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友達は、要らない。

多香子のことは、もう要らない。

多香子の事実婚の彼氏が亡くなって
この10月で1年になる。
内縁でありながらも、
彼のご葬儀、彼の家の売却、
彼のお母様の施設の段取り、
彼に関わるほぼ全てを、多香子が全て
対応したらしい。

この1年。

恐らく彼女は言葉や文章にも現しがたい経験をしたんだろうと思う。
悲しみにこらえながら。

担当の弁護士の方から、
「よく、頑張りましたね。」と
労いの言葉も頂いたと言っていた。

そんな多香子が高校の同期数人と飲みたいとの事で、小さな同期会を企画し、
そのお誘いを多香子自ら受けた。

でも私は断った。

「どうせ荒れる飲み会になる」
ってことが容易に想像できたから。

結果、荒れた。

同期の1人が海外赴任から一時帰国しているタイミングも合って参加したんだけど、その男友達芳夫と多香子が酔った勢いもあり、喧嘩になった。

多香子は涙ながらに飲みながら悲しみに耐え抜いた1年を振り返り語る。
男友達数人は、
その話をひたすら
聞く、聞く、聞くに徹する。

でも、
芳夫はとうとうガマンできなかったようで、

「お前だけがしんどいと思ったら大間違いだぞ。みんな、色々悲しいことやつらいことがあるんだ。お前だけじゃない。」

「芳夫は、この1年、私がどんな思いで過ごしてきたかわからないのよ。」と、
多香子。

「俺だって、親父亡くしたんだよ。」と、
芳夫。

「お父さんが亡くなるのは順送りじゃん。芳夫の奥さんが亡くなったらどうする?」と、
多香子。


もう、お互い引き下がらなかったらしい。

そして、芳夫は
大学時代に私に振られたこと?(友達のままでいいじゃん。って言っただけなんだけど。)とか、美伊と結婚したかったんだ!とか、
悪酔いし出して、もうしっちゃかめっちゃかになって、その同期会は強制終了したらしい。

余程腹に据えかねたのか、
次の日に多香子から電話があった。
その時に、前述した内容を聞いたんだけど。
想定内。

でも、
5年ぶりの電話だったから
私達は昔話に花が咲いた。
つらかっただろうこの1年を
とにかく今は受け止めてあげよう。
それだけで多香子は救われるのだから。

でも、
彼女の悪いくせが出てきた。
「美伊は親の期待が強すぎたからね。
だいたいさ、美伊が一浪するなんて、、、
あなたが国公立に受かるはずがないって
分かってたもん、私。」

と急にマウントを取り出した。

「あなたのお兄様も、お父様が急に亡くなって、無理やり跡継ぎをしないといけないことになったでしょ?お兄様、あなたの今の自由な生き方、うらやましいって思ってるわよ、きっと。」

でたー。
16歳から変わってない。
マウントとるクセ。

そしていつも悲劇のヒロインになるクセも。

次の日も電話があったけど出なかった。
すぐにLINEが来た。

「美伊。助けて。」
「これまでに、発作的に2回くらい命を経つことができるタイミングがあったの。」
「あなた(彼氏)のいない朝なんて、来なくていいのに。」
とかとか。

大学受験が思うようにいかなかったのは
私が努力しなかったから。
今で言う、Fランクラスの大学卒業だけど、
なんとか頑張って来た社会人約30年。
私にとっては全てが経験として自分を創りあげることができたんだと思っている。

それを
一瞬でぶち壊すような一言を放った多香子。

「この1年、私がどんな思いで過ごしてきたかわからないのよ。」と
芳夫に言うけれど。

だったら私はあなたに言いたい。
「この30年、私がどんなことを経験し、考え、挫折し、這い上がって、努力し、今に至ったか?わかる?」

てかさ、
地元の居酒屋で、夜な夜な酔いつぶれ寸前まで飲んでるあなた、結構有名みたいだよ。

でも、私はそんなことを言うつもりはない。

「多香子、偉かったね。よく頑張ったね。
大丈夫だよ。また会おう。」と

最後に大きな大きな嘘をついた。

もうあなたとは会わない、

友達なんて要らないと、

そっと思った。

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