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櫻坂5thは「セゾン系」なんじゃないの?と思えるいくつかの理由について(後編)

前編では、1thから4thのシングルのアートワークを振り返ってきました。過去の芸術作品のオマージュを随所に取り入れながら独特の世界観を作り出しつつ、それぞれのシングルが発売されたその時のグループの状況を暗喩する、という手法を進化させてきたのがこれまででした。
このアートワークに対するアプローチこそが、櫻坂のアイデンティティを作ってきたのだと思います。根底に流れるのは、クリエイティブに対するリスペクト。メンバーのインタビューを読んでいると彼女たちの口から「作品を作る」「楽曲を作る」という言葉がよく出てきます。作曲家、作詞家、映像作家・演出家に与えられた役割を演じるのではなく、共に創造するというスタンス。おそらくそこが櫻坂を櫻坂たらしめている部分なのかなと思っています。

櫻坂の現在地

そして、音楽、詞、ダンス、映像、グラフィック、舞台、衣装、そして彼女たち自身のパフォーマンスなど、あらゆるクリエイティブを高次元でバランスさせることに挑戦しているのがいまの彼女たちで、しかもメンバーそれぞれが、この姿勢を貫きながら異なる色を作り出せるのが他にはない強み。ただ、そのアプローチはすごく高いところにまで届きかけているけど、まだ十分じゃない、というのが櫻坂の現在地なんじゃないかなと思っています。
考えるに、おそらく上にあげたさまざまな要素がまだちょとだけチグハグで完全に噛み合っていない状態が今で、メンバーだけではなくて周りのスタッフ含めチーム全員でひたすらもがき続けているのかなと。でもそれがピタッとハマったら、きっと恐ろしく跳ねるんだろうなこのグループは、という期待しかありません。

日本のクリエーティブへのリスペクト

それはそうと、そんな中で生まれた今回の5thのアー写。これまでのどこか別世界のフィルターがかかっていたような隔世感から離れ、かなりパキッとした印象で、かつ全員が着用しいる衣装もばらばら。そういった意味でこれまでの幻想的で統一感のあるビジュアルを見慣れた人からすると「世界観が崩れた」と戸惑ってしまったのも無理はありません。
ただ「期待とは違った」「予想とかけ離れていた」という批判あっても、「世界観が崩れた」というのは違うのかも、というのが個人的な意見です。櫻坂46チームが最も大切にする世界観である「クリエーティブへのリスペクト」という軸は、今回のシングルでも変わっていないと思います。おそらくその視点の変化だけです。
これまでのリスペクトの対象は、歴史的な世界の芸術家。一方、5thでその視点が向かった先は「日本」であり、ではその日本のどんなクリエーションに目を向けるか、となったときに昨年8月にこの世を去った三宅一生(故人なので敬称略させていただきます)だった、ということなのかと私は理解をしています。
三宅一生の訃報がニュースで流れた時、多くのメディアは彼のことを「ファッションデザイナー」という肩書きで伝えたと思いますが、実際の彼はそんな簡単な一言で表現できるわけのない、世界のさまざまなクリエーティブに影響を与えたまさに「現代の美の巨人」。
その逸話はとにかくいろいろありすぎますが、わかりやすいのは、彼のものづくりの哲学である「1枚の布」という思想にとにかく傾倒しまくっていたのがスティーブ・ジョブズで、そこから「1枚の板からコンピュータを作る」というアップル製品のデザインコンセプトが生まれたという話。彼がいなければ、僕らが今手にしているmacやiPhoneは全く別のものだったかもしれませんし、もしかしたら生まれていないかもしれないのです。

クリエーティビティーを纏うメンバーたち

今回のアー写、メンバーが着用衣装の多くが「ISSEY MIYAKE」と直接又は
間接的に関連するブランド。れなぁさんが着用しているドレスは「mame kurogouchi」ですが、彼女もまた三宅一生に影響を受けてデザイナーを目指し、実際に彼の元で働いていた経験のある三宅一生の意思を継ぐ人の一人。新たなクリエイションの意思を継ぐもの、そんな意図があるのかもしれません。また、土生さんが着用するワンピースのデザイナー、HENRIK VIBSKOVもまた彼と関わりが深い方です。

三宅一生は実はダンスとの縁が強くあることでも知られています。1991年にバレエの衣装を作ることになった時、ダンサーとのコミュニケーションを経て改めて「着用のしやすさ、動き安さ、着心地の良さ」を意識した衣服の必要性を痛感。そこで生まれたのが「プリーツ プリーズ (PLEATS PLEASE)」なのですが、今回のアー写でそれを着ているのがゆいぽんとふーちゃんのダンスメン、そして激しい動きに定評のあるあきぽなのは激アツですよね。

前回のダブルセンターだったるんてんの2人は、メーンブランドとなるイッセイミヤケのプリーツアイテム。

そしてまりのすのワンピースもまたイッセイミヤケです。


ちなみに各人のダイナミックな動きは、イッセイミヤケがショーや広告でよく使う手法です。


おそらくその他のメンバーも、このプリーツを中心に関連アイテムを着ていると見られ、今回のシングルは、衣装というところを中心にクリエーティブを組み立てたということが言えるのかなと予想しています。

そして「折り重なる」プリーツの意味

さらに今回のアー写には、もう1つ意味が込められているのではないかと思われることがあります。プリーツの多用。プリーツでないメンバーも、オーガンジーを幾重にも重ねた衣装を着ています。多彩な色、その色を着たメンバーの衣装が折々と重なる様子、そして多様な影が重なるライティング、彼女たちの一瞬を永遠に写し取る全員写真…。さらにはあえて、みいちゃんをセンター横に置いたフォーメーション…。
ここで誰もが思い浮かべるのが、

「一瞬の光が重なって
折々の色が四季を作る
そのどれが欠けたって
永遠は生まれない」

この歌詞なのではないでしょうか?

この時に
「花のない桜を見上げて、満開の日を思った」
グループはいま、その満開の中にいる今を歌うのかもしれません。

ちなみに我らがセンターであるれなぁさん。制服の人魚では、唯一最低音から最高音までを地声で歌い上げられる声の持ち主で、高音域の伸びに期待ができるアーティストでもあります。その透明感のある声で、日本の季節の美しさや儚さが織りなす情景を歌い上げることができたとしたら…

本当に今回のシングル、期待しかないですよね。


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