あなたを満たせる誰かが、あなたを愛しますように。

雨の日が好きでした。
図書室が少しだけ賑やかになって、それでいて静かであろうとする、その一体感が私を子供にしてくれたから。
あるいは、職員室の空気がコーヒーの味になるから。
私たちは知りうる限りの時間を、死について話しました。
理解できる頭脳を与えられてしまったから。
永遠に生きられるような、そんな気持ちでいるのに、私が、私たちが、フィクションであることについて話し合いました。
私たちは同じ方向を向いてる間は、もしくはお互いを監視している間は、私たちで居られたのです。
虫を殺して、豚肉を触って、そして身近な人の骨をつまんで、それでも私たちはただの肉にはなれません。
一生で語れる分の情報は、私たちを表すにはあまりに少なくて。
愛すること、されること、それの意味なんか分からないままに流されていく、ただその流れを眺めています。
花壇に咲いた花に先生は名前をつけませんでした。
花壇の水やりは生き物係りの仕事で、ウサギの餌は大人の仕事でした。
大人はズルい。
そうやって、私たちは自分が花と同じだって気付いてくのを拒みました。
立ち向かうなんて無謀で、ならずっと、みんなと居たかったような気もします。
誰かの為だって銘打って、一生涯をドメスティックなコミュニティの中で甘く溶かしていたかったんです。



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ホメロスを読んでる、ずっと頬の染まった彼の頭の中はきっと雨でしょう。
明日が来ないように祈ってる。
甘い炭酸飲料にほどけさせて、逃げることも美しい。
藍染された前頭葉で、目を滑らせた答案用紙。
彼に食べて貰おう。
笑わないカラスは何時だって紫煙を追いかけて。
ただ、通り雨が濡らしたひたいを慈しんでくれる。
校舎の倉庫に鍵をかけて、閉じ込められた彼女。
いつか記憶の中から出てきて欲しい。
電線を追いかけて。
工作の飛行機が遠くへ行くように、僕はあの山を越えられないんだって分かっていて。
いつまで追いかけてくる送電線に可能性を奪われていく。
声がした。
あの子の言葉。
悲痛さが滲まない絶望の言葉。
きっと期待もしてないから。
校庭に染み付いた、見せかけの命。
僕は、僕たちは。
きっとこの命に意味は無かった。

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