見出し画像

【小説】メンズエステのめぐみさん④

1話からの続編です。

4話 めぐみさんと佐藤さん (4/5)

腕時計を見ると19:00になってから30秒が経過していた。
施術されるマンションの前には5分前には着いていた。
だが、チャイムは鳴らさなかった。
ショートメールには「19:00ピッタリにチャイムを鳴らしてください」
と書いてあったからだ。
しかし、ピッタリすぎると、この人がめついと思われるのではないか?
そう思い1分経過したくらいにチャイムを鳴らそうと企てた。

「ピンポーン」
19:01になってすぐに指定されたマンションにチャイムを押す。

数秒すると扉が開き、マンションに入室できた。
指定された部屋は2階だ。
このマンションは3階建てなのにエレベーターがないらしい。
少しイラつきながら螺旋状になっている階段を上っていく。

203号室。ここだ。部屋を前にして少し緊張する。
3度目の来訪とはいえ、やはりチャイムを鳴らすときは緊張する。

「ピンポーン」

チャイムを押すと扉が恐る恐る開く。
ガチャ。
「こんにちは、どうぞこちらへ。」
彼女は消え入るような小さい声で私を部屋へ招き入れた。
ガタン。扉が閉まると、
「佐藤さんお久しぶりです。また指名して下さって嬉しいです!」
そう笑顔で言いながらドアに鍵をかける。

「久しぶりに嫁が出かけてるから来たよ。」
あくまでたまたま。そんなスタンスで会話を進める。
話しながら玄関からメインルームの方に進む。1Kのきれいな部屋だ。
渋谷からこんなに近くて築浅なのだからまあまあな賃料だろう。
「選んでくれてありがとうございます!もう来てくれないかと思ったから嬉しくて!」
「そうかい?」
早くも口元が緩まる。
「はい!だって前回デートを断ってしまったじゃないですか、、本当に申し訳ないです。お店の決まりじゃなきゃご一緒するんですが、、、」
そうだ、忘れてた、、スタイルがよくて、好みだったからまた指名しちゃったけど、水商売のくせに俺の誘いを断りやがったんだ。
「あれ?そんなことあったっけ?全然気にしてないよ。」
「そうでしたっけ?私の勘違いかも?ごめんなさい!佐藤さんって俳優の鈴木朝日みたいに渋くてかっこいいから、覚えていたんですけどね。それだけ他の人と間違っちゃったのかも!お店でしか会えないですけど、かっこいい人に指名してもらえると嬉しいんです!」
「鈴木朝日かぁ。ま、似てなくはないかもな。」
たまに言われるトレンディ俳優の名前がこんな若い子から出てくるとは。
かわいい子にかっこいいと言われるとやはり悪い気はしない。
自然と口角が上がる。

「では、本日は90分コースで18,000円です。お先にお支払い頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん。」
10,000円札を2枚渡す。
「ありがとうございます。それでは2,000円お持ちしますね。お掛けになって少々お待ちください。」
彼女はそういうとお辞儀をして玄関の方に戻る。

健康的な良い脚だ。
ここまで洗礼された脚はあまり見かけない。
細い足が好きという人が多いが、細いだけだと、足が長ければ長いほど菜箸のように見えてしまう。
しかし、彼女の脚はもちろん、太腿から腰にかけてのラインがとてもいい。
お尻は引き締まり、ヒップがツンと上を向いている。欧州人のようなハリがあり、もしも叩いたらすごくいい音が出るだろう。
一人ニヤついていると、めぐみがお釣りをもってやってきた。

身長のうち、顔が1:胴が2:脚が7くらいの比率だ。
いや、胴というよりそこは乳というべきかもしれない。そのくらい乳も大きく、胴の面積が小さい。
そして、もっと小さい顔は、ボブのお陰かより小さく見える。
目は奥二重だがとても大きい。
少し鼻は低く唇も薄いが、部屋の暗さと、赤いリップの色で相まって何とも言えない妖しさを醸し出している。

「なんでそんなに顔を見るんですか?」
「いや、めぐみさんがかわいいなと思って」
「何言ってるんですか~。佐藤さんみたいなイケオジに言われたら照れちゃいますよ~」
ほんのりとめぐみのほっぺが赤くなっているのがわかる。
「イケオジってなに?」
「イケてるおじさんって意味です。」
「俺ももうおじさんだよなー、、もう、51だしな、、、」
「若い!!確か、前回来た時に、11月が誕生日って言ってましたよね?ということは来月52歳なんですか!?」
にやにやが止まらないが悟られないように堪える。
「うん。来月の25日に52歳になる。」
めぐみはしばらく私の顔を見る。するとぬっとりと目を見ながら
「うん。やっぱり40代にしか見えない。」
あれ?口角が言うことを利かない。
「そんなこと言ったってなんも出ないんだから!」
「本気なんです。」
それでも彼女は真剣な眼差しで私の目を見つめ続ける。
リップサービスだとしても本当に言っているように感じる。
「そうなの?」
「はい。」
彼女は、急に立膝になる。
そして、私の肩に両手を置いて顔を近づけ、私の耳元で、
「私ってかっこいい人にだけたっぷりサービスしたくなるんです。」
そういうと立ち上がり、パっと明るいテンションで
「じゃあ、まずはシャワーからですね! 準備してきます!服を脱いだらそこにおいてあるタオルを腰に巻いて下さい!終わったら声かけてください!」
そういうとあっと言う間に部屋から出ていった。

佐藤が着替えをしている間、めぐみはシャワーの温度を41度に調節をしていた。
初回のお客様は必ず39度にしているが、リピートしてくれる人は温度をその人の温度に変えているのだ。
もちろん好きな温度を聞いているわけではない。そんなことを聞くのは野暮だ。もしも、聞くようなことがあれば自分から接客の質をチープにさせてしまうだけだ。
その人が出た後に何度にしているのかをメモしている。
めんどくさいことだが、こうした所をしっかりすることでリピートに繋がるのだ。

序盤は計画通りうまくいった。
これでデートに誘われることはないだろう。多分。
彼のプライドの高さと、見栄を張る癖を上手く利用することができた。
この人との勝負は終盤だ。それまでは適当に煽てておけば何とかなるだろう。
しかし、問題はその後だ。
こういうタイプは絶対に施術の終盤に性交渉してくる。
どう対処するか。まあ、無難に、佐藤の誕生日の時ならいいと期限を伸ばして対応するか。
そんなことを考えていると、
「準備で来ました!」
部屋の方から佐藤の声がした。

5話へ続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?