第1原発事故現場については,その後始末と廃炉のために用意されていた「工程表は約2年に1度改定して」いるといわれ,またその「費用は廃炉だけで約8兆円」まで膨らんだといわれている。 

 断わっておくが,時間の経過は1秒・1分・1時間・1日・1年ごとに進んでいくのに対して,原発の事故を始末しこれを廃炉にするための経費は,うなぎ登りに確実に上昇してきている。

 若干,雑な議論になるかもしれないが,マルサスの経済学論を真似て,こうもいってみたくなる。「自然の時間」は算術級数的にしか経過(増加)していかないのにくらべて,「原発事故に要する対策費」は,あたかも幾何級数的に増加するがごとき現象(顛末)を呈してきた。

〔記事に戻る→〕 廃炉作業は放射性物質のリスクを低減するためプールに残る使用済み燃料とデブリの取り出し,さらに汚染水対策を主要な柱にしている。

 改定案は〔福島第1原発〕1~6号〔全〕機の原子炉建屋のプールに残る使用済み燃料を2031年末までに取り出すことを明記した。当初は炉心溶融した3号機からの燃料取り出しは2014年末に始める予定だったが,約4年遅れの今〔2019〕年4月に始まった。炉心溶融に至らなかった4号機ではすでに全量を取り出している。

 補注)東電福島第1原発事故現場に関する報道からつねに受ける印象は,このように事実経過として事故現場管理の報告がなされる割りには,結局,こんどにおいて「4年遅れ」たのであれば,そのうちのつぎもまたきっと「4年は遅れる」に違いあるまい,といったふうな受けとめしかできなくなっている。

 この記述が最初に執筆されたのは2019年12月時点であり,今日は2023年5月23日になっている。その間,すでに3年半ほど時間が経過した。東電福島第1原発事故においてこれまで,とくにデブリの取り出し作業に進捗はない。

 要は,《悪魔の火》が惹起させた原発事故に対峙させられている「人間側の戦い」は,非常な苦戦を強いられている。現状を観たかぎり,それは,人間の側が強いられている「賽の河原の石積み」に酷似している

 ギリシャ神話にたとえるとしたら,「シシュフォス(Sisyphos)」の内容に似ている。狡猾なコリントスの王であったこのシシュフォスが,ゼウスの怒りにふれ,死後,地獄に落とされて大石を山頂まで押し上げる罰を受けた。

 その大石は,あと一息のところで必らず転げ落ちたという「罰」がくわえられていた。もっとも,原発に使用される核燃料の悪魔性は,その大石に対するものとは異質の「罰」を,人類・人間に与えはじめている。  

〔記事に戻る→〕 廃炉で作業がもっとも難しいとされるデブリの取り出しは2021年にまず2号機から始める。1~3号機では,原子炉圧力容器やその外側の格納容器にデブリがたまっている。

 総量は900トン程度と推計されているが,詳細な量や成分は分かっていない。放射線量が高く人が近づくことはできないため,作業は遠隔となり難航が予想される。

 日々発生している放射性物質に汚染された水をめぐっては,発生量を現在の1日平均170トン(2018年度)から2020年中に150トンに減らす目標をかかげてきた。改定案では発生量を最小限に抑える方針を示したが追加の数値目標は出さなかった。

 個別の工程は当初計画より遅れているものも多い。3号機の燃料取り出しの遅れのほか,足元でもトラブルが頻発している。

 〔2019年〕8月に始まった1,2号機の排気筒解体では,装置のトラブルなどでたびたび作業が中断した。排気筒下にある汚染水をためる箱からは,一部が地中に漏れ出た恐れが出ている。予定どおり廃炉を終えられるかは不透明だ。 (記事,引用終わり)

 以上に引照した『日本経済新聞』の記事は,なぜか,この太字の部分を最後の版では削除しておいた。この出来事に関する経緯には,なにか特別な事情があったのかもしれない。観察できる。前段の太字の記述に多分,「なにか,日本経済新聞社の立場から感得する問題があった」のかもしれない,と推察しておく。 

 それはさておき,最後にスリーマイル島原発のその後に関する,つぎの報道を引用しておく(⇒なお,ここから論じる内容をもって「上の疑問」に遠回しに答えているつもりである)。

 アメリカで起きたこの原発事故は,深刻度で表現されるさい最高である「レベル7」ではなく,「レベル5」であった事実を踏まえて,この記事に接しておく必要がある。

 1979年に事故を起こした2号機は,溶けた燃料はほとんど取り出されているが,1号機の運転停止を待って廃炉にする予定で,建屋や冷却塔は残っている。2号機を所有するファーストエナジー社は2041年に解体を始め,2053年に終えるとしている。  註記)「米スリーマイル島原発が運転終了 60年かけて廃炉へ」asahi.com 2019/09/21 09:56,https://digital.asahi.com/articles/ASM9P2FPVM9PUHBI00C.html?iref=pc_ss_date

スリーマイル島原発は運転終了後の廃炉工程は60年を予定

 さて,東電福島第1原発事故は「最高のレベル7」の深刻で重大な事故であった。しかも3基の原子炉が爆発事故を起こし,稼働中ではなかった4号機も,その巻き添えを喰って破壊される事故を起こしていた。

 ところで,スリーマイル島原発における事故の後始末にかかる期間は,「1979年~2053年」の74年間で「終えるとしている」と断われていた。

 それにくらべて,東電福島第1原発事故に関して東電は,「2041~2051年まで」が「廃炉完了時期」であるといわれていた。2011年からは最長で2051年までの40年間をもって,事故原発の後始末と廃炉作業が完了する予定だと説明していた。

 さて,その年限が2011年からの40年間までだとなれば,実は,スリーマイル島原発においてその年限が来る2053年よりも2年早い2051年に,東電福島第1原発事故現場のほうがさきに,廃炉を完了させる見通しだという計画になっている。

 しかしながら,そうした「見通しにもとづく予定」は,希望的観測どころか,途方もなく楽観の過ぎた説明である。誰しもそう思うはずである。

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