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「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 ー 第1回会議の議事要旨をポイント紹介します


第1回会議の議事要旨が公表

「稼ぐ力」を高めるためのコーポレートガバナンス研究会の第1回が開催され、以前に記事を投稿いたしましたが、この時の会議の議事要旨が昨日本公表されました。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/001_gijiyoshi.pdf

内容をざっくりと大きく分けるとコーポレートガバナンス全体、取締役会、株主総会、指名委員会等設置会社の指名委員会などで意見が出ています。以下、議事要旨をざっと読んで個人的にこのあたりが興味深いかなと思う意見を抜粋しながら、少し解説を加えたいと思います(なお、委員の意見は前後の繋ぎ言葉を私の方で少しだけ作文している箇所があるので、この点はご了承下さい。発言の趣旨は崩していません)。

会議ポイント:コーポレートガバナンス全体

会議の冒頭にこの研究会の座長である伊藤レポートでお馴染みの伊藤教授からコメントがあります。議事要旨の発言の中からポイントになりそうな箇所を取り出すと以下のような内容です

  • ROE8%を達成してもPBRが1倍割れの企業は3割あり、それはPER12 倍以下の会社がまだ多いということ。資本市場での日本企業の長期成長性に対する懸念や不確かさというのが残っている

  • 取締役会の実効性の不十分さがまだある。取締役会のアジェンダセッティングが、稼ぐ力、あるいは企業価値向上につながっていないという側面がある

  • 指名委員会での議論をもっと取締役会にフィードバックしてほしいという意見・ある種のフラストレーションをよく聞く。指名委員会等設置会社では、取締役の選任が指名委員会の専決事項になっていて、指名委員以外の他の社外取締役は関与しないので、このような不満が今後も残る可能性があり、場合によっては深刻化する。この問題解決には、指名委員会は選任の発意にとどめて、取締役会で議論して決めるというような代替案もテーブルの上に乗せて議論していく必要があると思う

今回の第1回会議では、株主総会や指名委員会等設置会社の指名委員会につついて各委員から意見が出ています。いくつか興味深い発言を取り出し解説を加えたいと思います。

会議ポイント:株主総会

株主総会の議案の賛否は総会日より前に決定しているのに、わざわざ株主総会をリアルで開催する意味あんの?といった意見が出たようですね。以下のような意見があります。 

  • 事前の議決権行使で可決が決まっている中で、本当に株主総会を開催する必要があるのかという意見がある。例えば、対話の充実化の結果、事前の議決権行使により一定の賛成割合に達していれば株主総会を開かなくていい、可決したものとみなすといった合理化の話までつながっていくと、株主総会の開催にかける労力を本業の稼ぐほうに振り向けられる

  •  株主総会を本当に今のやり方でやらなければいけないのかという点も引き続き議論をしていただきたい。ほぼ全てのケースで事前に結論は分かっている。事前に結論が分かっている会議ほど不毛なものはない

  • 無駄な仕事をいっぱいやっているから日本の生産性は低いわけで、この株主総会の仕事というのも、労働生産性の面で見ると無駄なのではないか。会社法の改正に盛り込むのは難しいかもしれないが、それは中長期的にお考えいただきたい

  • 企業は株主総会にこれだけお金を使う必要があるのかと毎年思う。従業員や株主還元などにもっと使えるのではないかと思うので、そういう意味でも、私はバーチャル株主総会を広く認めるべき。

いちいちもっともな意見かなと私は思います。「不毛」とまで言っている意見もありますね。ほとんどの企業の定時株主総会は数日前に総会議案の賛否(=賛成可決)が決まっています。否決の可能性がある議案など最初から総会議案に出さないので、当然と言えば当然です。

多くの企業で地味な存在の総務部や法務部が存在感を示す年1回のメインイベントがこの株主総会ですが、ほぼ役に立たない総会の想定問答集をめちゃくちゃ一生懸命に作成したり、高い金を払って会場を借りたり、ホテルのスタッフを手配したりなど、まあ1つのお祭りですが、結果が決まっているお祭り儀式にリソースを割くのは時間の無駄の極みとも言えます。特に総会の想定問答集などは「これって意味ないよね?」と思いながら、皆さん総出で作成したり、総会リハーサルをしている会社は多いのだと思います。

総会で株主との対話に重点を置くのであれば、リアル開催を割愛し、これにより会場の座席作りなどの無駄な作業は全て省略し、バーチャル総会を主として(勿論ハイブリッドもありとは思います)、総会場に来れない株主も参加して、どしどし意見や質問が出来る機会を確保すべきかなと私は思ったりします。「仕事がなくなっちゃうよ」と抵抗する総務部もあるかも知れませんが。

ポイントは、より多くの株主の方が総会で躊躇することなく質問できる姿があるべき総会の姿であり、リアル総会だと個人株主が遠慮してしまい質問がしにくいということであれば、バーチャル総会という手段をとることも有用というように私は思います。

会議ポイント:指名委員会等設置会社の指名委員会

指名委員会等設置会社の指名委員会は会社法で権限が規定されており、取締役会の選解任ですが、取締役会に最終決定権限がなくてよいのか?などの意見が出たようですね。以下になります。

  • 指名委員会の権限の見直しは、私は賛成。取締役会が最終決定を行うという仕組みになっていると理解。それがゆえに、グローバルでのコーポレートガバナンスのベストプラクティスというのは、最終的な意思決定組織である取締役会の実効性を高めることによって、企業価値を上げようという枠組みで考えられている。そのため指名委員会等設置会社のように、例えば取締役候補の指名について、取締役会ではなくて委員会に権限があるというのは、海外の状況から見ると異端

  • 指名委員会等設置会社についてほぼ全ての投資家が理解していない。 取締役会が最終の意思決定権限を持っているだろう、と思いがち。私もいろいろ説明を試みて、海外の主要な機関投資家、団体の複数の投資家のメンバーやトップに話をしたが、腑に落ちないというか、どうしてそういうことがあるのかと納得がいかないよう

  • 指名委員会の法的権限のところについて、海外だと、当然、取締役会に最終的には権限が付与されていることが多く。海外がそうなっているというところも踏まえて、取締役会に指名権限を戻す方向性に議論としては持っていってもいいのではないか

  • 独立社外役員が過半数の取締役会では、各委員会での専門的議論の結果を最大限に尊重した上で最終的な決定権限は取締役会が保有するべきと考える

社外取の質自体の問題も最近クローズアップされており、社外取が過半数もいる企業であれば、質の低い社外取(=会社の事業のことが理解出来ていない社外取)で構成される少人数の会議体で取締役候補者を決めるより、取締役会で決定する方がましだよね?というところだと思います。そもそもとして社外取はどこまでいっても外の人であって、社内の人(=取締役会候補者)の人となりは分かりませんので、指名委員会の独壇場とする必要は乏しいのかも知れませんね。

会議ポイント:機関投資家(運用会社)

機関投資家への課題や意見も出ていますね。

  • 投資家にも大きな課題がある。今、運用会社を経由して資本市場に流れているお金は直近で概ね1,000 兆円。全銀協が公表している間接金融で融資がなされている金額は直近で概ね620兆。はるかに大きなお金が資本市場を通じて流れているにもかかわらず、そこに携わっている企業を分析する人数は2,000人~数千人

  • 有能な方が、独立性基準という消極要件のために、積極要件としての有能さを犠牲にして、形式的な行使基準でだめとばかり言われている。そういった機関投資家側の形式的な権限行使の問題は、改めてきちんと問題提起をすべき

この2つ目の意見は本当そのとおりです。「メインバンク出身=反対」というのもなんだかなという感じです。

でも一方で企業側の課題もあります。総会での取締役選任理由があまりに貧弱ということです。取締役選任議案で候補者の選任理由が全員とも「人格者です」「高い倫理観があります」「コーポレートの知見があります」など書いている企業が時々散見されます。「そんなの当たり前だろ!」と言いたくなる機関投資家がほとんどだと思います。おそらく、資本市場と対話をしたことのない部署が単独で総会招集通知を作成しているから、こんな記載になっているのだとは思いますが。お粗末です。こここは大きな工夫が必要だと思います。

以前に海外機関投資家の日本株の担当者(日本法人のトップ)と会話をした時にはメインバンクなどの独立性が乏しい社外取であっても、選任の意義、貢献などをしっかりと説明して、納得出来れば賛成するという話でした。取締役の選任理由の具体化は今後必須だと思います。

議事要旨はそれなりに長いので全部読むのは面倒かも知れませんが、一度通しで読まれると良いと思います。「こんな意見が出てるんだ」ということが分かり、研究会の中間報告などが出た際にすっと頭に入ると思います。
10年以上前になりますが、私は証券会社にいた時に、ある大手上場企業の経営企画担当の専務が「この手の会議は議事録や議事要旨を丹念に読んでおくのが肝」と言っており、私はなるべく読むようにしています。

第2回会議の時にまたアップデートしたいと思います。