JR西日本の水素車両導入記事まとめ

計画の全体像

まず、水素動力車両の導入は「駅などの鉄道アセットを活用した総合水素ステーション」を拠点とした水素プラットフォーム化構想の一環として燃料電池列車を運行するものということである。

イメージとしては播磨臨海地域を拠点として総合水素ステーションを設置し、貨物列車による水素輸送の活用も目論んでいるとのこと。非電化路線向けの燃料電池列車の導入も検討しているとのことだが果たしてどのような車両になるのだろうか。その情報はJR西日本公式リリースからは少々読み取りにくい。幸い他の記事にその片鱗を示唆する記事があるので以下そちらを見てどのような車両が出てくるのかを考えるヒントとしたい。

*(修正あり)ディーゼルの置き換えは水素 JR西日本が脱炭素に向け「燃料電池列車」開発へ 新造せず既存車両を改造の方針

導入時期は2030年代とのことで、現在の気動車の更新ピークに合わせて導入とのこと。現在同社の気動車は約450両とあり、キハ40系だけで約250両在籍しているのでピークというのは概ねキハ40系の置き換えと考えて良いはずだ。水素の供給体制が整った路線から置き換えを図るとのことで、今キハ40系がいる路線に即投入と断言はできないのが悩ましいところ。他のJR世代気動車がいる路線に投入し、玉突きでキハ40系を置き換えるようなケースも考えられる(更にもう少しブラックな想定をするなら置き換え対象の両数自体が現在の数字より減少するわけだし…)。

もう一つ気になる箇所がある、車両の新造は行わず既存車両を改造するとのことで燃料電池に蓄電池を組み合わせた構成となりそうという記述。キハ40系の置き換えのみを行うと仮定してもおおよそ200両規模の導入になるとそれだけの両数の、現状のキハ40系と同じような運用で考えるなら2両固定で100編成という規模の中古車両とは一体何なのか。
→この記事のまさに執筆中に車両は新造の方針というような訂正がなされている。あるいは初期のプロトタイプは改造で用意するとか、そういう意味かもしれない。以下訂正後のタイトルを改めて示す。

ディーゼルの置き換えは水素 JR西日本が脱炭素に向け「燃料電池列車」開発へ 車両は新造する方針

さて、燃料電池に蓄電池を組み合わせるという構造は既に前例がある。その数字を見ればだいたいどのような車両になるのか大まかな見通しが立つだろう。その車両はJR東日本が導入したFV-E991系 "HYBARI"である。

【諸元表入り!】JR東日本 水素ハイブリッド電車「HYBARI」のメカに迫る!

【PDF】水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験車両の開発 ―鉄道技術と自動車技術を融合して試験車両を開発します―

https://www.jreast.co.jp/press/2020/20201006_4_ho.pdf

車体は同社が既に烏山線で導入しているEV-E301系 "ACCUM"に類似しているが、同世代のE129系と同様の0.5M車両による2両編成ではなく2両のうち1両は水素貯蔵および燃料電池の搭載に専念しており、もう1両に蓄電池や電力変換装置そして主電動機を搭載した1M1T構成となっている。

パフォーマンスはどの程度かということで加速曲線などはすぐ見つかるような場所にないものの、起動加速度2.3km/h/sで最高速度100km/hとカタログスペック上ではおおよそJRの近郊型電車に近い性能になる(最高速度は遅く見えるものの、キハ40系等の置き換えと考えると最高速度120km/hは持て余してしまう可能性が高い)。重量も40t弱なので概ねキハ40系列と近い数字。

次に気になるのは航続距離だ、これが極端に短い場合水素の補充で頻繁にタイムロスが発生する。蓄電池が搭載されているため回生電力を蓄電池に充電した数字をおそらく加算して、これが最大で140kmとのこと。どのような駅間でどれくらいの速度なのかというのがよく分かりにくいもののおそらくは現行車両と近い速度で運行したものと考えるのが適切だろう。例えば南武線のような路線だと仮定すると数時間も走れば一旦水素の補給が必要になる可能性が高い。これまでの気動車などとは少し異なった運用が必要になるのではないだろうか。

話をJR西日本に戻すとキハ40が運行されているような路線の場合HYBARIの運用に比べると駅間距離が長くアップダウンが予想される。回生電力が増えることも考えにくく、片道とは行かずともより頻繁な「燃料補給」が求められるため運用や補給に関する興味は尽きない。

ともあれ、交通機関全体の脱炭素志向やVVVFインバータ制御や蓄電システムの大きな進歩、従来の液体式気動車に付き物だった推進軸の廃止方針、頑丈で鳴らしたキハ40系の退役と非電化路線における車両には蒸気機関車廃止以来の大変革が始まっている。ハイブリッド含む電気式気動車で先行したJR東日本、それに追随したJR北海道、ハイブリッド特急車両の途を拓いたJR東海、ハイブリッド車両の調達方針を示したJR四国、ハイブリッド車両の増備が進むJR九州と面白いジャンルになっていることは確かだ。

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