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企業の株主政策:個人株主に安定株主になって貰うには?あまりに長すぎない未来の姿を語るのが大事


個人株主を増やすメリットは?

最近、仕事で証券会社の方と話をすると「個人株主をもっと増やした方がよいですよ」という話を時々言われます。世の中で政策保有株式の縮減が進み、安定株主が減る中で、準安定株主として個人株主を位置付けるためという趣旨だと思います。証券会社はどの会社にもそんな話をしているはずですので、「当社も個人株主をもっと増やそう」と考えている会社もあると思います。

また、「個人株主を増やすと株主資本コストが下がりますよ」という話も証券会社の人は良く言いますね。つまり、機関投資家は順張りのため、株価が下落すると売りますが、一方の個人株主は逆張りのため、個人株主の比率が高いと株価のボラティリティを低く抑える、つまり株主資本コストの算出の基礎になるベータ値を下げることが出来るというのです。
このあたりは私も専門的には突き詰めていないので、言われてみると「まあそうかも知れないな」とは思ったりしていますが、肌感覚としては良く分かりません。

いずれにせよ「個人株主を増やすことは株主政策として重要です」という意見が総じて多い気がします。その背景には、次の2つの考えがあります。

  1. 個人株主である個々人が保有する株式数は小さいので、発行済株式の数パーセントを保有して会社に提案・意見をしてくるアクティビストのようなリスクはない

  2. 個人株主は議決権を行使するケースは意外に少ないが、議決権の行使を促進さえすれば、会社提案議案にほぼ賛成してくれる

けど、そう単純に考えてよいものかな?と私は思います。

最近は個人株主もアクティビストの提案に賛同する時代です

先日の新聞報道で江崎グリコの株主総会の記事がありました。

記事のタイトルがあまりに楽しかったので、読んでみたところ、江崎グリコの株主総会でアクティビストである投資ファンドの株主提案に賛成する株主が多かったようですね。江崎グリコの主な株主構成を見ると直近の有報ですと次のとおりです。

金融機関:31.54% その他法人:17.66% 外国法人:22.13% 個人その他:27.20% 

今回の総会で個人が株主提案にどの程度賛同したかは不明ですが(臨時報告書には議案毎の賛成率しか開示されません)、ある株主提案議案には42.9%もの賛成票を集めたということです。おそらく個人株主の相当数も株主提案に賛同したのではないかと想像します。

ということを考えると、個人株主ももはや安定株主とは言えなくなっています。

個人株主を安定株主にするためには

では、個人株主を安定株主に出来ないのでしょうか?

さすがに市場株価の40%~50%のプレミアムでTOBがされたら個人株主のTOBへの応募(=株式売却)を止めるのは難しいですが、そうでないケースでは個人株主を会社の味方にすることは可能です。

その方法は何かというと、やはりコーポレートガバナンスに照らした透明性のある経営、株主説明会の開催はじめ企業の将来成長に向けた開示の充実化だと思います。この先もこの会社は成長するであろう、であれば今の経営陣に任せたいという期待を株主に抱かせることが出来るか否かが肝になると思います。つまり、中長期での成長の確からしさですね。

企業が語るべき長期目線のスパン

では、このためにはどの程度の期間の話を企業は語ればよいでしょうか?

企業によっては、「30年後、50年後も頑張ります!」といったスローガンを掲げているところもあると思います。なかにはそれより先を掲げている企業も社名は忘れましたが、見た記憶があります。

勿論、スローガンなので掲げるのは自由ですが、あまりに長期のスローガンは、正直、株主にはまず響いていないであろうと私は考えます。だって、サラリーマン社長の任期は数年であるのに「50年後のありたい姿って何??」ですし(オーナー社長であれば子供・孫と経営は続きますが)、そもそも5年先の経営環境だって予測がなかなか困難なのに、「30年後、50年後の世の中は誰にも分かりませんよ」ということです。

少し身近な例で考えると、私は今はたばこは全く吸っていませんが、大学時代には結構吸っており、当時は1箱200円程度だったので学生でも気軽に購入できましたが、それが今や1箱400円を超えるなど当時は誰一人考えていなかったと思います。というように、20年後、30後の世界など誰にも読めないのです。中国と米国が指導者が変わり、仲良くなっているかも知れませんし。

最近、バックキャストという言葉を良く耳にします。最近の流行りです。中期経営計画はバックキャストで作成していますと。このバックキャストも将来の30年後からのバックキャストだと「そもそも30年後って????」と株主は考えます。

ということを踏まえると、長期目線はせいぜい10年先ですよね。その上で、最初に10年先にこういうあるべき姿をゴールとして明確にして、それについて市場の理解をまず得ることが大事です。そして、次に、今から3年~5年後の進捗・施策を示すのが大事です。この2つについて、株主が納得することで、株主は現経営陣に任せようと考えるわけです。四半期の業績が悪くても、道筋に大きなブレがない限り、逆に個人株主はそのタイミングで買い増しをすると思います。