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ここは誰の家?(ショートショート)

 俺が仕事から帰って家に入ってみると見知らぬ女がいた。
「おかえりなさい」
「おかえりなさいってきみはだれだね」
「あら、そういうあなたもどちらさま?」
「ここは俺の家だ。勝手に入ってきては困る」
「そういうあなたこそ、勝手に人の家に上がり込んで何を言ってるの」
 そこへおさげ髪の娘が部屋の奥からやってきた。
「あなたたちはだれですか。ここは私の家よ。警察呼びますよ」
 三人が三人ともここは自分の家だといいはる。そうやってもめていると、
「あんたたちはここで何をしてるんだ」
 奥からおやじがでてきた。
「人の家で勝手に入り込んで何をしているんだ」
 四人目があらわれた。いったいおかしいのは、というより、まともなのは誰なんだ。
「とりあえず、居間で話をしよう」
 収拾がつかないので、俺がいった。他の三人もそれに従った。
「だいたいあなたたちが、俺のこの家を自分の家だと主張する理由はなんなのですか」
 俺が問いただした。
「わしの家であることを証明するのに、証拠なんぞあるか」
 おやじがいった。
 俺は勝ったと思った。土地と家の権利書を俺は持っている。そのことをいうと、三人は流石に一瞬黙ったが、
「それならそれを見せてみろ」
 といわれて、困った。どこにあるのかしらないのだ。母親が管理しているからで、まかせっぱなしになっていた。そのことをいうと、
「ほうら、嘘はいうもんじゃないよ」
 おやじがいった。
「とにかくここは私の家です。この居間にあるソファも家具も全部私のものです」
 女がそういったが、居間にソファなんてなかった。俺たちはただ車座になって座っていた。確実にこの女はおかしい。どこぞの病院から逃げてきたのではないか、と感じた。
「ここは私の家よ。おとうさん、おかあさん、早く帰ってきて」
 おさげ娘が泣き出した。

 その泣き声を聞いて、警察のおにいさんが声を掛けてきた。
「何をケンカしてるんだい。仲良くしなければだめじゃないか。おにいさんが聞いてやろう」
 俺たち4人は幼稚園年長組のともだちだ。今、レジャーシートを敷いておままごとをしている最中だったのだ。

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