村上春樹(小説家)#ブレインアスリートたちの日課

村上春樹は規則正しい生活で知られる小説家だ。

朝の4時頃には起床し、すぐに執筆を開始する。時には2時半や3時に目覚めても、コーヒーと何か小さいもの(スコーンを半分や、クロワッサンなど)を食べた後は、仕事に入ってしまう。

だいたい5~6時間、恐るべき集中力で朝の9時ぐらいまで執筆を続ける。朝の執筆が終わった後は、1時間ほど走るか、水泳をするかして、趣味に限りなく近いと評する「翻訳」を疲れるまでこなす。後は、本を読んだり、音楽を聞いたりしながら、夜の10時前には寝てしまう。日が暮れたら仕事はしない。この日課を変えることなく繰り返す。

村上がこの生活に入ると、毎日の原稿執筆枚数はちょうど10枚になる。

僕のマックの書式だと、二画面半で十枚。書き終わると、九時から十時くらいになります。そうしたら、もうやめてしまう。即やめる。(中略)書かない。もう少し書きたいと思っても書かないし、八枚でもうこれ以上書けないなと思っても何とか十枚書く。もっと書きたいという気持ちを明日のためにとっておく。【考える人 2010年 08月号】

自らを習慣の動物と化し、一気に作品を書き上げる。その後、執筆に要したのと同じぐらいの時間をかけて、校正を重ねる。2年で作品を書き上げたら、2年かけて、校正し、文章を研ぎ済ませていく。

こうした極めて生産性の高いスタイルで、30歳の小説家デビュー以来、40年間で70冊以上の作品を発表している。

このルーティンワークに並び、特筆すべきは、村上が5作目に発表し、累計発行部数1,000万部を超えた作品『ノルウェイの森』を書き終えた1986年以降、海外を転々としながら執筆活動をしている点だ。

社会現象にもなった『ノルウェイの森』で周囲が騒がしくなると、そこから逃れるように村上は海外に渡った。周囲に余計な気を使うことなく集中して仕事に向かうことを選んだのだ。

朝早く起きて、夜の10時前には寝る規則的な生活。しかも、海外で。当然人付き合いが悪くなるのは避けられない。それに対する村上のスタンスは明確だ。

まわりの人々との具体的な交遊よりは、小説の執筆に専念できる落ち着いた生活の確立を優先したかった。僕の人生にとってもっとも重要な人間関係とは、特定の誰かとのあいだというよりは、不特定多数の読者とのあいだに築かれるべきものだった。(中略)「みんなにいい顔はできない」、平ったく言えばそういうことになる。【走ることについて語るときに僕の語ること】

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