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【お話し】月光~妖精と龍~(2)

再会

 その日 ミリーは急いで森の奥へ向かって飛んでいた。
奥へ、奥へ、ミリーの管轄の花畑はとうに過ぎ大きく繁った木の葉が折り重なり、薄暗くなってもミリーはさらに奥に飛んでいった。
奥の奥へ飛んでいくと、先の方に一筋の光が見えた。
その光に向かってスピードを上げる。
やがて森は終わり、明るい開けた場所に出た。

川を挟んで左右は平らな地面が川に沿って続いている。
平らな地面のさらに両外側は切り立った崖がそびえ立っている。
花はさいていないが、短い草が緑の絨毯のように敷き詰まっていて、日の光に輝いている。

ミリーは川に沿って上流に向かってさらに飛んでいく。
だんだんと空気が澄んできて、張りつめた様な、柔らかい様な不思議な感覚のする場所だった。

やがて、滝が見えてきた。
開けた場所の行き止まりの所だ。
そこも切り立った崖になっていて、その頂上から豊かに水が落ちている。
たきの滝の下には滝壺が広がっており、透明な水をたたえ川へ水を押し出している。

「ここね。」

ミリーは滝を見上げた。
そして滝に向かって大きな声で呼び掛けた。

「暁飛(こうひ)ー!!」

何の反応もない。

「暁飛ー!!来たわー!!わたしよー!ミリーよー!!」

滝の音に負けないように力いっぱい大きな声で呼び掛けた。
しかし返事はない。

「清涼の谷ってここよね。初めて来たけど・・・間違ってないわよね。」

ミリーは滝のそばの少し広い場所にある葉っぱの上にちょこんと腰かけて頬杖をついた。
サラサラと流れる水音。
渡って行く風の音。
1番上流から響いてくる滝の音。
穏やかな空気が谷を包み込んでいた。

「はぁ、困ったな。いないのかしら? まあ、いつ行くとか約束してた訳じゃないしね。でも折角来たのになあ。」

ふと、日が影った。
よい天気だったが、雲でも出てきたかとミリーが見上げた。

「キャー!!」

大きな黒い影がミリーの頭上にいきなり現れた。

「む?誰だ。」

低い声が響いた。

「暁飛?」

「その声はミリーか?」

「良かった!間違ってなかった!やっぱりここが清涼の谷なのね!」

大きな黒龍がミリーの頭の上でグルグルと飛んでいる。
やがて黒龍はミリーを踏み潰さないように降りてきた。
が、小さくて軽いミリーは暁飛の風圧に負けてぴゅーっと飛ばされてしまった。

「ひゃーぁぁぁぁーアハハハハハ!」

「む、すまん。大丈夫か。気を付けたつもりだったのだか。」

ミリーは飛ばされた所からケラケラと笑いながらパタパタと飛んで戻ってきた。

「大丈夫よ。久し振りね暁飛。やっと来れたわ。なかなか見回りが終わらなくて 今頃になっちゃった。」

暁飛の鼻先に飛び上がり、ニコニコしている。

「本当に来るとは思わなかった。」

「なぜ?」

「・・・なんとなく」

「来るわ。約束したもの。」

「むぅ。」

「もしかして、空から降りる時、ここに降りるの?」

「ああ。ここがこの谷で一番広いからな。」

ミリーはぐるりと周りを見回した。

「いい所ね。何だか空気が違う。」

「ああ、清涼の谷は癒しの谷だからな。」

「癒しの谷?」

「ああ。ここは特別な場所だ。少しぐらいの怪我ならば しばらくここにいれば治る。」

7日前は深傷を負っていたので『幸せの光』を浴びに行ったのだ。

「へぇ。特別な場所なのね。」

ミリーはしばらく目をつむり、谷の空気を感じていた。
何かに気付いたように、ミリーは暁飛の方を見た。

「暁飛のおうちってどこ?滝の裏って言ってたわよね。」

「ああ。そこの滝の裏側だ。見るか?」

「いいの?」

「構わんよ。どれ、」

暁飛は、すいと飛び上がると滝に向かって行った。
落ちてくる水などものともせずに、滝の向こう側へ消えていった。
ミリーには多すぎる水の量だ。
こんな所をくぐったら水の中に叩きつけられてしまう。
ミリーが滝の前で躊躇していると、ザバっと
再び暁飛が顔を出した。

「その脇に隙間がある。そこから入れる。」

滝の端を指差し、また顔を引っ込めた。

「そこはさ、暁飛が水を避けてくれるとか、私を庇って一緒に入ってくれるところじゃないのかな?」

ミリーはぶつぶつ言いながら滝の端にある隙間から滝の裏側へ入っていった。

                 ー続くー

ヘッダーの絵と挿し絵は、KeigoMさんからお借りしたものです。


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