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【PODCAST書き起こし】梅山いつきさん(近畿大学・准教授)に「運動」としての演劇をされている、佐藤信さんについて聞いてみた!(全5回)その4

【山下】梅山さんは
東京学芸大学で佐藤信さんが先生で来られて、出会われたということですが、佐藤信さんの本を読んでいると、知をつなげる場として大学教育があって、教育ということに関して佐藤信さんが、割といろいろ意識されてやってらっしゃるというようなことを、梅山さんもこの前の対談で、「教育ということが信さんの中で、非常に大きくなっているということを感じさせられるんです」というようなことを、劇場創造アカデミーを例にして言ってらっしゃるんですけど、この辺についてお話をお伺いしたいと思って。

【梅山】高円寺での対談のときには、2010年代に入ってから、特に教育というのが比重を占めているんじゃないか、ということだったんですけど、それについてはご本人は、そんなことはないっていうふうに否定はされていたので、本人の中では、別にそんな意識してないよっていうことらしいんですけど。なので、教育だけを熱心にやってるのではないっていうことなんですが。

【山下】ただ活動の中の一つとして、平田さんもやってらっしゃるけど、演劇を使った教育をされてて、梅山さんは20年少し前に先生として出会われたんですよね。

【梅山】今日のお話の冒頭での水族館劇場でのテント公演の話のときに、照明だった人が出演者にいきなり代わっちゃうとかっていう話にもつながるんですけど、信さんに私自身も学芸大で言われて、また座・高円寺の劇場創造アカデミーのときにも掲げておられたことが、何か一つの役割のプロになるのではなくて、複数のことができる人間を作りたいっていう、それって何て言うんでしたっけ。

【山下】マルチポートフォリオワーカーって、リンダ・グラットンが言ってるけど?違います?

【梅山】結構前に、10年以上前に割と流行った言葉で。

【山下】何だろう、日本語?

【梅山】いや、カタカナなんですけど、ちょっと忘れちゃった。何でしたっけ、そういう、経理だけのプロっていうよりは、経理も考えるし、企画もできるようになるし、自分自身も身体を動かしていろいろと作業ができるようになるような。

【山下】いわゆる専門職じゃなくて、一般職的なかたちね。

【梅山】はい、そういう人材を劇場創造アカデミーでは作り出したい。だから照明家を育成するとか、俳優は演技のことだけ勉強するんじゃなくて、受講生はみんなどのカリキュラムも……。

【山下】あっ、ジェネラリストじゃない?

【梅山】あっ、そうです、ジェネラリストです。

【山下】あー、分かった。スペシャリストとジェネラリストでしょ。

【梅山】スペシャリストとジェネラリストですね。

【山下】ピンポーン。きました。

【梅山】ジェネラリストの養成を、今また分かりませんけど、劇場創造アカデミーを立ち上げたときはおっしゃっていて。思い返すと学芸大のときもそういう方針だったと思うんですよね。なので、学芸大学は演劇のコースはあったんですけど、座学中心なので、実技の授業っていうのは基本的になかったんです。
私が2000年に入学して信さんが教え始めたときに、カリキュラム改編になって、表現コミュニケーション専修っていうものができるんですけど、それもやはり実技とか作品創造よりは、理論的なことを学びましょうっていうところだったんですね。
なので、実際に作品を作りたい人たちは、ゼミでやらなきゃいけなかった。授業の枠外で集まって。
それが佐藤信ゼミっていうふうになるんですけど。そこで年に2本、3本ぐらいやっていて。そのうちの2本とかは信さんの演出でブレヒトやったときもありますし、三島由紀夫やったりとか、まあいろいろやるんですね。
そのときもよく覚えているのが、私が舞台監督か何か裏方のスタッフで関わっていたときに、確かブレヒトの『イエスマン、ノーマン』とかやったときだと思うんですけど、岩淵達治先生が見に来てくださって、せっかくだからと先生囲んで、みんなで歓談の場が始まったと。でもその日、もう終演してばらさなきゃいけなくて、私だけキリキリしちゃって。時間がなんだかんだといったときに、みんなでやるんだっていうことを、ばらしとか、そういう話を聞くとか、スタッフだから同時進行でやってくんじゃなくて、みんなで作業をシェアしてくっていうことで、怒られたのを記憶していて。
何かそういうことも、もしかするとテントで培われた感覚だと思うんですよね。

【山下】そうですね、テントの設営ってみんなでやりますもんね、俳優さんも含めてね。

【梅山】そうなんですよね。テントは、自分は俳優だから稽古の時間だけいればいいとかってわけにいかないんですよね。汚れ仕事やんなきゃいけないですし、ごはんも作んなきゃいけないですし。

【山下】大事な仕事ですよね、実は、そっちが逆に。

【梅山】上演に関わるあらゆることを把握してないといけないんで、たぶん教育ってことに関していえば一貫して教えてるのかなあと。

【山下】確かに。まさに人間教育ですね、いろんなことをやる。
ドキュメンタリー作家の想田さんが『演劇』っていう作品を作られたんですが、あれも青年団の人たちがみんなトンカチ持って、建て込みっていうんですか、舞台作ったりとか、照明を作ったりとか出てきますが同じですよね。
それが全人教育ってことなんじゃないですか、もしかしたら。

【梅山】そうなんですかね。

【山下】絶対そう思う。昔はでも人間って集団で生きるときに、みんながいろんなことを一緒にやっていくっていうのは、たぶん僕は縄文時代とか弥生時代とかもそうだったような気がする。

【梅山】そうですよね。だから人間としてっていうか、考え方とか生き方っていう、人との関わり方っていうのを教わったのかもしれないですね。

【山下】ある種、超民主的じゃないですか。王様がいてね、「飯まだ?」とかじゃなくて、自分で作ろうよ、じゃあみんな作ろうって、すごくいいけどね。
それが教育ということにつながっていったのかな。

【梅山】そうですね。そういう考え方なんで、経験値とか年齢とか、そういうとこでも差別しないですし、入学したての1年生とか、それでも企画があったり、こういうことやってみたいってアイデアに対しては、ちゃんと耳を傾ける。じゃあ、それやってみようよっていうふうにするっていう。

【山下】すごいフラットな方ですね、本当に。
教育ってのは、私も今、教育事業の部署にいるのでね。
佐藤優っていう作家、知ってます? 

【梅山】はい。

【山下】同志社大学で教えていらっしゃったり、浦和高校とかでも教えてるんだけど、彼は私よりちょっと年上なんですけど、贈与の連鎖だって言うのよ、教育はって。贈与って言うのは、彼らに自分が思ってることを伝えていって、彼らから何ももらおうと思わない。彼らが次の世代に伝える。
よく僕らも先輩と行って、昔先輩が「山下、金出しちゃだめだよ。俺がおごってやるから。おごってもらったやつは、お前の後輩におごり返せ」。まあ、そういうことなのかもしれないなっていうふうに、教育ってことを思っていて。
梅山さんも教育者でもあられるので。

【梅山】いやあ、私はまだそんなに贈与できるような贈与物がないので。どちらかというと近大(近畿大学)で得たもののほうが大きいですね。

【山下】でも学生とかかわっていると彼らから、いろいろと学びません?

【梅山】学びまくりというか、特に近大ではそれが大きいですね。関西の学生たちの反応の良さってありますよね。

【山下】分かる、言葉がかぶるぐらいのスピード感ね。

【梅山】分かんないと、分かんないって顔するじゃないですか。つまらないと途端に眠くなるっていうのが、関東のほうの学生よりも遠慮なく出す。

【山下】我慢が足らへんっていう話もあるけどね。

【梅山】また特に近大で、文芸の舞台芸術って実践のとこなんで、ダンスとかでわちゃわちゃやって、座学の私のとこに来たらへたれてるんで。

【山下】彼らの文芸の何学部、学科ですか。

【梅山】芸術学科の舞台芸術専攻っていう。

【山下】じゃ、そういう人たちは基本的には舞台をやったり、俳優やったりとか。

【梅山】そうです、芝居やったり、ダンスの稽古したりとか。座学でちょっと単位がってことで私の授業に来るので。休憩の時間になるようなこともあるんですけど、そういう子たちでも、ちゃんとこっちがかみ砕いて言えば、大事なことはこういうことだっていうのをきちんと伝えれば、ちゃんと拾ってくれるんですよね。
どういうふうに言えば伝わるのかってことを、最初の1、2年ってかなり模索して、それを経て、結構文章の書き方とか、特に講演会とかでの話し方がかなり変わったようで。分かりやすくなったっていう。

【山下】先生、分かりやすいでー、って、言うてるのかな?

【梅山】でも本当に最初期に早稲田で非常勤やってたときに教えてた学生の子が、近大に赴任して2年経ったときに、すっごい分かりやすくなったって、お褒めいただきました。

【山下】あっ、ほんまに。早稲田の教え子に。その人はそれをまたあとで見たんですか、授業を見に来たんですか。

【梅山】また別の一般向けの講演会か何かで再会して。

【山下】先生、上手なってるよー、みたいな。

【梅山】上手くなった。

【山下】大阪人に鍛えられてるじゃないですか。

【梅山】鍛えられますねえ、大阪人は。

【山下】ストレートやからね、ある種。

【梅山】分かりやすくていいですね。

【山下】めっちゃ分かりやすいからね。結構きついことも平気で言うでしょ。東京の人はびっくりするんですよ。そんなきっつい言葉ゆうてええんかいなー、みたいなね。東京の人が来ると、大阪の人は怖い、怖いゆうてね。怖ないやん、こんなん普通やんか言うてね。

【梅山】ちょっともう向こうの感覚になってるから、分かんないかもしんない。

【山下】逆に。梅山さんのほうが、もう大阪の感覚かもしれないですね。僕は東京のほうが長くなってる。

【梅山】気をつけないといけないですね、こっちで話すときに、ズケズケと。

【山下】いいじゃないですか。関西人、いっぱい来てるし、こっちにも。

【梅山】そうですよね。

【山下】大丈夫だと思います。
大学教育についてってことで、大阪の話とかをしてるんですけど、演劇研究者という、一応あれなので、梅山さん日々どういうかたちで演劇研究者という、教育は置いといて、どういう活動をされてるんですか。すごい興味があるんですよ。

【梅山】研究の、自分でテーマというか、そういうのがあって。例えばこういう書籍にしたいなとか、演劇博物館みたいな研究機関で共同研究、別役実さんだとかの共同研究が立ち上がるとか。

【山下】立ち上がるというのは、公募があるんですか。

【梅山】別役さんの場合は、資料が別役家から大量に寄贈されまして、それの整理。ですから、私の研究はどちらかというと、資料調査というのが特徴としてありまして。それは早稲田で大学院時代過ごした影響が大きいと思うんですね。
早稲田はその当時は、歌舞伎研究の名門というか、というようなところもありまして、西洋とか映画もあるんですけど、日本演劇だと歌舞伎、浄瑠璃っていうのがあって、そこは文献とか資料調査をベースにした作品分析を徹底してやるんですよね。
そういう中で、自分の場合は60~70年代のものではあっても、一次資料に相当する資料を探して、それを読み解きながら、その当時の上演とか、作り手がどういう問題意識を持っていたのかということを掘り起こすってのが研究方法なので、大体そういう別役さんのケースとか、信さんのケースもどちらも、ご本人たちが持っておられた資料とアクセスして。寺山修司のもあったんですけど。割とそういう資料にアクセスする機会があったので、そういう作業をコツコツと続けていって、ある程度まとまったところで研究発表するとか、論文にするとかっていうような感じですかね。

【山下】なるほどね、面白いですね。そうすると別役実に対して、どんどん興味が湧いてくるみたいなことになってくるってことですか。

【梅山】そうですね、もともと好きだったというのもあるんですけど、信さんもそうですけど、作家になる以前の学生時代とか、幼少期に書いた作文だとかってのも出てきて、そういうのはやっぱり面白いですよね。

【山下】人の一生に寄り添うみたいな感じですね。
なんか昔の日記が出てきたら読むみたいな感じですよね。

【梅山】まさに別役さんのは日記を読ませていただいていて。結構マメに、学生時代とか20代の前半ぐらいまでは、創作ノート兼日記のようなかたちで。どこまでが日記か分からないところもあるんですけど。

【山下】別役さんの日記があるんですか、面白いですね。手書きですよねその頃って。

【梅山】手書きなんですね。

【山下】手書きのやつを丹念に読んで。
ということは、いろんな資料があるとそれをテーマにして、いろいろ研究してみようかっていう。
じゃあ、読むのがほとんど仕事っていう感じですか。

【梅山】もともとそういう博物館に関心があったんですよ、学生時代。

【山下】学芸員的な?

【梅山】そうです、そうです。なので、信さんの授業出たりして演劇の勉強もしてたんですけど、博物館学芸員の授業も4年間みっちりやっていまして、そのときに出会った学芸大の社会学の先生から、かなり影響を受けたんですよね。その先生なんかも、あとあと実は黒テントに影響を受けていたと分かるんですけど。その先生が戦争と博物館というような、戦争遺跡みたいなものですよね、それをどのように後世が時に利用したり、記録として残していったりというようなことをテーマにしてるような先生だったので、すごくその当時の自分の関心にピタッとはまったんですよ。
そういう関心が基本としてあるので、どっちかというと資料調査っていうものが、自分にとって一番しっくりくるっていうことですね。

【山下】それはたとえば演劇博物館に行って、資料がわあーと家にもこうやっていっぱい資料があって、それを読み込んでいらっしゃるって感じですか。

【梅山】そうですね、もう論文2カ月後までにまとめたいとかとなったら、ひたすら。それは私以外の研究者の方もそうだと思いますけど、当時の資料・チラシとかも含めて。あとは雑誌だとか、あらゆる関係するものは目を通してくってことですね。

【山下】いやあ、すごいなあ。
細部に突っ込んでいく力ってのは、なかなか僕は飽き性なんで、途中で飽きそうだなと思いましたね。

【梅山】でも根詰めているんだなっていうのは、最近分かりました。今までこれが普通だと思ってたんですけど。

【山下】むちゃむちゃ根詰めてると思います。この前、劇作家の長田育恵さんとか古川健さんとかとも話していたけど、資料の読み込み、すごいんですって。

【梅山】長田さんもすごいんじゃないですか。

【山下】こんなにもう、段ボール何箱にもなるっておっしゃってて。

【梅山】長田さんは師匠の井上ひさしさんからそこは継承して徹底して、書く時、評伝物をやるときなんか特に読み込むっていう。

【山下】それと同じようなことを梅山さんもやってらっしゃるんですよね。

【梅山】でも楽しいですね、やっぱり。

【山下】それが仕事になっているからいいですよね。
それって、近大の先生のあれで、シラバスみたいなの書くんですか、毎年。私は今年はこれやります、業務計画書みたいな。

【梅山】自分の研究計画については、授業と全く関係ない。

【山下】そこは割と自由にできるんですね、それはいいですね。

【梅山】大学が気にするのは、別に日々そういう研究活動してるかどうかってよりは、結果として論文書いたのかとか、社会的に公開をちゃんとしてるかどうかってのを問われますから。

【山下】じゃ結果オーライと。何にもしてないと、お前何にもしてないんじゃないかってだめになっちゃうってことですね。

【梅山】どんなに一生懸命毎日、本を読んでても、何も発表してなければ、っていうところなだけで。

【山下】熱心な読書家でしかなくなってしまう。
だから発表して、発信するってことが大事だと。

【梅山】大事ですけどね、まあそんなに量産できるものではないので。

【山下】佐藤信さんも発信者でもあるし。この人たち、超量産してるし。

【梅山】ただ結構これは、近年またあまり言われてないですけど、ちょうど私が大学院とか博物館で助手をやってたころに、小保方晴子さん問題みたいなのが出たじゃないですか。話、全然脱線しますけど。「STAP細胞あります」っていう。あれはまさに今言ったような、研究成果をどんどん出せっていう弊害ですよね。

【山下】そのジレンマで出しちゃった。

【梅山】時間が本来かかる、山中伸弥先生なんかもそう言ってるじゃないですか。
そこの結果にいくためには、何回も失敗して、何年もやんなきゃいけないのに。こうすればこうなるっていう、まるで成果がもう出るっていうようなのを前提にして助成金の申請書とか研究計画書、書かないとお金がもらえないっていうのはおかしい。それが若手研究者に、ああいう不正っていうものをさせてしまう、のだと私は思います。

【山下】それは分かります。そういうようなことが現実としてあるってことですよね。
予算がないと、研究活動すらできなくなってしまうってことですね。

【梅山】なきゃだめと思ってもいけないと思うんですよね。それも違うとは思うんですけど。
ただ科学研究費とかっていうので研究テーマを掲げることで、いろんな人に参加してもらうとか、それで共同研究としてより広く活動を展開できる、そういうものとしてはすごく重要なことだとは思いますけどね。

【山下】研究者という人とあまり話すことがないので面白いです。

【梅山】そうですか。これも自分にとって当たり前だと思ってた。やっぱり特殊な感じですね。

【山下】僕は普通の民間企業で、映像コンテンツ作ったりしているだけなんで。
家でずっと本こうやって、じっくり読んでいくと途中で飽きないかなって、すごく思います。だからすごいと思います、それは。才能ですね。

【梅山】いやいやいやいや。

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担当者:伊藤ゆみ子

この度はご依頼いただきまして、誠にありがとうございました。
作家の方や研究者の方が、大量の本や資料に囲まれて、根気よく読み解いていかれる姿が思い浮かびました。私が段ボール何箱もの資料の中に置かれたら、どうやって逃げ出そうか考えると思います。
文字起こしも根気のいる作業ですが、先生方の作業を想像すると、何倍も何十倍も大変な作業であると想像できます。その根気を見習っていこうと思いました。
またのご依頼を、心よりお待ちしております。

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