ドラクエⅤの花嫁

久し振りにPS版のドラクエ5をプレイしている。
今は神の塔でラーの鏡を探しているところだ。
ホイミスライムを仲間にするべく勤しんでいる。
そんな序盤も序盤で、既に迷い始めていることがある。花嫁にビアンカを選ぶか、フローラを選ぶかである。

スーファミ版のドラクエ5ではいつもビアンカを選んでいた。
当時小学生だった私は実のところ旅の目的をしょっちゅう忘れていた。パパスのことも、母親のために勇者を探していることもすっかり忘れて、ただ純粋にビアンカとの再会を喜び、花嫁選択では迷わずビアンカに話しかけた。
結婚式の翌日、ほくほくしながらルドマンに旅立ちの挨拶をしに行って天空の盾の話をされ、「あ!そういえば!」となったくらいだ。

スーファミ版でもフローラを選んだことはあったが、最後までクリアしたことはなかった。
途中で色々と耐えられなくなってやめてしまう。そして罪滅ぼしをするように、花嫁選択前夜のセーブデータに戻ってもう一度ビアンカを選択した。どうしてもフローラとの人生を完走することが出来なかった。

大人になってPS版をプレイした時もやはり1週目はビアンカを選んだ。ストーリーに違和感も罪悪感もなく、とても楽しめた。
そして改めて2周目でフローラを選んでみたのだが、これが思いの外想像以上に良いのに驚いた。

まずグラフィックが可愛い。
スーファミ版ではなんか白いモヤっとした服に青いぼさっとした髪だったフローラは、PS版では破格に可愛くなっていた。
長いスカートが可愛く、女の子を連れているんだという感じがとても良い。デートの時にスカートを履いてきて欲しい男の気持ちはこういうものかもしれない。

言動も逐一可愛い。
フローラの性格の良さが伝わってくる会話には製作陣のフローラ愛が感じられた。
アンディのことが気掛かりだったが、どうやらあの時点ではフローラの彼に対する気持ちは恋愛感情までには発展していなかったようだ。
むしろフローラが異性として初めて好意を抱いた相手は主人公だった。
よかった。フローラが父親の言いつけで色々と諦めて主人公と結婚したのではないと知り、とてもホッとした。
ちなみに私はアンディ自身のことはどうでもいいと思っている。フローラを選んだ場合、彼は元踊り子と結婚して幸せに暮らせているからだ。
むしろそんな男にフローラは勿体無いとすら思うし、実際勿体無い。
(その時にアンディ夫婦がルドマンの別荘に住んでいるのは、命を賭けてフローラ争奪戦に参加してくれた彼に対する、太っ腹ルドマンからの結婚祝い若しくは慰謝料だと私は解釈している)

PS版を両ルートで完走してみて分かったことがある。
正直私は、ビアンカよりフローラの方が好みだ。見た目も性格も、私が選んでいいならフローラを選ぶ。
ただしこれは主人公の人生なのだから、主人公が本当に好きな相手を選んであげたい。
だから悩んでしまう。

では主人公が本当に好きなのはビアンカとフローラのどちらだろう?
私の解釈は「あの時点ではどちらも同じくらい好き。ただし初めて女性として意識したのはフローラ」である。

「どちらも同じくらい好き」という根拠だが、結婚後主人公は通行人から「おやあなた幸せそうですね。え?結婚した?それはおめでとう!」と声をかけられている。
ビアンカを選んでもフローラを選んでも、主人公は通行人から見て分かるほどに幸せそうで、浮かれているのだ。
フローラを選んだ時のビアンカに対する罪悪感はプレイヤーの気持ちに過ぎず、主人公はどちらを選んでも全く後悔していないのだろう。
花嫁選択の時点では双方同じくらいに好きで、結婚式で格別綺麗になった相手を見て一層好きになり、そしてその後共に旅を続ける間に唯一無二の女性になっていったのだと思う。

とはいえ、主人公がビアンカに対して好意を抱いていたのはヘンリーとの会話からもよく分かる。
マリアのことを「生まれて初めて見た綺麗な女の人」と言ったヘンリーに対して「いいえ」と答えると「ビアンカちゃんか」とヘンリーは納得する。
ビアンカに会ったことのないヘンリーが『ちゃん』付けで呼ぶくらいだ。奴隷時代に余程ビアンカの話をしていたのだろう。(ちなみに主人公がビアンカを『ちゃん』付けで呼んでいたという事実に私は萌えた)
しかしそれは果たして恋愛感情からだろうか。

ビアンカとレヌール城を冒険した時の主人公は6歳だった。その歳の男の子が抱く感情としては、絶対に無いとは言わないがいささか早熟すぎると思う。
私は、大人になったビアンカと再会する前の彼女に対する主人公の気持ちは『親愛』止まりだと思う。
サンチョやボロンゴと同列くらいで、主人公はビアンカのことを大切な思い出として、過酷な奴隷時代の心の支えにしていたに違いない。

では、主人公のビアンカに対する好意はいつから、『友達に対する親愛』から『異性に対する性愛』となったのか。
それは成長したビアンカを実際に目の当たりにしてからだと思う。
フローラが優しそうで可愛らしい女性というのに対し、ビアンカはとびきりの美人という設定だ。
10年以上ぶりに同窓会で会った小学校の同級生が格別の美女(絶世の美女よりは下にしてみた)に成長していたら、誰でもドキッとしてしまう。それと同じことだ。
しかも内面は昔と変わらず天真爛漫で、移住した山奥の村でも皆から好かれていることから社交性の高さが窺える。
何より主人公に対して明らかに好意を抱いているのが大きい。
自分のことを良く思ってくれている異性と旅をしていて、そこで何も感じないほど主人公も男として鈍ってはいないだろう。
そんなことから、主人公がビアンカに異性として好意を抱いたのは再会後。そしてビアンカの熱い好意に絆された。というのが私の解釈になる。

次に、いつから主人公はフローラに好意を抱いたのかを考えたい。
結婚前の主人公とフローラの接点は、水のリング探しを経て会話システムをしたことのあるビアンカに比べて驚くほどに少ない。そんな少ない交流しかないフローラを、どうして主人公は好きになるのか。
それがビアンカ派のプレイヤーからは納得がいかず、フローラ派が「好きでもない相手と結婚した」「天空の盾と財産狙いで打算的」「ビアンカに対して薄情者」と迫害される原因になっていると思う。

主人公がフローラを好きになったきっかけ。それは『親友(ヘンリー)が結婚したから』が大きいと私は推察する。

サラボナでフローラ争奪戦に巻き込まれる直前、主人公の親友であるヘンリーがマリアと結婚した。
ルーラでラインハットに駆けつけた主人公は、幸せ一杯な親友の様子を見てどう感じただろうか。
近しい境遇にいた友人が最愛の人と添ったことで、自分にもその可能性があると感じたのではないか。
何なら私は、主人公はマリアに対して好意を抱いていたと思っている。
子供の頃から奴隷だった主人公が、大人になってから初めて見た奴隷でない女性はマリアだった筈だ。(事実ヘンリーはそれでマリアのことを意識し始めている)
主人公もマリアに対して「なんかいいな」とは思ったが、ヘンリーが明らかにマリアを好きなこと、そして何よりマリア自身が「私にできるのはこうして祈ることだけ…」と消極的だったことから、主人公とマリアの間では何も発展することがなかったのだ。
あそこでマリアが「祈っていては手が塞がる!私自身の力で、兄や他の奴隷達を助け出さなくては!」と冒険に付いてくる意気込みを見せたなら、おそらく第三の花嫁はマリアになっていたのではないか。(その時はヘンリーも付いてきそうだが)

サラボナに行くまでの間、主人公はフローラの噂を各地で聞いてきた。
心清らかな人、素晴らしい人…どれもフローラのことを褒め称える噂ばかりだ。
そんな噂を聞いていれば、年頃の主人公は会ったこともないフローラに対して大なり小なり憧れを抱いたのではないだろうか。

そしてサラボナに着き、実際のフローラを目の当たりにして、噂に違わないフローラの人となりに主人公は絶対に好感を抱いたはずだ。
ちなみに私が最初に「フローラは性格いいな〜」と思ったのは、下心を隠すでもなく結婚相手に名乗り出てきた道具屋の中年男にも「皆さん、私のためにそんな危険なことをしないで下さい!」と平等に接していたことだ。
「よく若い人らに混じってこの家に来れたな!?お前がその歳まで結婚できないのはそういう身の程を弁えていないところが原因だぞオッサン!」くらい言っても仕方ないと思うのに。
さすが育ちが違う。

可愛らしくて噂に違わず心優しいフローラに、この人と結婚するならアリだと主人公は思っただろう。
だって考えて欲しい。実際に会ったフローラが、実はすごい醜女だったりすごい性悪だったとしたら?天空の盾のためとは言え、主人公も結婚相手に名乗り出たりはしないと思う。
結婚という結論に向かって黙々とリング探しをしている時点で、主人公はフローラとの結婚に関して乗り気なのだ。

親友が結婚した。そのことで自分にもその可能性があると感じた。そこに申し分ない程に素敵な女性との結婚話が来た。こんな状態で、若い男である主人公がフローラを意識しないはずがない。
以上が、主人公がフローラに対して好意を抱いた経緯の、私なりの解釈である。
しかしこの後すぐに再会したビアンカにも好意を抱いているし、長い人生から見たらどっちが先だったかなんてほぼ誤差でしかない。
なのでどっちもどっちということになる。

運命とは残酷だなと思う。

もしビアンカがアルカパから引っ越していなければ。主人公と再会して、偽太后攻略後、すぐにでもラインハットでヘンリー達とW結婚式を挙げていただろう。

アルカパからは引っ越しても、せめてサラボナより前の町や村に居てくれたら。やはり主人公と再会して、大人になったビアンカの色香をまともに受けることになる主人公はサラボナに着く頃にはすっかり恋仲になっていて、アンディがフローラのために炎のリングを手に入れるのを手伝うことになったのではないか。

いっそのこと、主人公がフローラと結婚した後にビアンカと再会していたならば。ビアンカやビアンカの父親に余計な期待を持たせることもなく、ビアンカは大工の男の好意に応えていたかもしれない。

結婚はタイミングだと思う。
条件が少しでも前後していたら、主人公はビアンカでもフローラでもすんなりと結婚して、何の遺恨も残さず、心置きなく幸せになっていただろうに。

ちなみにフローラ派の人からは「どっちが好きかではなく、亡きパパスの意思を継ぐことを考えれば天空の盾を持つフローラを選ぶのが普通だ」という意見があるが、私はそれは違うと思う。
なぜならパパス自身も愛のために自分が本来やるべきこと・優先すべきことを捨て置いてきたからだ。
エルヘブンにとって最重要だったマーサを連れ出し、攫われたマーサを探すため長く王座を空けることにした。
その身の安全を考えれば城に置いてくるべきだった跡取りの主人公を、泣いていたとはいえあてのない旅に連れて行くことにした。
そしてゲマに人質に取られた主人公を見捨てることができず、マーサを救い出すという一番の目的を道半ばにして斃れている。
そんなパパスならば、主人公がビアンカないしフローラを、天空の盾は抜きに、ただ単純に一人の男として選んだとしても何も文句は言わないはずだ。

こんなことをつらつらと書き連ねる内、今私はサラボナに到着したところだ。
結局ホイミスライムは仲間にならなかった。神の塔でだいぶレベルアップしたおかげで、炎のリングのボス戦は楽々クリアできそうだ。
そうしたらビアンカと再会して、水のリングを手に入れて。いよいよどちらかを選ぶことになる。
実際に一晩ゆっくり考えてから決めようと思う。

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