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魔急精神病院〜カケル〜 第6話
「…あの白石さんの?」
今度は、先ほどやり取りしていた男とは別の、丁寧な口調の男の声が聞こえてきた。
「それなら、入って構いません。貴方がたを信じましょう」
2人目の男が続けて言った。
「ありがとうございます。失礼します」
紗良は扉の前で涙ぐみながらお辞儀をし、204号室のドアを開いた。
そこは4人部屋で、意外と普通の病院と変わらない内装だった。先ほど通った階段とは違い、清潔感もあった。ま
魔急精神病院〜カケル〜 第5話
オフィスビルの非常口に設置されているような扉を開けると、そこには、薄気味悪い20畳ほどのスペースがあった。扉から見て右にナースステーションがあり、吸血鬼メイクの女性看護師の人形が3体、カウンターの後ろに座っていた。
また、ナースステーションの向かい側には黒いビニール製の5人掛けの長椅子があった。そこには、グレーの入院着を着た痩せ細った男性患者と肥満の男性患者の2体の人形が、出目金のように目をギ
魔急精神病院〜カケル〜 第7話
駆の言葉に3人の男たちは、互いに顔を見合わせながら数秒間沈黙した。しかし、不動が「はぁ〜…」と溜め息をついた後、このような話を始めた。
今から1ヶ月前、当時の204号室には首藤宗則(しゅとうむねのり)という秋原と同い年の男が入院していた。前々から脱出を計画していた204号室の面々だったが、首藤は一刻も早い脱出を切望していた。なぜなら、彼の妻の出産予定日まで1ヶ月を切っていたからである。
しか
魔急精神病院〜カケル〜 第19話【完】
日和が雑誌をここまで読んだ時、「大船〜大船〜」と最寄り駅への到着を伝える車内アナウンスが流れた。日和は慌てて雑誌をカバンに仕舞うと、電車を降りて家路についた。
数時間後、日和と唯史が夕食のカレーライスを食べていると、テレビで流れてきたとんでもないニュースに、2人はカレーを吹き出しそうになった。
「日本精神医療推進協会会長で、日本DD通信病院理事長の黒崎利満(くろさきとしみつ)氏が本日、八急アイ
魔急精神病院〜カケル〜 第18話
大井 え〜!?
内山 彼女は入社2年目の若手社員でした。彼女はお酒が苦手だったので、決して酔って暴れたわけではありません。また、我が社は残業が比較的少なく、私が言うのもなんですが、決してブラック企業とは言えないため、過重労働でもなかったと思います。
しかし、私も知らなかったのですが、彼女は高校生の時に学校でいじめられたのをきっかけに、抗うつ剤のサインバルタや抗精神病薬のエビリファイ等を服用するよ
魔急精神病院〜カケル〜 第17話
内山 はい。実は、20年ほど前に睡眠薬のマイスリーを何回か服用しました。当時は弊社の企画部の部長になったばかりで、慣れない仕事にストレスを感じ、寝付きが悪くなっていました。
しかし、マイスリーを飲んで寝ると、翌日は体が鉛のように重く、必ず頭痛を起こしていました。当時はまだ、精神医療が危険なものであるとは知らなかったのですが、本能的に「マイスリーを飲み続けるのは危ない」と感じ、マイスリーの服用を止め
魔急精神病院〜カケル〜 第16話
内山 精神医療はズバリ、社会的に都合の悪い人々を社会から隔離するために存在します。
大井 うわ〜!恐ろしいですね。
内山 はい、恐ろしいですよ。いわゆる、普通のお化け屋敷はあくまでもフィクションです。
しかし、魔急精神病院は本当に起こった事件を元に作られました。ネタバレをして申し訳ありませんが、魔急精神病院には一体もお化けや幽霊が出てきません。その代わり、人間の悪意とその犠牲者が沢山出てきま
魔急精神病院〜カケル〜 第15話
オープンからわずか1ヶ月程で来場客が既に延べ6,000名を超え、ネット予約は半年先まで埋まり、SNSで大バズリ中の八急アイランドの新名物アトラクション「魔急精神病院〜カケル〜」。今回、当誌の記者の大井が、魔急精神病院の生みの親で株式会社八急アイランド代表取締役の内山勇紀氏に、魔急精神病院設立への思いについてお話を伺った。
大井 今まで、八急アイランドには大型のお化け屋敷はありませんでしたが、今
魔急精神病院〜カケル〜 第14話
「あ、ここが出口なのね」
日和が驚いた様子で言った。そこは、魔急精神病院の正面入口とは真反対にある出口だった。先ほどまでいた恐ろしい場所から解放され、唯史は体中の力が抜けそうだった。
「めっちゃ、怖かったぁ〜!」
唯史は涙をハンカチで拭きながら言った。
「でも、すごく楽しかったよね!怖いだけじゃなくて感動する場面があったし、色々考えさせられたよ」
日和は目をキラキラ輝かせていた。
「うん、そ
魔急精神病院〜カケル〜 第13話
「う、うわ…ヤバッ!」
横島は急に紗良の腕を乱暴に離すと、慌てた様子で走り去ってしまった。そんな横島の急変ぶりに、7人はひどく動揺していた。すると、駆の立っている場所から数歩先にあるヤマツツジの茂みから、なんと1頭の巨大なツキノワグマが頭を出して、駆たちをじっと睨んでいたのであった。
「う〜う〜」
ツキノワグマが唸り声を上げながら、茂みから姿を現した。その熊は成人男性ほどの大きさがあり、それを
魔急精神病院〜カケル〜 第12話
木野の叫び声を聞き、唯史は「ハッ」と急に意識が戻った。その瞬間、横島が咆哮しながら、不動の首を左手で鷲掴みにした。不動は息苦しさに顔を歪めながら、8人にこのような言葉を投げかけた。
「君たちは…逃げるんだ!頼む!生きてくれえぇ〜!!」
不動の魂の叫びに、8人はむせび泣きながら門に向かった。そして、一斉に深い闇の中に逃げて行った。
「わあああ〜っ!!」
「不動せんせ〜い!!」
8人の叫び声が暗
魔急精神病院〜カケル〜 第11話
ドアから外に出ると、日が沈み、辺りはすっかり夜の帳に包まれていた。そして、数多の患者の脱走を阻んできた物々しい外壁が、紗良たち9人の前に不気味にそびえ立っていた。
「あちらにあるのが裏門です。急ぎましょう!」
不動は全員を門の前に誘導した。門の所だけは小さな電灯にぼんやりと照らされていた。
「衛くん、この門はどれくらいで開けられる?」
不動は木野にこう尋ねた。木野は門をじっくり見ながらこう答
魔急精神病院〜カケル〜 第10話
霊安室は3、40畳ほどとかなり広く、入口から見て正面の壁には小さな祭壇が設置されており、その手前に1人の遺体が白い布を掛けられた状態で安置されていた。そして、その遺体を青ざめた様子で見ている不動がいた。
「不動先生!」
紗良は不動を見て、安心感と恐怖の入り混じった様子で声をかけた。
「ひぇ~…」
唯史は自分のカバンで顔を隠し、ガクガク震えながら辺りを見渡した。霊安室には、遺体以外にホルマリン
魔急精神病院〜カケル〜 第9話
「ガン、ガン、ガン!」
「ここから出せぇ〜!!」
「きゃあぁ~〜〜〜!!」
開放病棟よりもさらに不気味な閉鎖病棟では、鉄を強く叩く音や悲鳴、泣き声が暗い廊下に響いていた。そこは、もはや病室ではなく独房であり、中と廊下を仕切るのは冷たく錆びた鉄格子だけであった。
「トイレが丸見えですね。人権も何もありませんね」
紗良は怒りに震えながら言った。唯史や日和以外の来場客は恐怖にブルブル震えていた。