夜の隙間

夜道を歩いていると本当に暗いところがわかるという。その暗いところを眺めていると、セロファンのように剥がれてくるのだと彼が言っていた。
例えば近くの商店街の裏通りにある壁と壁の間とか。闇が剥がれかけてペラぺラと揺れているのを眺めていると薄い闇に吸い込まれてしまいそうな気になるという。

吸い込まれる、ううん、落ちそうなんだ。壁の隙間に、落ちそうになる。

実際落ちたらどうなるのかと聞いてみたすると落ちたことがないからわからないと言う。

でもあれは本当に良くない。まるでタンスの隙間に落ちたコインみたいだよと答える。彼にとって剥がれかけの闇は家の中にもある意外と身近なところらしい。そして彼は一週間前に消えてしまった。

だから彼が闇の隙間があると教えてくれた場所にいく。

商店街の裏通りにある壁と壁の間。確かにこんな街中にあるのに街灯もなく暗い。手を伸ばすと、自分の指先もみえないくらいだ。周囲の喧騒も聞こえてこない。

いや、ひとつだけ聞こえてきた。ううん、落ちそうなんだ。彼の声だ。

私にも見えたのだ。この壁と壁の隙間、ここを通り抜ければ向こうの通りにいけるはずだと足を滑り込ませて、体を押し込もうとしたとき、目の前の境目あたりの夜の暗闇がピリピリと剥がれていきその場所自体を飲み込んでストンと落ちていった。どこに、夜のタンスの隙間へ、コロコロと。

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