カンヌライオンズ覚書き——仕組みのクリエイティブとして

今年のカンヌライオンズの受賞作から、日本ではあまり取り上げられないかもしれないけれど、気になったものについて書いておきたい。

これは、Creative Strategy部門でシルバーを獲得したポルトガルの"Filled by Palsy"のビデオ。最初に動画に登場する車椅子の男性は、こう話し始める。

「あなたは、どうすれば私を助けることができるかと考えているでしょう。でも実際には、私があなたを助けているのです」

ポルトガルでは、税の申告時に還付金の0.5%をNGOに寄付することができるが、約61%の人はその仕組みを知らない。そこで脳性麻痺の人たちをサポートするリスボンの組織APCLは、彼らに納税の手続きを修得してもらい、納税者の人々を対象に申告書記入の依頼を募った。費用は無料、ただし還付金の0.5%を寄付するという条件付きで。つまりこの施策は、脳性麻痺の人たちの仕事を生み出し、さらにそれが現実社会で機能する仕組みを提供したわけだ。

その反響や効果は、動画でも示されている。ソーシャルメディア等での反響は大きく、寄付の総額は約56,000ユーロ(730万円くらい?)となり、同組織としてこれまでの最高額となった。しかし僕は、仮に結果がもうひとつでも(たとえば告知が不十分であった場合など)、このアイデアの素晴らしさは高く評されるべきだろう。またこういった試みを取り上げていくことは、ビジネストレンドとはまた別の、カンヌライオンズの大きな意義のひとつだと思う。

ふと思い出したのが、オリィ研究所の方々が行っている分身ロボットの取り組み。こちらがテクノロジーの力で課題を解決していこうとするものであるとすれば、このFilled by Palsyは社会制度を賢くオペレーションすることで効果をあげていこうとするものだとも言えるだろう。理系文系関係なく(そういう区分自体が古いとは思うのだけど)、知恵を使えば良きことができる、はずだ。

同施策が獲得したのは、最初に書いたようにシルバー。それも凄いのだけど、アワードとしての先端性やインパクトなどを考えれば、ゴールドやグランプリなどの高みには届かなかったのかもしれない。だからといって、こういう営みを知らずにいることはもったいない。もし、何かのあなたのご参考や刺激になれば嬉しく思います。

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