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今年一年どうだった?

時間は過ぎている。気がついたら暑くなって、寒くなり、また一年が経過している。久しぶりに二人揃っての休みの日に近くの山道を散歩していると、それまでに何も言わずに歩いていた君が聞いてきた。
「今年はいい一年だった?」
君が無邪気な顔で訪ねてくる。まだ一年は三ヶ月も残っているのに気が早いな、と思ったがもう三ヶ月しか残っていないのだ。今年は社会情勢的に色々大変たったが、それでも時間の流れ自体は変わらないはずだ。
「なにも変わっていないから、わからないな」
なにか成長しただろうか。子供の時の一年は色んなことを学んだ気がする。でも今の一年は毎日の生活をやりくりすることで精一杯だ。
「そっちはどうなんだよ」
私が訪ねると、君はすぐに答える。
「良い一年だよ」
からかっているのかと思っていたが、君の表情は変わらぬままだ。
「天気がこんな悪くても?」
雲が厚くたちこめた空を軽く仰ぎ見る。君が偏頭痛もちだと知っている。
「たしかに朝は辛いけどね。でも仕事は調子良いし、体も悪いところはあまりないし、あなたと一緒に歩けるし」
「なにも変わっていないじゃないか」
君は不思議そうにこちらを見ながら体を寄せてくる。
「だから良いんじゃないの」
そうかな、自信がなさすぎて声にならなかった。君は意地悪そうに笑う。
「そうだよ」
つい足を止めてしまった。聞こえたのだろうか。いいや、そんなことができるわけない。
先を歩いていた君が立ち止まる。かさりと枯れ葉を踏みしめる音がする。こちらを振り向いて微笑む。
はやくこっちにおいでよ
君の声が聞こえた、気がした。
そういえばいつも二人で歩いていると、こんな感じの会話を繰り返していたような気がする。寒い時も暑い時も、山道でも街の中でも。過ぎていく時間のなかで変わらない同じことを繰り返して、そして少しずつ寄り添っていく。
「そうだね。良い一年だね」
私は答えながら近づいていく。おそらく私から歩み寄るのは始めてだ。

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