秋空のまま

ほとんどやってこない電車を待っているのは退屈だから周辺をうろついていた。かつて栄えた町は黒ずんだ建物と破れた窓や障子、ヒビの入った壁と閉じたシャッターが並んでいる。人の気配はする。おそらく誰か住んでいるのだろう、商売をやらないだけで。
暮らしていくってなんだろうと思う。仕事の忙しさから逃れるために旅に出たのにたどり着いた先で仕事の終わりをみてしまう。晩夏を過ぎたばかりの秋空が気持ちを切なくさせている。
早く街に帰りたいなあと思って駅に戻る。でもまだ電車はやってこない。駅員さんに聞いてみようと思ったけど誰も出てこない。
時刻表を眺めてみると全部真っ白だ。本当にここから連れ出してくれる電車はやってくるのだろうか。
そういえば車も見かけない。ここの人はどうやって買い物をしているのか。スーパーなんてみかけていない。
線路沿いを歩いて、近くの踏切までやってきた。線路の先をみても電車の気配はない。これから街までいく電車はくるだろうか。空は暗くなるだろう。
なんだか眠たくなってきた。駅の改札口のベンチでうたた寝してすればいいんじゃないか。電車の警笛で起こされれば、それが街行きの電車がやってきたのだとわかる。
しかし待っていてもやってこない。どうして来ないのだろう。早く帰らないと。でもなぜ帰らなければならないのか。本当は帰りたくはない。しかし帰らないと、この場所に居続けてしまう。
そこで分かった。電車がやってこないのはまだ仕事にいきたくないせいだ。私は休むべきなのかもしれない。まだ街で暮らしたくないのだろう。
それならば仕事に行きたくなるまで眠ってしまおう。電車がやってきたときに私は間違いなく乗るだろう。乗る時はちゃんと目が覚める。だから今は覚めないように眠ってしまおう。再び目を開けた時は同じ秋空が広がっているはずだから。

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