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7番 天の原ふりさけ見れば      安倍仲麻呂

2017年12月22日/花山周子記

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも   安倍仲麻呂〔所載歌集『古今集』羇旅きりょ(注1)(406)〕

歌意 
大空をふり仰いではるか遠くを眺めると、今見ている月は、かつて奈良の春日かすがにある三笠みかさ山の上に出ていた月と同じ月なのだなあ。

『原色小倉百人一首』(文英堂)より

「天の原」は空のこと。
「春日なる三笠の山」は奈良公園のあたりにある名所の山で、当時の都人にとっては、ふるさとの山であった。奈良時代、遣唐留学生として唐の国で三十年余りを過ごした安倍仲麻呂が、ようやくの帰国に際し宴で詠んだとされる歌である。

まず、「ふりさけ見れば」が私は好きなのだ。
いざ、帰ろうと空を振り仰ぎ、故国、春日なる三笠の山に出ていた月を思う。
「ふりさけみれば」「春日なる」「出でし」「月かも」と、一語一語に力が入っている。

こういう歌を格調高いというのかもしれないが、
「ふりさけ見れば」は力あまって、首が一回転しそうな勢いである。

こののち彼は帰国の船に乗り込んだわけであるが、
その船は暴風雨に遭い、唐に引き返すこととなった。
彼は唐で一生を終えたのである。

さて、私が人生でふりさけ見る場所があるとすれば、娘が生まれた日だ。
ちょうど二月のことでした。

生みし日をふりさけ見ればきさらぎの冷たき風が鼻づらを刺す  花山周子


注1:羇旅きりょ 和歌の部立の一つ。旅の歌。旅情を詠んだもの。

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