H30 SM PM2-1 ITサービスマネジメントにおけるプロセスの自動化について


設問ア:携わったITサービスの概要と、自動化対象としたプロセスの概要及び自動化の状況 


Z社は、自社開発のネットワーク機器や、PCを販売している通信事業者である。Z社では、サポートデスク対応及びインシデント対応をZ社技術部で実施している。
 Z社技術部は内勤者によるサポートデスク対応と簡易的なインシデント対応(以下、受付対応という)を実施し、受付対応で完了しなかった、あるいは訪問による作業が必要な場合、外勤者が訪問し対応を実施する。
 Z社では、Z社データセンタへVPN接続を実行することで利用可能となるストレージサービスを提供している。このクラウドサービスを利用できるのは、あらかじめPCにVPNで利用するクライアント証明書やVPNの接続設定を施したPCのみで、この初期設定済のPC(以下、VPNPCという)を商品の一つとして販売している。
 VPNPCは設定が複雑なこともあり、外勤者での対応が難しく、内勤者の中のVPNPC対応の専門チーム(以下、専門チームという)に問合せをしインシデント対応をしている。
 外勤者から専門チームへの問い合わせ(以下、サービス要求という)は、インシデント及びサービス要求プロセスにおいて、知識ベース検索機能を備えたツールを使って、専門チームが外勤者の問合せに対応するなど、プロセスを効果的かつ効率よく実施している。
 先日、外勤者から”専門チームの問合せ対応が遅くなっている”というクレームがあり、専門チームのチームリーダーからZ社技術部に所属するITサービスマネージャの私に改善の依頼があった。
 私は、改善のために現状を確認する必要があると考え、VPNPCの問合せ状況を確認した。
 この問合せは、外勤者が専門チームに問合せを行い、専門チームは自身の経験や技能と知識ベース検索機能の回答を合わせて対応を実施する。知識ベース検索機能は、一定の知識がないと十分な効果が得られないことを確認した。
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設問イ:設問アで述べたプロセスに関する、自動化の範囲の拡大に当たっての活動における取組内容及び実施計画について、KPIとその目標値について

 私は専門チームの問合せの対応遅延の改善について、専門チームに問合わせが集中しないように、インシデント対応の自動化の範囲をさらに拡大し、プロセスに関する自動化を進めることで改善が可能と考えた。
 私は、以下に示す順序で対応することとした。
 まず、自動化されずに人が行っている作業を、新しい技術を適用することである。次に、インシデント対応と問題管理プロセス間の連携を自動化することである。
 これらの対応を実施することで自動化の範囲を拡大し、プロセスに関する自動化を進め、プロセスを首尾一貫して実行する程度(以下、プロセス成熟度)を向上させることで、専門チームへの対応の遅延も解消し、専門チームによる業務の効率性の向上が可能と考えた。
 自動化されずに人が行っている作業は、問合せに対して、経験や技能と知識ベース検索機能の回答を合わせて対応を実施することである。これについてはAIチャットボットを活用し、外勤者自身がAIチャットボットのサポートを受けながら知識ベース検索機能を利用する(以下、AI検索という)。外勤者の問合せからVPNPCに対する作業は、問合せ結果を参照すれば比較的簡易であることが多いため、十分な効果が見込まれる。
 次に、プロセス間の連携を自動化については、AI検索の結果を収集し、VPNPCのインシデント対応について、パターンや症状の頻発するインシデント対応をAIにより傾向分析し、インシデントの根本原因を特定して解決策を策定する(以下、AI分析という)こととした。
 私は、Z社で別のシステムで利用しているAI、およびAIチャットボットを、管理・運用するZ社情報システム部に依頼し、専門チームへ手配した。
 専門チームによるAIチャットボットの学習を終え、私は試行運用を開始することとした。
 試行運用は、一か月を計画した。この試行運用期間にAI検索及びAI分析の利用状況を把握し、今後の取り組み内容や改善点の洗い出しを実施する。
 また、効果を評価するためにKPIをAI検索に関しては専門チームへの問合せ回数の減少とした。現状の月平均約100件のうち30件で発生しているため70%減である70件とした。AI分析に関しては、AI検索の改善効果の結果によって多少の変動が予想されるため、運用期間の結果を確認し設定することとし、KPIをVPNPCのインシデント発生数とし、目標値の設定は保留した。
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設問ウ:設問イで述べた活動によって実現したプロセスの自動化及び組織におけるプロセス成熟度向上の評価について

 私は、AI検索とAI分析の試行運用開始から一か月が経ち、それぞれの利用状況を確認することとした。
 AI検索に関しては、80回ほどの利用であった。これは月平均100件から換算すると、20件がAI検索を実施せずに、従来の専門チームに問い合わせるインシデント対応手順を行ったものと考えられる。これについては、サービス要求前にAI検索を活用する問合せ対応の手順をより徹底することで、改善が図られるものと思われる。
 また、KPIに関しては、20件が専門チームでの問合せでの対応を行わず、AI検索のみで対応が完了した。このKPIの目標値は30件の為、未達ではあったが、AIチャットボットの学習をより精度の高いものにすることで、目標達成の可能性があるため、引き続き目標値として設定した。
 AI分析に関しては、問題管理のプロセスとして機能したのは一件であった。クライアント証明書に関する設定のうち、PC設定時の作業で手順を間違うと発生し、インシデント対応時に手順を訂正する必要があるインシデント対応がAI分析によって発見された。これは作業マニュアルの訂正を実施することとした。
 AI分析のKPIに関しては、今回発見されたインシデントは先月では10件発生しており、今後は発生が抑制できるものと考えられる。ここで、未設定であった目標値を20件減少とした。この値は、今回のケースと、類似したケースの発見によって、達成可能性は十分あると考えられる。
 私は、AI検索とAI分析によって、専門チームへの直接のサービス要求が減り問い合わせ対応の遅延について外勤者の管理者へ確認し、待ち時間の減少効果があったことが報告された。
 今回は、専門チームの対応のみで、VPNPCのインシデント対応が比較的チャットボットなどのAI技術と親和性が高かったこともあり、このインシデント対応と問題管理のプロセスの組織におけるプロセス成熟度向上が可能であった。
 AI技術については、効果の向き不向きがあると考えられるため、十分に検討し、適性のある他のインシデント対応についても、この利活用で効果が得られるものと思われる。

以上


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