自分は所詮紛い物だった。
私は自分のことを、だいぶ割り切った人間だと思っていた。
自分の価値観を大事にして、周りに左右されず、しっかりと生きていける。そんな人間だと。
しかし私は所詮は紛い物のサバサバ女だった。
そう気付かされたのは同期が勝手にLINEグループを作り、私をそこにメンバーとして登録したことがきっかけだった。
ある日突然、スマホがポコポコとLINEの着信音を立て始めた。
普段私はLINEが来てもすぐには確認しない。
「ほら、私ってサバサバしてるから?LINEとか気にしないタイプなんだ〜!みんなそういうの気にするよね〜!」
そんなことを考えつつ、しかしあまりに着信するので「仕方ないなぁ。お喋りなのは誰?」とか思いつつ、スマホを手に取る。
そこには見知らぬLINEグループが存在していた。
え?あれ?はい?
混乱する間にも、グループメンバー達が一斉に喋っている。うるさい。
目にうるさいそれらをスクロールして、一番最初の会話に辿り着く。
そこにはこう書かれていた。
「同期のLINEグループを作っちゃいました!こういうの無いな〜って思ってたんだよね〜!」
何してくれてんだコイツ。
私はLINEに限らず、付き合う人間を厳選してきた。
なるべく自分にとって心地よい人間関係だけを残し、他は徐々にフェイドアウトさせてきた。余計な年賀状を書かず、余計な飲み会にも誘われない…今の生活に至っている。
そこに突然、不協和音が割り込んできた。
同期や同級生という一区切りで「俺たち仲間だよな!」というノリが私は嫌いだ。
たまたま採用の時期が被っただけの赤の他人で、合う人、合わない人がいる。
合う人とは個別に連絡を取り続けているし、連絡が途絶えた人とはつまりそういうことなのだ。いい大人なんだからそこは察するべきだ。
仲が悪かったAさんとBさん。と言ってもBさんがAさんの陰口を言っていたのを本人に知られて、周りから総スカン喰らったのをBさんが逆恨みしていただけだ。そんなAさんのLINEに、Bさんが無言でいいねを押す。怖い。見ていられない。混ぜるな危険の文字がちらつく。
とりあえずグループLINEの通知をオフにして落ち着く。
そして今後どうするかなと思案する。
LINEグループを脱会するという選択肢もある。しかしまだこの職場にいる以上、人間関係が悪化するのは避けたい。
何より、自分以外の同期が全員集まっているグループLINEがあって、そこで皆がお喋りをしているというのはさすがに辛い。
自分から脱会したくせに、その内「仲間はずしにされてる!」という気分になってきそうだ。
今回のことで気が付いた。
自分は所詮は紛い物だったのだ。
サバサバなんてしていない。割り切れてもいない。自分の生き方に絶対的な自信も持てていない。
ちっぽけで、臆病で。これまで「皆はそういうこと気にするよね〜」と内心馬鹿にしていた、まさにその『皆』の中に、私も含まれていた。
今回のことは収穫だった。
自分の足らぬを知って、傲慢にならずに済んだ。
あのまま何も気付かず生きていたら、間違いなく傲慢な糞ババアに進化していたに違いない。危ないところだった。
今も会話が進み続けているLINEグループに、私は感謝の気持ちを込めて、時折スタンプを押すことにしている。
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