高齢化率、人口減少率1位の県から東京に引っ越した件。

高齢化率1位、人口減少率1位の県をご存じだろうか。

秋田県である。

ちなみに、記事によると
・脳血管疾患死亡率
・がん死亡率
・自殺死亡率
・婚姻率(ワースト)
・出生率(ワースト)
も1位らしい。
不名誉な称号のオンパレードである。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220604-OYT1T50093/


私はかつて転勤で秋田県に1年住み、
転職を決意した。

私に秋田県は合わなかった。

今まで転勤を繰り返し、5県6箇所に住んだが、今まではどこでも「住めば都」だと思っていた。思い込むことが可能だった。

秋田での生活に苦戦したのは、新しく任された仕事に慣れなかったことも
大きい。
だが、日本海側の冬特有のいつもどんよりとした白い空、カサもさせない強風を伴う吹雪、時間通りに来ないバス、PASMOも Suicaも使えない電車と、どこへ行くにもアクセスが悪い未開の土地、秋田。
お土産を買って県外の友人に会いに行こうにも、数十年前からありそうな、古くいまいちなデザインの商品ばかりが目につく。

気分転換のショッピングをする為には車が必要不可欠で、なければどこに行くにも片道1時間以上かかった。また、行けても帰りの時間のバスがある保証もない。

映画も好きだが、私が気になる作品に限って秋田県では上映されないこともあった。

好きなテレビ番組である水曜日のダウンタウンも、探偵ナイトスクープも、ここでは放映されていなかった。
テレビを全く見なくなったのにNHK料金を支払い続けるのも癪で秋田でテレビを手放した。

心を病むのに、時間はかからなかった。

ある日、仕事へ行こうとすると涙が止まらなくなった。
心療内科へ行き、診断書をもらい、しばらく仕事を休むことになった。

実家でゆっくりと休み色々と考えた結果、関東圏での転職を決意し、今では新しい職場で働いている。

今のところ体調は落ち着いており、あの時出る決意をしてよかったと思う。

東京にきて、1年が経った。

「今日天気良いな」と呟く日が増えた。
こちらは冬に雲ひとつない青空が広がる。
電車に少し乗れば、すぐテレビで紹介された有名スポットや行きたい所へ行けた。
時刻表はこちらにきてから一度も見ていない。


一方、最初は人混みに酔い、なぜ数分後に来る電車を待たず駆け込み乗車をするのか、この混雑の中で立ち止まらず歩けるのか、理解出来なかった。

至る所にある吸い殻や落書きを、何度も何度もサイレンを立てて通り過ぎる救急車を、至る所で大きなスーツケースを引きずる外国人観光客を、当たり前の景色として受け止めるのに時間がかかった。


人を人と判別できなくなり、人が景色に紛れていく。

何故か、人がいないはずの秋田より、
孤独な気がした。

これだけ人がいても、誰とも分かり合えない気がした。
例えば私が電車の中で泣いたとして、そのことに気付く人ってどれくらいいるんだろう。

きっと、皆似たような想いを抱えつつも、
見ないふりをしている。



今、秋田に戻りたいかといえば、全くそうは思わない。

けれど、足りないものばかりだったからこそ、あるものを大切にする気持ちは秋田の方があったかもしれない。

今まで住んだ土地の中で、
どこよりも人が優しかった。

通勤で使っていたバスには、いつも白杖を持った方が途中から乗車した。その方が乗るバス停の少し前になると、そわそわして先を譲る準備をする人がいた。席まで誘導する人もいた。みんなが協力していた。

近所の駄菓子屋は、雨が降ってると「ここで少し休んでから帰りな」と、場所と傘を貸してくれた。

「年寄りばかりだから、助け合ってないと生きていけないの。」笑いながら職場の方が言う。

住み続けることは出来なかったけれど、
秋田から受け取った優しさはあった。


混雑とは無縁のあのバスが、電車が、その路線を必要とする最後の1人までちゃんと送り届けられますように。

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