自治体内弁護士の展望

このノートでは、自治体法務の特色から自治体内弁護士の展望という大上段なテーマについて考えていきたいと思います。

特色―法務機能が分権的であること

自治体は各部署が法律を扱います。ここは企業とは全く異なると思います。
企業であれば、契約のことも業法のことも法務部に集約されます。そのため、法務機能がひとつの部署によって統括されています。
これに対して、自治体は、固定資産税や住民税のことは税務を扱う部署がすべて担当しています。担当部署が「法務部」に相談してアドバイスをうけて判断しているわけではないのです。社会福祉をとってみてもそうです。基本的に、生活保護のことは社会福祉を担う部署が判断しているのであって、そこに「法務部」が関与することはありません。
すなわち、法務機能が分権的であるといえます。

仮に、自治体に「法務部」をつくった場合、「法務部」で扱うべき法律が多すぎてパンクすることになると思います。それだけ、自治体が扱う法律や条例は莫大ということです。

ノウハウの継承がうまくいっていないこと

わからないのは、せっかく培ったノウハウを人事異動によって全く無意味にしてしまうことです。

どんな人でも長くて5年、基本3年ぐらいのスパンで人事異動を行っています。部署が変わればまったく法律や条例が異なります。そのため、その部署で培ったノウハウが活かすことは困難です。

それに加えてさらに問題なのが、ノウハウの継承がうまくいっていないということです。
人員削減のためか、ベテラン職員が若手職員に教える時間を設けるのは難しく、また、ハラスメントを危惧してか強くも言い出せないと聞いています。(※ 後者はどうかなと個人的に思いますが…)
研修も、マナー研修は義務的に行うのに、地方自治法や民法について義務的にしていなかったり…

そもそも、民間企業は雇用の調整弁として各部署での人事異動を容易に行っています。自治体にはこのような考慮をする必要がないので、なぜ3年程度で人事異動を行うのか不思議です。
人事異動についてはなかなか聞きづらいところもあるので、聞けていないだけかもしれませんが…

「よくわからない」が故の前例踏襲

公務員の不祥事でありがちなのは「前例踏襲」です。なんでこんなことをやってしまっているのか?と不思議に思うことがたくさんあります。
しかし、これも悪気があってやっているわけでないというのは中に入ってよくわかりました。単純に「よくわからない」ために前例踏襲するしかなかっただけです。これもノウハウの承継がうまくいっていないという氷山の一角かと思います。

自治体内弁護士の必要性

こうして自治体内で順調に法務機能が失われていった結果、法務を教えることができる人材―自治体内弁護士を必要としたのではないかと考えています。
実際、20代~30代前半の職員と話していると、契約や地方自治法のこと、さらには要件―効果や法的三段論法といった基礎中の基礎もわかっていないように感じます。首長からも、任用の際に、職員の法務能力を向上させてほしいというメッセージがありました。
したがって、自治体内弁護士の業務には必然的に法務機能の回復ということあると思います。おそらくどの自治体内弁護士も法務研修を実施しているのではないかと思います。

自治体内弁護士の展望

自治体内弁護士が各部署の法務機能を回復する役割を負わされているとして、制度的な欠陥があります。それは任期があるということです。

企業でも各部署に法務機能を担わせる考えがあるところがありますが、おそらく長期的な計画かと思います。
3年~5年の任期でそのようなことを成し遂げることはそもそも困難ですし、少なくとも首長はじめ各部署の問題意識・危機意識が共有されていることが必要です。しかし、首長はじめどの部署もそこまでの問題意識・危機意識はないです。
ふわっとした意識でとりあえず内部弁護士をいれようかと思っているのが実情ではないでしょうか。(※ 私のこの点の経験談については割愛します。)

ただし、任期については、弁護士も任期のない職員として任用されることを望んでいる場合は多くないので、任期付き職員として任用せざるをえないと思います。

私が言いたいことは、首長はじめ任用する側もきちっとした目的意識を持ってほしいということです。
たとえば、「不当要求対策をするために実践例をつくって職員を育て上げて欲しい」「行政不服審査に職員だけで対応できるようにしてほしい」「市の契約書ひな形の見直して契約交渉を教えてやって欲しい」といった明確な目的をもって3年~5年の任期を付けて任用してほしいということです。
そうでなければ、内部弁護士側も漫然と法律相談を受けてしまい、職員側の考える能力や機会を奪ってしまう危険性すらあります。

自治体内弁護士は始まって10年ほど経つ制度かと思いますが、そろそろ一度どのようなメリット・デメリットがあるのか、どうすればデメリットをおさえられるのかといった検証が必要かと思います。

私としては、「任期付き公務員という制度の下、法務機能を回復するという目的を達成しようとした場合、漫然と内部弁護士を任用してしまえば、職員から自ら考える能力や機会を奪ってしまう危険性がある。そこで、今後も任期付き公務員という制度を使うのであれば、首長はじめ各部署が特定分野をしぼって目的意識をもった任用をしなければならない。」という展望をもっています。

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