言の柱。

夜。
街は黒く渦を巻いて。
でも、寂しくなんかありません。
聞こえる音の中には、確かに誰かの声が含まれていたから。
明日が来るような確度で希望が降る街。

雨の音。

歩道を満たした雨水は、ぼやけた光を反射して。
帰り道を忘れた僕を、何処かに導いてくれます。
街灯に集った羽虫たち。
その、暗い瞳。
光は無個性な白色をたたえて。
僕を見放すみたい。

くらい、くらい。
数多の輪郭が溶けた、暗闇。
背を見送って。
テールランプか、何かの看板か、分からないような暖色の光。
夜にはあの人も溶け出している気がして、だから少し安心出来ました。

潮風が吹いて、深海みたいな街を揺らします。
波に拐われる僕は、家に帰りたくなくて。
この見慣れない街を、ずっと歩いていきたいって思ったんです。
月が空を少しだけ暖かく染めて、ただ静かに凪いだ心に一片の寂しさを与えてくれるから。
お金も無いのに、何処までも行けるような錯覚で息をしている。
僕は幼いままの心で、あてがう場所のない寂しさを、ただ自分に向けました。

「今日は良い夜だね。」

少し涼しい、夜の世界。
平らに均されて少しも重苦しくない。
だから、行けるところまで歩こう。
まるで二つの足音があるみたい。
そんな心強さ。
鼓動の音も二つなら良いのに。ね。








この言葉は何度繰り返したろうか。
焼き直しだけの命に、飽々なんだ。
誰も救われない言葉。
私すら救わない言葉。
焼き増ししただけの。

書き起こしたい感覚も忘れてしまって、ただ惰性で生きる文字列。
行間と空白では行き場の無い言葉が踊る。
埋めようの無い、空白。
私すら忘れてしまった。
忘れたまま、その力を使って生きていくしかない。
私だけの、オーパーツでブラックボックス。

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