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【連載小説】ビューティフルフィッシュ【99%謎解き不可能】

 1……2、3、4……5匹の魚が泳いでいる。
 ガラスの水槽の中で、水草がゆらゆらと揺れている。なんて大きな水槽だろうか。小学生くらいの子どもであれば、二人くらいは入れそうな。いや、魚もよく見れば随分と肥えている……真っ青な鱗と、赤い瞳?――頭の裏がズキンと痛んで、瞬きを繰り返す。
 ひどい目眩だ。そういえば昨日は随分と深く飲んだから……。
 それから、ハッとする。

「ここは、どこだ」

 立ち上がろうとすると、手足が重力に引っ張られる――いや、ちがう。布だ。袖口がない手術着のようなものを着させられている?
 背の低いベッドに寝かされているのか、床が近い。首を右に倒すと、大きな姿見があった。やはりベッドに寝かされている自分の姿が映っている。どうやら、この妙な手術着の異常に長い袖がベッドの下で括られているために、起き上がれなくなっているらしい。
 これではまるで昔の精神病棟で使用していた拘束布のようではないか――顎を引いて首だけ起こすと、胴と両足も白い布でベッドに括りつけられていた。

「お、おい……おーい! 誰かいないのか!」

 大声で叫ぶが、誰の返事もない。
 ちょろちょろと水槽の水が循環する音だけが部屋の中に響いている。途端に妙な汗がふきだす。

「おい……誰か、これを外してくれないか。誰か!」

 ――ドンドン!!!

 突如、部屋の壁が外から殴られる。

「っは……」

 息を止める。心臓がバクバクと脈打つ。息を押し殺したまま、目を凝らして周囲をうかがう。
 何者かが部屋の外にいる――なのに、部屋には扉も窓も見当たらない。部屋は正方形のかたちをしており、床も天井もベッドも、手術着のような拘束着も白色で統一されている。だからだろうか、身動きができない身で眼球だけを動かしていると、だんだんと平衡感覚を見失いそうになる。

 なぜ私は拘束されているんだ。
 さきほど外から部屋の壁を殴ったのは誰だ?
 ここは、アパートやマンションの一室なのか。それとも、やはり病院の中なのか。
 たしか昨日は店で酒を飲んでいて……だめだ、そこから先の記憶がまったくない。

 力任せに身を捩ってみる。……が、肩の関節が外れそうになり、慌てて動きを止める。それに動けば動くほど、拘束布の括り目がきつくなってしまうかもしれない。
 だが、この不気味な状態からはやく逃げ出さねばと本能が告げている。
 遠くで銃声のような音が聞こえるのだ。

 そのときだった。

 パチパチ――部屋の照明が突然2回点滅した。
 停電? いや、天井に埋め込まれたシーリングライトの不具合か……こんな時に――そう思ったのも束の間、部屋が完全な暗闇の中に落とされる。

 だが、ほどなくして、私はこれがただの停電ではないことに気がつく。

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