冨岡義勇の声優を変えてほしかった話

 タイトルの通りである。
 これを見た人がどちらの意見かは分からないが対立させるつもりはないし、しないでほしい。その上で、どちらの意見の人に対しても言いたい事をまず初めに書く。

①嫌なら見なければ良いという意見について

 あまりにも悲しい意見だ、これを勝ち誇ったように言っている方々にまず考えてほしい。
 仮にイメージが合わないと降板を言い渡されていた場合、それを言われる側になるのはあなた達だ。

「今更声優を変えるのは違和感がある」
 なら見なければ良い
「義勇さんには彼が一番良かった」
 なら見なければ良い

 立場が違えばそう言われていただろう。
 そして、そう言われたことを想像して、どう思っただろう。何も思わない人もいるかもしれない、でも、この意見がどれだけ無慈悲で酷な事か少しでも理解してくれたら嬉しい。
 そして、もしもこの先彼が降板となった場合に、今怒りを感じている方々も、この意見は言わないで欲しい。虚しくなるだけだからだ。


②キャラクターと中の人は関係ないという意見について

 確かに、キャラクターと中の人は厳密には関係はないだろう。
 だが、中の人間をラジオや催し物などで、キャラクターではなく〇〇役のその人自身として扱っておきながら、中の人とキャラクターが関係ないは筋が通らない。

 そして、アニメ化において中の人とキャラクターのイメージはとても大切なものだ。
 もしも伊之助の中の人が、伊之助の顔に似合った、可愛らしく柔らかい声の人が柔らかく優しく演じたら、原作のイメージを壊している、とひと悶着あったに違いない。
 その上で、真っ直ぐで優しく正しい主人公の兄弟子であり、主人公を導き命をかけて鬼と戦う誠実で愚直な冨岡義勇と、独身と嘘をつき不倫をし、晒されただけとはいえ、性的なメッセージさえも世に出した、誠実とも責任感とも無縁の男が、イメージに合うだろうか。

 私は欠片もイメージが合わないと思う。

 原作の冨岡義勇のイメージぶち壊しにも程がある。

 そこまでイメージを気にするならば、犯罪者のキャラには犯罪者が声を当てろと主張すべきだ、と論点のズレた事を言う人は、どれだけズレた事を言っているのかきちんと考えてほしい。
 その作品に関わる人間が、犯罪を犯していないということがまず前提であり、その前提があるからこそ、作中で罪を犯したキャラクターさえも好きでいられるのだ。

 実際に人を殺した人間の演じる人殺しのキャラクターに、無責任にカッコイイなどと言える人間は早々いないだろう。
 どんな大犯罪でも、どんな大量虐殺でも、フィクションだから楽しめるのだ、イメージの前にあるその大前提を履き違えないでほしい。

 


③不倫は犯罪ではない、外野がやいのやいの言う権利はないという意見について

 確かに不倫は犯罪ではない。
 外野がごちゃごちゃ言う権利などないだろう。
 だが、犯罪ではなければ何をしても良いのだろうか。

 そんな訳がない。

 犯罪ではなければ何してもいいなら、無惨様が人を鬼にするのだって別にそれ自体は法で定められた犯罪ではないし、鬼にした人が人を殺すのも、その人自身の罪であり別に無惨様のせいじゃないと言えるのか。
 そんな話が通るわけないだろう。

 冨岡義勇の声のイメージを背負って、鬼滅の刃という作品を背負う仕事の場に影響するほどの醜聞を出した時点で、作品を楽しみにしていた人には物を言う権利くらいあるはずだ。



以下、ただの愚痴


 ……などと、うだうだと文句を言ったが、やはり最初から最後まで、徹頭徹尾タイトル通りのことしか言えない。

 私はあの声優の熱烈なファンではない。

 だから、あの行いで裏切られたファンの方々の怒りや悲しみまではわからない。私にあるのは、せいぜい好きなアニメに盛大な砂をかけてくれた怒りくらいだ。

 そして、今起きている対立に対する虚しさだ。

 本来なら、ファン同士のこんな対立も諍いも起こるはずがなかった。起きた理由は、冨岡義勇の声優が、数多の人が嫌悪する、一般常識とはかけ離れた無責任な行いをしたからだ。

 本当なら、続編の発表で喜んでいたはずだ。こんな虚しさも怒りもなく、続編への期待で溢れていたはずだ。
 鬼滅の刃はアニメとしてとても質が高い。美麗なアニメーションは見るたびに新たな発見があり楽しく、心のこもったキャラクター達の言葉は、胸を打つものばかりだ。

 その楽しみが、今後の展開で冨岡義勇が出るたびに、靄がかかるようになるだろう。
 あんな醜聞を晒したお前が冨岡義勇を演じるな、と叫びたくなるかもしれない、今後沢山、楽しみにしていた見せ場があるというのに。
 純粋に楽しめなくなってしまったことが悲しくて仕方ない。

 中の人の所業に文句を言う人は、純粋にキャラクターと作品を愛してるわけじゃないという意見も見た。
 そうなのだろうか、私は、鬼滅の刃が、そこに登場する人々が好きなわけじゃないのだろうか。

 それなら、もう、いっそ嫌いになってしまいたかった。

 でも嫌えないから、こんな地の底で文句を言いながら惨めったらしく、未練がましく最後まで作品を見るだろう。

 あの声優の続投を聞いて最初は怒りが先行した。
 だが、今はもう、こんな思いをしても見ることをやめられない、鬼滅の刃とアニメを好きでいることをやめられない虚しさとやるせなさがジリジリと心に残っている。
 

 

 

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