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終わる町の終わることがない店

とある海沿いの地方都市に出張でやってきた。車で半日、だいぶ遠くまで来てしまった。自分ひとりで旅をしたいと思ってもくることはないだろうと思う場所だ。

他の出張仲間たちと一緒に飲みにいく約束をしたため、その時間までふらふらと町歩きをすることにした。
海沿いの地方都市は店が閉まるのが早い。休日ならば尚更だ。雑草が茂る空き地をみてはここにかつてはビルが建っていたのだろうと想像する。そして残った隣のビルのショーウィンドウの中にはなにも入っておらず、玄関のガラス窓の内側にダンボールが無造作に置かれているのをみて、果たして更地にするのと残って営業していない店を見せたままにしておくのはどちらが外見がいいのか考えてしまう。もちろんふらっと出張してやってきた人にとやかく言われる筋合いはないだろうけど。
そのときどこからか香ばしいにおいがしてきた。新鮮な魚の焼ける、生臭さを感じない、独特の食欲をそそるかおりだった。
海鮮焼きの店かと思いあたりを見回すが道路を照らす街灯しかみあたらない。とにかく道なりにあるいてみると、においがだんだんと強くなってくる近くの民家で貝を殻ごと焼いているのかと思ったがどこの家からもその気配はない。
大通りの信号を渡り、しばらく歩くと大きな駐車場がみえてきて、そこに車がちょうど止まるところに出くわした。その車は空いている場所を探していたが、端にある空きスペースに滑り込ませて止まった。
そこはうなぎ屋の駐車場だった。
ここまでうなぎの焼くにおいが届くのかと感心した。
店内を覗くとどうやらほぼ満席のようだった。
うなぎの焼くにおいでご飯を何杯でも食べられるという話を思い出したが、たしかにこの香ばしさは魅力的だ。
するとこの静かな地方都市がとても魅力的にみえてきた。雑然とした都会であれば他のにおいや喧騒に消されて微かな香ばしさは遠くまで届かないだろう。そして客の入りをみればこのうなぎ屋が実直に商売をしていることのなによりの証拠だった。
地方では人は減っているのかもしれないり。しかしそのなかでしっかりと客が求める商売をすればくるのだと商売の基本をみた気がして、お腹が鳴いたのだ。

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