R1 SM 午後1‐1 継続的サービスの改善


概要図


 H社は情報システム会社であり、F事業部では営業支援業務に関するクラウドサービスを提供している。F事業部には技術課、データ課及びサービスデスク(以下、SDという)がある。データ課では、名刺情報データ化サービス(以下、本サービスという)を提供している。SDでは、本サービスの利用に関する問い合わせを受け付けていて、営業時間は平日の9:00~17:00である。
 本サービスの利用者は、PCやスマートフォンの専用アプリケーション(以下、専用アプリ)を使って、名刺の画像をH社のサーバに送信する。送信された名刺の画像情報はシステム処理され、顧客データベース(以下、顧客DBという)に必要な情報が登録される。データ課では、名刺の画像情報とシステム処理の結果を目視で確認し、誤り箇所などに補正処理を行い、顧客DBの登録内容を確定させる。利用者は、平日の日中であれば画像処理の送信から数十分後に専用アプリで顧客DBの登録内容を確認できる。
 本サービスの概要は、H社のWEBサイトに、サービスカタログとして掲載されている。サービスカタログの目標値(以下、カタログ目標値という)では、平日09:00~16:00に送信された名刺の画像情報について、送信後60分以内で顧客DBに登録すると案内している。
 H社のWEBサイトにはFAQが掲載されており、本サービスの利用者はFAQを検索することによって、自らの疑問を解決できるようになっている。FAQで解決できない場合には、電子メールでSDに問い合わせができる。SDでは問い合わせに対する初回回答を三時間以内(SDの営業時間外となる場合は、翌営業日の12時まで)に返信をすることを社内サービス目標値として定めている。

サービスの利用状況

 F事業部のITサービスマネージャであるJ氏は、本サービスの大口顧客であるA社の担当であり、A社に月次で提供サービスの状況を報告している。ある月のサービス報告会で「A社の利用者の意見を吸い上げて欲しい」との相談があったので、本サービス及びSDへの問い合わせに対するアンケート調査を実施した。F事業部は、これまで顧客に対してアンケート調査を実施していなかったので、H社の他事業部が実施した新規サービスの顧客満足度調査を参考にした。
 A社に対して実施した顧客アンケート調査の結果を以下に表す。

 J氏は、顧客アンケート調査の結果を受けて、サービスの改善に取り組む必要があると考えた。そこでH社の継続的サービス改善の手順に従って、サービスの改善を検討することにした。
①改善の戦略の識別
②測定対象の定義:現状どこにいるかのベースラインを決め、どこを目指すのかの達成目標を評価できるように、何を測定すべきかの測定対象を決定する。
③データの収集:データ収集のための手順を決定し、サーバのログやSDの対応履歴などの記録を参照し、効率的にデータを収集する。
④データの処理:③で収集したデータを改善に役立てるために、サービス目標値やKPIがどの程度達成できたかが分かるように加工する。
⑤情報とデータの分析:④の加工されたデータによって導出された情報を基に、改善すべき内容を分析する。サービス目標値やKPIの目標値を達成できていない場合、原因は何かをなどを分析する。
⑥情報の提示と利用:⑤の分析結果を取りまとめ、問題点と改善結果を上長に報告しレビューする。
⑦改善の実施:⑥のレビューの結果、必要とされた場合に改善計画を実施する。

SDの改善

 J氏は、アンケート結果におけるSDの対応における、初回回答時間と最終回答時間の二つに着目した。
(1)初回回答時間
 J氏は改善手順②の測定対象として、社内サービス目標値の達成状況を調査する必要があると考えた。そこで、改善手順③に従って、SDの問い合わせに対するデータを収集することにした。J氏は、10/01にSDの対応履歴を入手し、A社からの九月分の問い合わせと対応状況をまとめた。
表略
 J氏は、改善手順④に従って、社内サービス目標値がどの程度達成できているかを調べたところ、社内サービス目標値は達成していることを確認した。次に改善手順⑤に従って、SDへの問い合わせに対する初回回答の時間の状況を分析した。J氏は、社内サービス目標値は達成していたものの共通点が、(問1‐1:エスカレーション先が技術課の場合、初回回答までの時間が長い)為に達成が危ぶまれてた事象があることに注目した。そこで改善手順⑥に従って、初回回答時間に関する社内サービス目標値の達成を確実にするために、エスカレーション先に要請し、スキャナの障害かどうかをSDで切り分けて対応することができる手順書を整備するなどの改善策を策定した。さらに、改善策の実施によって見込むことができる改善効果を測定するためのKPI(問1‐2:エスカレーション先の技術課に依頼することなく、対応完了となった問い合わせの割合)を設定して運用する改善計画を策定した。
(2)最終解決時間
 J氏は、他の月のSDの対応履歴も確認した。その結果、最終解決までに一週間を超えた場合に、再問合せやクレームが発生していることが分かった。そこで、J氏は問い合わせの受付日から完了日までの期間を、受付日も含めて5営業日以内とする新たな目標を設定し、4営業日を経過しても対応が完了しない問い合わせを「目標未達のおそれがある問い合わせ」として抽出し、5営業日までに完了させる改善計画を策定した。具体的には、「毎日の営業終了時点で、受付日を含めた経過日数が4営業日の問合わせで、かつ、(問1-3:完了日次欄が受付又は対応中)の問い合わせ」を、目標未達のおそれがある問い合わせの対象として抽出することにした。
 それぞれの改善計画はF事業部長のレビューを経て承認され、来月から実施されることになった。レビューの席上、F事業部長から、「今回のSDの改善は、A社に実施した顧客アンケートをきっかけとして取り組むことができた。今後も、定期的に現状を把握して改善プロセスが回るように、(問1-3:定期的な顧客アンケート調査の実施)を検討すること」との指示があった。

FAQ掲載方法の改善

J氏が、SDの担当者と打ち合わせを行なったところ、「H社のWEBサイトに掲載しているFAQを見れば利用者自ら疑問を解決できるにも関わらず、SDに問い合わせをする利用者が散見される」という意見が出された。J氏が調査した結果、問い合わせの約10%がFAQに掲載している内容であることがわかった。
 FAQは、利用者が求めている情報を提供するために重要な役割を担っており、SDへの問い合わせの件数を削減する効果も期待できる。そこで、J氏は、FAQの構成、掲載方法及び回答内容を見直すことによって、FAQの検索性を高め、より多くの利用者が自らの疑問を解決できるように改善を行った。また、KPI(問2:SDへの問合せ総件数に占めるFAQに掲載されている問合せ件数の割合の減少)を設定した。

本サービスの改善

 J氏は、SDの改善の取組を参考に、本サービスの改善検討に着手した。
 データ課では、午前中の作業量が多くなることを把握していた。これは、利用者からの名刺画像の送信数が午前中に多いことに加え、前営業日の夜間に送信されたものも処理する必要があるからである。データ課では、カタログ目標値を達成するために、数年前から午前中だけ要員を増強して運営し、目標値を全て達成してきた。しかし、アンケートの結果から(問3‐1&2:名刺画像の送信から顧客DBに登録されるまでの時間別の平均待ち時間)を分析しておく必要があると考えた。

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