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フードエッセイ

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#エッセイ

星空の下で、静かな海鮮バーベキュー 3段落エッセイ

夏、母の実家に帰省すると、決まって夜にバーベキューの日があった。 バーベキューというより、七輪を囲んで一族でゆっくり美味しいもの食べて飲んで語り合う晩ご飯だった。亡き祖父と叔父と父が素潜りで採ってきた貝(トコブシ)を炭で焼く。叔母が奮発して買ってくる牛肉の焼肉も。たまに、アワビが採れて刺身にして食べる。コリコリっとして旨みが強く、少し甘めの濃い醤油につけて食べたあの味。トコブシははじけるから蓋をして焼く。歯ごたえがあるから子どものうちは小さいサイズのを好んで食べた。ああ、ま

祖父のトマト 3段落エッセイ

亡き祖父は戦争から帰ってから、漁師をしていた。何ヶ月も帰ってこない遠洋漁業。母は子どもの頃、生活が苦しくて大変だったと語る。でも私が物心ついた頃には祖父は花農家をしていた。泳ぎがうまくて、10メートル以上も素潜りできて、魚を捌くのが職人のように上手だった自慢の祖父。 花農家になったきっかけは運命的だった。地元の海で、どこかの船が難破し、泳ぎ自慢の祖父も救助活動に。助けられた人たちと皆仲良くなった。彼らは、気候が似ているからきっとよく育つ、と花の苗だか種だかを贈ってくれたらし

祖母との散歩 金柑 3段落エッセイ

亡き祖母と一緒に散歩した思い出。 田舎の家は車道から少し中へ入り組んだ細い道を行ったところに建っていて、まるで迷路みたいで楽しかった。家の斜め前から下っていく畑の間の細い道は私は初めてで、あの道の先はどうなってるの?と聞くと、祖母が一緒に散歩してくれる。朧げだけど、私はたぶん4歳か5歳ぐらいだったと思う。 途中に立派な金柑の木がある。金柑が鈴なりになっている。近所のおうちの庭。祖母はいつもそうしているんだろう、一つもいでパッと口に入れる。私にもくれる。「おばあちゃん、これ