マスクは感染防止に役立たないの?
2022/9/18 追記しました
背景と動機
日本は新型コロナウイルスの流行第7波で同時期の新規感染者数世界一と言う不名誉な記録を作ってしまいました。これに伴い「日本ではマスク着用率が高いはずなのに… マスクって感染防止に役立たないんじゃね。」と言う意見が SNS などに登場するようになりました。確かに、私もそのように感じないわけでもありません。
この矛盾した状況を説明できる仮説はいくつか思いつきます。その中で一番怪しいと感じているのが「みんなが使っているマスクってものすごく漏れているのでは?」と言う仮説です。インターネットで調べたら、ちょっと衝撃的な情報が見つかりました。
あ、もちろん不織布マスクのことです。布マスクとかウレタンマスク、さらに鼻出しとかアゴは論外ですから。まぁこう言ったスタイルも「マスク着用」にカウントされるなら「矛盾した状況」の原因なのですが、一番怪しい訳ではありません。
前回の新型インフルエンザのパンデミック時に公的機関が情報提供していた
「平成21年度独立行政法人 国民生活センター 業務実績報告書」の「2.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するためとるべき措置」・「(2)国民への情報提供の強化」・「調査分析及び商品テスト等の結果に関する情報提供(計63件)」(p.21) の No.38 に以下の内容がありました。
本家ではありませんが、もう少し詳しい情報もあります。これによれば 15銘柄(プリーツ型9銘柄、立体型6銘柄)を対象にテストした様です。
「すべての銘柄で平均漏れ率が 40% 以上」と言うのは実に衝撃的です。周囲の空気中に漂っているウイルス微粒子などが、平均で4割以上素通りしているのですから。「99% カットフィルター」が使われていても、ほとんど意味が無いことになります。また「平均 40% 以上」なので、もっと多量に漏れているものがテストした内の半数程度あったはずだ、と言うことになります。
さらに衝撃的なのは、今回新型コロナウイルスのパンデミックに呼応する形で上記の「要望した」のフォローアップなど国民生活センターが何かアクションを取った形跡が無いことです。どう考えても「今でしょ!」の話題のはずなのですが。私が見つけられなかっただけ、と言う可能性はもちろんありますけど。
上記情報提供が行われた平成21年 (2009) 11月は前回の新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行の最盛期でした。
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10/dl/02-01-02.pdf
(p.110 図 1-2-3)
メキシコで最初に感染が見つかったのが同年4月下旬なので、それから半年程度で上記のような現物テストを含めた対応がなされています。一方新型コロナウイルスのパンデミックはもう既に2年を超えました。
「漏れ率」には注意が必要
最初私は「漏れ率」を「マスクと顔の隙間から漏れている呼気・吸気の割合」と言う意味でとらえていましたが、これは間違いでした。正解は以下のようにマスク内に漏れ込んでくる粉じん粒子の割合のことです。
(以下 Web の Q&A どのようにして漏れ率を求めているのですか?)
フィルター部分を通過してしまった粉塵粒子も含まれるので、マスクの総合性能と言うことができそうです。
(数値が大きく、100% に近いほど性能が低い)
実は和歌山産業保健総合支援センターが類似の情報を最近出していた
さらにインターネットを探して以下の情報が見つかりました。
https://wakayamas.johas.go.jp/archives-information/information-others/ (「R2.4 サージカルマスクのテスト結果」を見てください)
「サージカルマスク」は本来医療用マスクですが、話題にしている漏れに関しては一般人が使うマスクとほとんど差が無いと考えています。
どこまで漏れ率を低減させられるか調べるため「テスト2」でマスクを両面テープで張り付ける方法を試しています。これなら6~10%まで下がりますが、日常的に実施できる方法ではありません。
それよりは現実的な方法として「テスト3」で装着方法を変えた場合を調べています。
③の装着部位で漏れ率が一番少なく、概ね10%程度と言うのがここの結果です。しかし「マスクの端を顔に押し付け、入念に隙間を無くして…」の効果がかなり大きいのではないかと思われます。
逆に「入念に」隙間を無くさないと漏れ率は下がらない、と読むべきなのではないでしょうか。テスト1の結果が多くの人の実情に近いのかもしれません。
そして、この情報は以下のように結ばれています。
どの位の漏れ率なら許せるのか
漏れ率は低ければ低いほど良いのは間違いありませんが、ゼロにできないので、現実的にはある一定の数値で線引きすることになります。
例えば新型コロナウイルス感染者に対応する医療従事者が使う N95 マスクでは、漏れ率 ≦ 1% が定量フィットテストの合格基準です。
https://square.umin.ac.jp/fittest/pdf/ft_text.pdf (p.29 表5 FFと漏れ率)
このことから以下のように考えるのが良さそうです。
基本方針: マスク内に入ってくるウイルス微粒子の量が、医療現場で N95 マスク使用している時の最大値と同じかそれ以下なら許せる
例えば漏れ率 5% のマスクだったら、それを使う場所のウイルス微粒子濃度が、N95 が必要とされる場所の最大値の 1/5 以下なら許せる
同様に、漏れ率とウイルス微粒子濃度(要 N95 の場所との比率)は:
漏れ率 10% なら N95 比 1/10 以下
漏れ率 20% なら N95 比 1/20 以下
⁞
漏れ率 90% なら N95 比 1/90 以下
漏れ率100%(ノーマスクと同じ)なら N95 比 1/100以下
以上は理論的な考え方です。現実の場面で自分が使っているマスクの漏れ率、およびどの様な状態が「N95 比 1/xx 以下」なのかと言うのはどちらも簡単に分かるものではありませんが… 一応の目安として、何も無いよりマシではないかと思います。
また感染リスクが高い場合について、N95 マスクの使用を考える必要がありそうです。
【2022/9/18追記】
ACGIH(アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)の Web にもっとわかりやすい目安があったので、原文の英語を翻訳してみました。
上記の考え方に加え、非感染者が吸い込むウイルス量を考慮した感染が成立するまでの時間の表示になっています。
感染者のウイルス微粒子放出量や非感染者の免疫状態などにより実際の時間は大幅に変わると考えられ、あくまでも目安です。また変異により感染力が強くなった場合、全体的に時間が短くなるはずです(すべて 1/2、とか)。
なお各マスクの種類について、以下の漏れ率(防護係数の逆数)が想定されています。
布マスク: 75%
サージカルマスク: 50%
N95マスク: 10% および 1% (注参照)
N95 マスクについて
つい先ほど私も書いたように、N95 と言うと医療従事者が感染防止のために使うもの、つまり医療用と言う印象があります。しかしマスクを含む化成品最大手 3M の Web を見ると、N95 でも医療用のものとそうでないものがあります。
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/medical-jp/mask/n95/ これは医療用
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/p/d/v000062307/ これは非医療用
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/p/d/v000491569/ 日本の DS2 規格のもので、おそらく品物は2番目の非医療用と同じ
これがどう違うのか直接説明している資料は見つかりませんでした。その代わりに2021 年に制定された一般およびサージカルマスクの JIS 規格の内容から推定できそうです。
一般用には、医療用にあった可燃性と人工血液バリア性がなくなっていることが分かります。
可燃性: 着火した時の燃え広がりにくさ(電気メス使用時などを想定?)
人工血液バリア性: 患者から飛散した血液などが付着した際の染みにくさ
どちらも一般人が感染防止に使うマスクには要らない性能だ、と言う事になります。
そういう目で見ると、前述 3M の Web でも医療用にだけ「液体防護性があり、血液・体液の曝露予防にも有用です。」と言う記述があるので、N95 に関しても同様だと考えて間違いなさそうです。また従来から言われていることですが、DS2 規格マスクは N95 相当と言う事です。ただし人工血液バリア性は検証されていない可能性が高いですが、一般人の感染予防には関係ありません。
つまり一般人がリスクの高い場面で感染防止に使うなら医療用ではない N95 マスク、または DS2 規格の防塵マスクで良い、と言うことになります。これなら多くの場合医療用より安価ですし、医療関係者と取りあいになる可能性も低いはずです。
なお米国では N95 マスクの無料配布が行われているようですが、
この場合も上記の医療用ではないものである可能性が高いと思います。
N95 マスクが必要な場面
米国では N95 マスクの無料配布に伴い、それに関する様々な情報を紹介しているサイトがあったりします。CNET のそのようなページに "When do you need to use an N95 mask?" と言うタイトルで解説されていました。
公共交通機関を利用するとき
屋内の混雑した場所、または屋外でソーシャルディスタンスを保てないとき
多グループの人々とかかわりあう必要のある人
ワクチン未接種または最新のブースター未接種の人
新型コロナウイルス感染の際の重症化リスクが高い人
新型コロナウイルス感染テスト陽性の人の面倒見る人
なので日本の満員電車で通勤するときは N95 マスクを着用すべきだ、と言う事になるのだと思います。
N95 マスクは繰り返し使える?
先ほどの Web ページに興味深い解説がありました。
日本では N95 はもちろん、サージカルマスクでも使い捨てせえよと言われています。しかしそれを順守している人が聞いたら目を回しそうなことが書いてああります。
最大5回まで再利用可、ただし延べ使用時間は2~3日が限度
一回使った後、再利用まで3~4日休ませておく
洗ったりするのはダメ
"According to the CDC…" とか "CDC recommends..." とかあるので、正式見解みたいです。これに関して日本の専門家の意見を聞いてみたいものです。
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